――『涼宮ハルヒ』シリーズと『なぞの転校生』――
■「この世界」へのこだわり 少年向けの大人気小説・『涼宮ハルヒの憂鬱』で、 「不思議なこと」に興味津々の涼宮ハルヒが 「謎の転校生」の転入を心待ちにしている場面がある〔注1〕。 ハルヒはなぜ、 「謎の転校生」が転校してくるのを待望していたのか。 その答えがSF作家・眉村卓の代表作・ 『なぞの転校生』である。 ハルヒはこの本を読んでいたはずだ。 本書に登場する「なぞの転校生」・山沢典夫の正体が、 ハルヒが会いたがっていた「異世界人」なのである〔注2〕。 美形の上に勉強もスポーツもよくできる 転校生の山沢典夫は、 どこか「ふつうではない」。 妙に神経質なのだ。 エレベーターが止まっただけで慌てふためき、 核実験の放射能が含まれていると言って雨を怖がり、 頭上をジェット機が通っただけで逃げ出してしまう。 それは山沢典夫が、 核戦争で破滅的な最後をむかえた別の世界からやってきた 「次元放浪民」だったからだった。 優秀だが臆病で神経質な山沢やその仲間は、 あちこちでやっかいごとを引き起こしてゆく。 結局この世界での定住をあきらめて、 またもや別の世界に移っていこうとする 「次元放浪民」たちに、 本書の主人公・岩田広一は こう問いかけるのである。 「そういうふうにつぎからつぎへと 別の世界に移っていって、 それでおしまいには どこか理想の世界が見つかるんですか?」、 「理想の世界なんてものは、 ほんとうにあるんでしょうか?」、 「理想の世界なんて どこにもないんじゃないでしょうか。 ぼくはそう思います。 いや、 そう思わないと、 ぼくたちのようにこの世界でしか生きられない人間は、 どうしようもないんじゃないでしょうか。 典夫くんやみんなは、 なまじっか次元から次元へ移れるから、 より好みをしてしまうんです。 そうじゃないでしょうか」……。 ここには、 『涼宮ハルヒの憂鬱』や、 その続編の一つである『涼宮ハルヒの消失』で 繰り返し主題となってきた 「世界選択」の問題が提起されている。 『涼宮ハルヒ』シリーズの主人公・キョンは、 『~憂鬱』では、 「今よりもっと不思議な世界」より「この世界」を、 『~消失』でも、 「今よりもっとまっとうな世界」より「この世界」を 選択した。 仲間と共に、 「この世界」を生きてゆくことに、 『涼宮ハルヒ』シリーズはこだわりをもつ。 そこに、 少年向けSF作品の先行作とも言うべき 本書・『なぞの転校生』の影響を見るのは 私だけではないはずだ。 「今よりもっとよい世界」を求めて放浪を続ける 「次元放浪民」たちには 悲惨な結末が待っていた。 命からがら再び「この世界」に戻ってきた 山沢典夫の父は このように言っている。 「ほんとに、 わたしたちは愚かでした。 いつも最上のものを求めてさまよっていた結果が これです」。 そして、 こう言うのである。 「わたしたちは、 もう自分たちだけの生活にとじこもっているつもりは ありません。 みんなといっしょにやってゆかなければ、 ほんとうの生き方はないということに、 やっと気がついたんです」。 「みんなといっしょに」、 「この世界で」。 この二つのキーワードが、 『涼宮ハルヒの憂鬱』や『涼宮ハルヒの消失』でも 重要なカギとなっている。 私はそこに、 二つの少年向けSF作品の 深いつながりを感じるのである。 〔注1〕谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』68・96~98ページ 〔注2〕谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』11ページ 眉村卓『なぞの転校生』(評価:2) 【参考文献】 谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』について 谷川流「涼宮ハルヒの退屈」について ツガノガク「ノウイング・ミー、ノウイング・ユー」解説 谷川流「笹の葉ラプソディ」について 谷川流「ミステリックサイン」について
by imadegawatuusin
| 2011-09-20 19:51
| 文芸
|
自己紹介と連絡先
名前:酒井徹
生まれた日:昭和58(西暦1983)年8月22日 世わい:40歳 住みか:〒454-0013 日本国愛知県名古屋市中川区八熊一丁目12番6号 明治第4ビルディング205号 電話番号:070-4531-5528 電子郵件宛先:sakaitooru19830822@gmail.com ミニブログ(微網誌):https://twitter.com/SAKAI_Tooru カテゴリ
政治 国際 経済 労働運動 人権 男女共同参画 差別問題 環境 暮らし家庭 文化 文芸 漫画・アニメ 音楽 日本語論 日本語辞書 歴史 弁証法的唯物論 倫理 宗教 仏教 儒教 キリスト教 そう鬱病者の五行日記 雑記帳 その他 記事ランキング
検索
以前の記事
2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 04月 2023年 03月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2019年 12月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 03月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 04月 2017年 04月 2017年 03月 2016年 07月 2016年 05月 2016年 04月 2015年 12月 2015年 05月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 06月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 07月 2004年 05月 2004年 02月 2004年 01月 2003年 08月 2003年 02月 2002年 12月 2002年 11月 2002年 10月 2002年 09月 2002年 08月 |
ファン申請 |
||