太宰治「猿ヶ島」について

――まるで良品のミステリ――

■謎が解けてなお残る「もやもや」
この作品もまた、
読み出したころは訳がわからない。
物語も半ばにさしかかったところで、
ようやくおぼろげながらも
真相が見え始める。
「さすが!
 すごい!」
と読者はその手法の鮮やかさに
息を飲むだろう。

だが、
「単なる叙述トリック」の鮮やかさだけをもって
太宰はこの作品を終わらせない。
読者の心には、
真相が明らかになってなお、
晴れることのない「もやもや」が残るはずだ。

この物語の主人公たちがそうであったように、
私たちもまた、
根本的な誤解の上に、
それとは全く気づかないまま
日々を暮らしているのではないか……。
そんな疑心暗鬼に
人を誘う作品である。


【参考記事】
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by imadegawatuusin | 2009-06-06 17:00 | 文芸