新しい社会主義像を求めて

――『民主主義的社会主義運動 綱領・規約』を読む――

本書は、
旧親ソ派の流れを汲むある左翼党派の
結成宣言や綱領・規約を収録したパンフレットである。
この党派は2000年に、
ソ連崩壊の総括の上に自らの組織を一たん解散した上で、
新しい社会主義像を提示して現在の組織を再結成した。
本書の中で示されるソ連崩壊の総括、
そして目指すべき社会像としての
「民主主義的社会主義」は、
私たち社会民主主義者にとっても
示唆に富んだ内容を含んでいる。

私たち社会民主主義者は、
資本主義社会の中からの
漸進的な社会主義への移行を主張する。
しかし、
昔と違って今の社会民主主義政党は、
産業の国有化などの政策は
それが必要な場合を除いて主張しないし、
また、
経済における市場の機能も評価しており、
中央集権的な計画経済を良しとしない。
産業の国有化も計画経済も否定し、
市場を認める私たち社会民主主義者は、
では一体、
今の資本主義社会の中から
どのような社会主義を目指してゆけばいいのだろうか。

そのことを考える上で本書が有益なのは、
本書もまた、
産業の国有化を
社会主義社会建設における必須のものとは考えておらず、
経済における市場の機能を認めているからである。
本書は、
社会主義とは
社会のあらゆる領域における民主主義の徹底、
とりわけ経済の領域における
民主主義の徹底であると主張する。

はやい話が職場において
労働者主権を実現するということだ。
各部署の上長はもちろん、
社長や役員も従業員による民主的な選挙によって選出し、
会社の運営方針も
従業員による討議・多数決で民主的に決定する……。
そんな、
労働者自らが共同で生産手段を所有し、
経営を含めて協同労働に従事する
労働者協同組合(ワーカーズコープ)のような
企業形態もまた、
「生産手段の社会化」の一形態と考えられ、
社会主義社会の重要な要素とされている。

この党派がこうした見解に立つに至ったのは、
旧ソ連をはじめとする「社会主義国」崩壊を
次のように総括したからに他ならない。

社会主義世界体制崩壊の原因は、
非民主主義的政治制度と
それと表裏一体の
統制的指令的経済制度であった。
労働者はこのような制度の下で、
自主的、創造的意欲を失い、
帝国主義との軍事、経済競争の中で、
旧来の社会主義は崩壊したのである。
(本書2ページ)


この党派は旧ソ連派の流れを汲むにもかかわらず、
旧ソ連をはじめとする
「社会主義国」の政治・経済制度を
次のように痛烈に批判する。

解体した社会主義国では、
生産手段の国有化イコール社会主義と
とらえらえていた。
しかし、
党官僚支配の国有企業は、
搾取自体は存在しなかったものの
生産者たる労働者による意思決定が
なされなかった。
(本書8ページ)


ソ連邦政治制度においては、
労働者・国民は実質的に一切の発言権を持たず、
共産党政治局を中心とした党官僚がすべてを決定し、
政府、議会はその決定を追認するにすぎなかった。
共産党内においては
反対意見は組織的・行政的に排除され、
実質的討議はなされず形式的満場一致で終わり、
党内民主主義の根本である思想闘争の権利は
保障されなかった。
このような非民主主義的政治制度が
帝国主義の包囲下ということで正当化された。

また、
このような非民主主義的政治制度の下で、
国有化企業は労働者から自主性、創造性を奪った。

統制的指令的経済制度の下、
企業の生産活動の全てが
国家の丸がかえのもとでなされ、
労働者がどのような質の製品を作ろうと、
どのように生産性をあげようとも
労働者の待遇に無関係なシステムの下、
労働者は自主的・創造的意欲を失ったのである。

ソ連邦をはじめとする社会主義国においては、
資本主義的私有制度が廃棄され、
搾取制度が廃止された。
しかし、
労働者が自主的に意思決定できるシステムでは
なかった。
崩壊した社会主義は、
資本主義を否定したが、
生産手段の真の意味での社会的所有を
実現していなかったのである。
この弱点が、
帝国主義との軍事・経済競争の中で、
社会主義世界体制を崩壊させたのである。
(本書5ページ)


こうした総括のもとに、
本書が提言するのは次のような社会像だ。

つくられるべき民主主義的社会主義においては、
生産者たる労働者が生産手段を所有すると同時に、
企業の管理・運営に責任をもつことでなければならない。
協同組合、国有企業、公営企業、など
生産手段の所有形態は様々あるが、
労働者の意思決定が貫かれているか否かが
社会的所有の核心なのである。
この徹底した社会的所有の下で、
商品価格、数量は中央計画ではなく、
市場によって決定されることとなる。
もちろん、
市場経済ですべてが決定されるのではなく、
教育、福祉、医療などは
政府が責任を持つ分野である。
また、
金融市場、労働市場に対する民主的規制も
強化されなければならない。
(本書8ページ)


こうした社会を実現するためにはどうすればいいのか。

社会主義実現のためには、
議会多数派形成を通じた
立法による多国籍独占資本の規制、
労働運動による職場からの資本への規制、
地域住民による自治体の民主的変革が必要である。
つくられるべき社会主義は、
議会多数派の形成によって
一挙に達成されるものではない。
グローバル資本主義への規制を強めるとともに、
資本主義の下で
社会主義の準備を進めていかなければならない。
協同組合建設、地域の民主的変革、
職場の民主的変革を通じて、
社会主義社会を準備していくのである。
(本書9ページ)


普通選挙に基づく議会制度や言論の自由・結社の自由が
一定実現している地域においては暴力革命を排し、
不断の社会革新が積み重ねられるべきであるとするのが
私たち社会民主主義者の基本的な考えだ。
本書の路線は
社会主義を目指す手段の点でも
私たちの参考となる。

そして本書ではとりわけ、
労働者協同組合の建設に、
社会主義社会実現における
特別の役割が与えられている点が
注目に値する。

失業に対して積極的に雇用をつくりだす立場から、
協同組合を建設することが必要である。
また、
生産手段の所有者が同時に労働者である協同組合は、
将来の民主主義的社会主義の準備の一環として
位置づけなければならない。
(本書11ページ)


本書は高らかに宣言する。

民主主義的社会主義は
長期かつ世界的変革過程だということである。

……しかもこの過程は
一国的な変革過程ではなく、
世界的な変革過程でなければならない。
グローバル資本主義を規制していくのは
全世界の労働者・人民の課題である。

……多国籍独占資本のグローバル資本主義に
反対する人々、
首切りを許さず労働者の権利を擁護する人々、
あらゆる人権侵害を許さず
平等を実現しようとする人々、
環境破壊に反対する人々、
これらの民主主義的勢力が統一して闘うならば、
民主主義的社会主義は実現しうる。
(本書9ページ)


旧ソ連派の構造改革路線である
この「民主主義的社会主義」と、
私たちの社会民主主義が「統一して闘う」ことが
可能かどうか、
それは双方の現場での実践にかかっている。
JanJan blog 8月17日から加筆転載)

『民主主義的社会主義運動 綱領・規約』
評価:4(良い)


【参考記事】
『社会民主党宣言』を読む
小牧治『マルクス』について
レーニン「マルクス主義の三つの源泉と三つの構成部分」を読む

『唯物論哲学入門』(森信成)を読む


wikipedia「民主主義的社会主義運動」
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by imadegawatuusin | 2010-08-17 10:33 | 政治