愛知製鋼事件和解の意義(弁護士 中谷雄二)

名古屋ふれあいユニオンの機関紙・
「NFUふれあい通信」(128号)に、
名古屋共同法律事務所の中谷雄二弁護士による、
「愛知製鋼事件和解の意義」と題する解説記事が
掲載されました。

以下に転載いたします。


愛知製鋼事件和解の意義
弁護士 中谷雄二

【1】
去る7月17日、
愛知県労働委員会において
名古屋ふれあいユニオンが
愛知製鋼を相手に、
団交拒否の不当労働行為救済申立を
していた事件について
和解が成立しました。
この和解が労働運動にとって
どのような意義があるのかを
簡単に説明します。

和解条項は、
5項から成っています。
第1項で会社側と労働組合側双方が
労働組合法を尊重するという合意を
しています。
法律を遵守するのは当たり前ですが、
この事件が労働組合法7条2号の
不当労働行為にあたるとして
救済が申し立てられている以上、
そこで労働組合法を守るというのは、
実質的には企業側に
今後同種の行為を取ることがないようにと
求めたことになります。
勿論、
命令ではなく和解である以上、
「双方」が主語となっていますが、
労働組合法は、
憲法28条の労働基本権(労働三権)を
実現するために設けられた法律です。
この法律の尊重を求められるのは、
この法律によって組織し、
団結を擁護された労働組合ではなく、
使用者であるというのは
当たり前ではないでしょうか。
その意味で、
第1項でこの基本を約束したことは、
この和解が労働組合を尊重し、
団体交渉権を尊重することを
確認したものとして
重要な意味があります。
今回の和解の基本的な性格を
示したものと言えます。

【2】
第2項が
今回の和解の中心部分です。
第2項は、
「被申立人は、
 申立人から、
 被申立人構内で就労する
社外労働者である申立人組合員に関して
協議の申し入れがあった場合、
確定した最高裁の判例にしたがい、
被申立人が労組法7条2号の使用者に
該当するときは、
協議に応じる。」と定めています。
まず、
この協定が協議の対象としている労働者は、
「被申立人(愛知製鋼)構内で就労する
 社外労働者」です。
ここでは
契約形式として請負契約であろうと、
労働者派遣であろうと
その形式如何にかかわらず、
要件を満たした場合には、
協議に応じるとしています。
愛知製鋼にかぎらず、
多くの供給先(派遣先)は、
「雇用関係にない」という一言で、
団交を拒否してきます。
愛知製鋼事件も同様に
「雇用関係にない」という回答で、
団交が拒否され、
本件申立に至りました。
派遣先を相手に
団交拒否で争っている多くの事件は、
ほとんど同様の構図です。
雇用関係にないという
形式的理由による拒否は
許されないとしたのが、
この条項の前半の意味です。

【3】
後半に
「確定した最高裁の判例にしたがい、
 被申立人が労組法7条2号の使用者に
 該当するときは」と
条件が付いています。
確定した最高裁の判例とは、
朝日放送事件最高裁判決です。
和解協議の過程では
朝日放送事件最高裁判決と明記する案が
でていました。
事件名は明記されなくなりましたが、
当事者双方の念頭にあったのは、
朝日放送事件最高裁判決でした。
そして、
この朝日放送事件最高裁判決は、
社外労働者を受け入れていた
供給先(派遣先)が
「雇用主と部分的とはいえ
同視できる程度に
現実的かつ具体的に
支配、決定することができる地位に
ある場合には」
団体交渉に応じる義務があるとしました。
これを偽装請負や違法派遣の場合に
あてはめるなら、
例えば、
直接雇用を派遣労働者が求める場合に、
それを決めることができる地位にあるのは、
供給先(派遣先)しかありません。
このような朝日放送最高裁判決の理解
(龍谷大学の脇田教授が
 朝日放送事件最高裁判決について
 大変説得的な鑑定意見書を書いています)
に立って、
組合側は、
この条項は、
派遣労働者(偽装請負で働く労働者)にとって
前進だと受け止めました。

【4】
もちろん、
この条件に当たるかどうかについて、
愛知製鋼と組合側で
解釈が分かれることはあるでしょう。
しかし、
この条件にあたるかどうかは、
これまでの「雇用関係にない」という
形式的な理由ではなく、
実質的な関係に立ち入った判断を
要する事項ですから、
この要件に当たるかどうかを巡って、
まず、
協議が行われることになるでしょう。
仮にこの要件にあたらないという対応に
会社が固執した場合には、
今度は、
実質的に判断するために
労働委員会に申立をすれば良いのです。
その際の申立は、
いきなりこの和解条項を基本にして
和解条項違反にあたるかどうか、
労働者と使用者の間の実質的な関係が
労組法7条2号にいう「労働者」「使用者」に
あたるかどうかを
議論することになります。

和解は労働運動にとって
闘いの一過程です。
その結果、
労使の紛争がなくなり
完全に円満に行く場合もあれば、
警戒心を解かず、
その和解を武器にして
闘いが進められると判断できる時には、
積極的に和解し、
闘めることもあります。
このような判断から
派遣先(供給先)に団体交渉を求める上で、
この和解条項第2項は、
大きな武器になると判断した結果、
和解に応じることにしました。

【5】
今回の和解は最後まで
決裂の可能性をはらんでいました。
それは、
和解条項の口外禁止条項を
入れるかどうかを巡ってです。
和解は労働運動の闘いの一環です。
その際、
勝ち取った成果を公表できないようでは、
労働運動全体に
反映させることはできません。
そのため、
組合側は最後まで
口外禁止を認めないという姿勢で
一貫していました。
解決金の金額に限って
口外しないというのは良いが、
全ての和解条項の口外禁止条項は
絶対認めない。
企業側がそれに固執するなら、
和解は決裂させ、
命令をもらうという点で
組合と弁護団の意見は
完全に一致していました。
その結果、
今回の和解は
解決金の金額を
口外しないというだけにとどめ、
労働運動にとって重要な成果である
その他の条項については、
何の制約も付けさせませんでした。
これも運動の成果を共有するという点で
重要な意義があります。

【6】
最後に、
和解は当事者双方の譲歩によって
成立します。
その意味で組合の要求が
100%とおったものではありません。
他方、
命令によっては得られない成果も
盛り込むことができます。
今回の和解では
愛知製鋼が
解決金を支払うという約束をしたことが
この和解の性格を物語っています。
この事件は、
節目節目に何度の和解が試みられました。
組合は一度たりとも
金銭的解決を
第一要求にしたことはありません。
しかし、
本件の審理を通じて労働委員会も
本件は解決金の支払いなしで
終わらせる訳には
いかないということから、
解決金の支払いを含めた
和解解決となりました。

証拠調べ前の和解案の水準に比較しても
実際に成立した和解条項は
遙かに前進していると評価できます。
後は、
この和解条項をどう職場に生かすかです。
愛知製鋼で働く
名古屋ふれあいユニオンの組合員からの
団体交渉の申し入れが行われる時こそ、
この和解条項が生きる時です。
勝ち取った成果を武器に
粘り強く柔軟に闘ってください。
それを期待しております。


【参考資料】

和解協定書

名古屋ふれあいユニオン(以下「申立人」という。)と
愛知製鋼株式会社(以下「被申立人」という。)との間の
愛労委平成19年(不)第7号・
平成21年(不)第4号併合
不当労働行為救済申立事件(以下「本件」という。)について、
両当事者は、
愛知県労働委員会の
本件担当委員立会いのもとで、
別記条項のとおり
和解により解決することに合意したので、
本協定を締結する。

以上の合意の成立を証して、
両当事者及び立会人が
署名(又は記名押印)し、
申立人、被申立人及び
愛知県労働委員会が
各1通を保有する。

平成22年7月12日

申立人
名古屋ふれあいユニオン 運営委員長 酒井徹
代理人弁護士 高木輝雄
       中谷雄二
       森弘典
       塚田聡子

被申立人
愛知製鋼株式会社
代理人弁護士 近藤尭夫

立会人
愛知県労働委員会
公益委員  中舎寛樹
労働者委員 小林宏
使用者委員 柴山忠範

(別記)
和解条項

1 申立人及び被申立人は、
  労働組合法を尊重する。

2 被申立人は、
  申立人から、
  被申立人構内で就労する
  社外労働者である
  申立人組合員に関して
  協議の申し入れがあった場合、
  確定した最高裁の判例にしたがい、
  被申立人が労組法7条2号の
  使用者に該当するときは、
  協議に応じる。

3 被申立人は、
  申立人に対し、
  本件の解決金として
  金……円を、
  申立人の指定する口座に
  振り込む方法で支払う。 

4 申立人及び被申立人は、
  前項の解決金額を
  第三者に口外しない。

5 申立人は、
  本協定成立と同時に、
  本件申立を取り下げる。


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by imadegawatuusin | 2010-08-07 11:07 | 労働運動