小牧治『マルクス』について

――人と思想、コンパクトにまとめた入門書――
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■「社会主義国」への批判的視点の欠如が難点

本書は、
「科学的社会主義」の創始者・カール=マルクスの
伝記である。
1966年に出版されたということもあり、
いささか「古さ」を感じる部分がないわけではない。
「こんにちの世界の三分の一が、
 すでにマルクス主義による社会体制をとっている」
などという記述が
アッケラカンと出てくるのを見ると、
時代の違いを感じずにはいられない。

特に、
当時存在したいわゆる「社会主義国」に対して
批判的視点が抜け落ちている点には驚かされる。
たとえば本書は、
マルクス主義を称揚する趣旨で、
こんなエピソードを紹介するのである。

わたしが、数年前、西欧のある大学にいたころ、
自由主義圏のなかのかれら学生たちも、
ねっしんにマルクス主義を勉強していた。
かれらは、
マルクス主義に対してどういう態度をとるにしろ、
とにかく、
この主義をよく勉強しなくては、という思いに
せまられていた。
そうでなければ、
世界の平和の問題を論じる資格はない、と
考えているようだった。


「だからマルクス主義はすごいんだぞ」という意味で
書かれた文章なのであろう。
が、
今にして思えば、
このエピソードは「社会主義圏」ではなく、
むしろ自由主義圏の強さのひけつを
示すものだったのではなかったか。
国家としては資本主義体制をとりながら、
マルクス主義の学習や研究を大いに許容し、
学生たちが
こぞって対立陣営の主義主張を学ぶことを許すような
懐の深さは、
残念ながら当時の「社会主義国」では
全く考えられなかった。
一党独裁の支配体制の下、
学問の世界までが統制的・指令的に一元化される傾向が、
ソ連をはじめとする「社会主義国」の
決定的な弱点となったのではないかと
私は思う。
本気で社会主義の実現を目指すなら、
その大前提として、
自由や多元性をいかにして制度的に保障してゆくのかを
今後は考えてゆかなければならないだろう。

とはいえ、
本書がマルクスの全体像をつかむ上で
便利な入門書であることは間違いない。
朝日新聞社が発行した『マルクスがわかる。』では、
「マルクスの人となりを伝える書簡や
 エピソードなどを交えながら、
 彼の生い立ちから死までがその著作との関連で
 コンパクトに解説されている」と紹介されている。


【本文校訂】
本書62ページ6行目に
「ドクトル=クブラ」という記述がある。
だがこれは、
本書61ページの表題や62ページ10行目にあるとおり、
「ドクトル=クラブ」の誤りであろう。

小牧治『マルクス』清水書院(評価:3)


【参考記事】
『社会民主党宣言』を読む
新しい社会主義像を求めて
レーニン「マルクス主義の三つの源泉と三つの構成部分」を読む

『唯物論哲学入門』(森信成)を読む

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by imadegawatuusin | 2011-09-03 11:16 | 政治