書評:少年舞妓・千代菊がゆく! 花見小路におこしやす

――祇園の舞妓・千代菊ちゃんは男の子――
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■京都・祇園が舞台の異色の女装小説
主人公は京都の私立男子校・
聖ジョージ学院中等部に通う岡村美希也くん(13歳)。
学校では囲碁部に所属する
ごくごく平凡な中学1年生である。
だが、
夜になると舞妓・「千代菊」に変身し、
京都を舞台に
周囲で起こるさまざまな事件に
飛び回ることになる。

最初は、
実家がやっている置屋の舞妓が
ある日 突然失踪してしまい、
その日限りのピンチヒッターで
女装しただけだった。
だが、
新興財閥の御曹司・楡崎慎一郎に見初められ、
やめるにやめられなくなってしまう。

当初は楡崎慎一郎のことを
「天敵」とまで呼んでいた「千代菊」であるが、
彼の様々な側面を知るにつけ、
徐々に彼に惹かれてゆく。
が、
楡崎は当然、
千代菊を女の子だと思っている。
しかし「千代菊」は、
自分が本当は女でないことを知っている。
「両思いになってめでたしめでたし」というわけには
いかないのである。

加えてこの「千代菊」という舞妓は、
ものすごく惚れっぽい。
ちょっといい男が登場すると、
すぐに「旦那様」である楡崎のことなんか忘れて
ポーッとなってしまうのだ。
もちろん、
楡崎はやきもちを焼いて……
というような三角関係が
しょっちゅう繰り広げられるわけである。

私は思うのであるが、
主人公がごく普通の女の子であれば、
これほど気の多い主人公が
はたして少女小説業界で
受け入れられていただろうか。
ところが、
「主人公は実は男」という設定にしたことで、
なぜかあっさり受け入れられているあたりが
少々 不思議なところである。

また、
本書が他の女装小説と
大きく違っている点として、
「女装」に対する主人公の
意識の特殊性を挙げることができる。
女装小説の主人公には大きく分けて、
「女装が好き」という主人公
(性同一性障害者だったり、
 かわいい服装が大好きだったり)と、
何らかの事情で
嫌々女装させられる主人公とに
大別される。
しかし、
美希也の姿勢は
そのどちらとも微妙に異なる。

彼は「女装」に対する嫌悪感を
一切持っていない。
実家の舞妓が逃げたと知って、
積極的にピンチヒッターを買って出た。
舞妓の格好をすることに対しても、
特段の抵抗はなさそうに見える。

しかし一方で、
女装自体に強い思い入れを
持っているわけでもない
(特に必要のない日常生活の中で
 積極的に女装することは一切なく、
 変身するときには
 必ず何らかの目的がある)。
美希也の姿勢は一貫して、
「必要とあれば女装もする」という
徹頭徹尾 目的合理性に根ざしたものである。
そしてその意識は、
舞妓に変身した後の
「千代菊」の仕事に対する
プロ意識の高さにも通底する。

「花見小路におこしやす」は、
そんな千代菊シリーズの第1巻にあたる。
まだまだ「舞妓見習い」を始めたばかりの、
バレるかバレないかという
初々しい描写は見物である。
さらに、
京都の花街の風俗やしきたり
(例えば、
 月ごとに変わるかんざしの意味や種類)などの
かなり小難しいことなども、
筆者の奈波はるかさんが
その筆力で小説の中にわかりやすく織り込んでいるので、
一気に読ませてしまうのだ。
多くの人にぜひ手にとってほしい
一押しの女装小説である。
JanJan blog 7月17日より加筆転載)


【参考記事】
ほんのちょっぴりBLティスト♪ 一期一会の淡い恋(カノアマスミ)


《お薦め女装小説》
1.奈波はるか『少年舞妓・千代菊がゆく!』シリーズ
2.志麻友紀『ローゼンクロイツ』シリーズ
3.竹岡葉月『SH@PPLE -しゃっぷる-』シリーズ

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by imadegawatuusin | 2010-07-19 22:15 | 文芸