名探偵コナン『天国へのカウントダウン』について

――ラストの盛り上がりの迫力は劇場版随一!――

■歩美ちゃんの可愛らしさと ひたむきさが全開! 
謎解きの鮮やかさもさることながら、
劇場版『名探偵コナン』の一番の魅力は、
やはり「迫り来る危機からの脱出」を巡る、
はらはらドキドキの昂揚感であろう。
その点で、
本作・『天国へのカウントダウン』は、
数ある劇場版『名探偵コナン』作品の中でも群を抜いている。
同じ建物からの「脱出」は、
普通に考えれば1度あればいいはずなのだが、
本作では何と2回もあって見せ場も2倍!
断然お得だ(笑)。

相互に何の関連性もなさそうなちょっとしたエピソード同士が、
最後に次々とつながってゆくさまは
視ていて非常に小気味よい。

通常、『名探偵コナン』の劇場版では、
ヒロイン・毛利蘭と主人公・工藤新一との関係が
クローズアップされるのが普通だ。
しかし本作・『天国へのカウントダウン』ではそれだけでなく、
むしろ少年探偵団のマスコット・吉田歩美ちゃんの
かわいらしさやひたむきさに
猛烈な重点がおかれている。
また、
他の女性キャラクターの言動からも目が離せない。

■「席のある」工藤新一、「席のない」宮野志保
特に、本作の中で灰原哀がつぶやいた次の発言は、
『名探偵コナン』の今後の展開を考えるうえで
非常に示唆的である。

このごろ
あたしは誰なんだろうって思うの。
あたしは誰で、
あたしの居場所はどこにあるんだろうって……。
あたしには、席がないのよ。


そしてそれを聞きつけた少年探偵団たちがやってきて、
「灰原さんの席は、
 ちゃーんとそこにあるじゃないですか」と言う。
なるほど、「灰原哀」には席がある。
だが、その正体である宮野志保には「席がない」のだ。
この点が、
同じような境遇にありながら、
「宮野志保」と「工藤新一」とがまったく異なる点である。
(本作の中で灰原がコナンに向かって、
 『あたしの気持ちなんてわからない』などと
 叫んだ理由でもある)。

工藤新一には席がある。
(長期欠「席」ではあるが)帝丹高校にも、
両親のもとにも、
そして何より、毛利蘭のとなりにも、
工藤新一の「席」は今でもきちんと残されている。
だが、宮野志保は違う。
宮野志保にはもう「席がない」。
組織にも、
敬愛する姉のもとにも、
両親のもとにも、
「宮野志保」の席はない。
彼女にあるのは、
帝丹小学校の1年B組にある「灰原哀」の席であり、
少年探偵団の中にある「灰原哀」の席であり、
阿笠博士のもとにある「灰原哀」の席なのだ。
彼女がただ一つ、
「宮野志保」でいられたところ、
「お姉ちゃんの留守番電話」も、
今回の件で失われてしまった。
「宮野志保」は今回の作品で、
ついに「最後の席」を失ってしまったのだ。

そういえば、
この作品の直前作に当たる
『名探偵コナン』劇場版第4作『瞳の中の暗殺者』の中で、
灰原哀は次のように言っていた。

お姉ちゃんが殺されたことや、
組織の一員になって毒薬を作ってたこと、
みんな忘れて、
ただの小学生の灰原哀になれたら、
どんなにいいか……。
そして、
あなたとずっと……、
ずっとこのまま……。


『名探偵コナン』が最終回を迎え、
江戸川コナンが工藤新一に戻れることになったとき、
灰原は、一体どちらの道を選ぶことになるのだろう。
工藤新一とともに、
18歳の宮野志保として生きる道か、
それとも「ただの小学生の灰原哀」として、
少年探偵団の子供たちや阿笠博士とともに生きる道か……。

これはおそらく、
彼女にとって非常に厳しい選択だ。
本音のところでは、
できることならそのような選択は
先送りしたいと灰原は思っているのではないか。
(作品全体を通して、
 彼女が「APOTXIN4869」の解毒剤を作ることに
 あまり熱心でなく、
 情報を出し惜しみしているようにさえ見えるのはそのためではないか)。

だが、遅かれ早かれそのときは来るだろう。
江戸川コナン=工藤新一は
いつか必ず黒の組織を追い詰め、
その全貌を暴きだすことだろう。
「APOTXIN4869」の解毒方法も見つかるだろう。
そのとき彼女は、
いやがおうにも選択を迫られることになる。
「宮野志保」か、「灰原哀」かの選択を……。

「灰原哀」として生きる道は、
工藤新一と年齢を共にしない道である。
新一と蘭とが惹かれあうのを、
おそらくはただ
黙って見ていることしかできない道だ。
だが、
彼女は多分わかっている。
そのことは、
たとえ自分が「宮野志保」になったとしても
変えることのできないことだということを。

僕の予想では、
彼女はやはり、
「灰原哀」として生きる道を選ぶのではないかと思う。
「席のない」宮野志保ではなく、
「席のある」灰原哀として、
少年探偵団の仲間たちや阿笠博士と共に
生きていく道を選ぶのではないか。
本作『天国へのカウントダウン』を見て、
僕はそんなことを考えた。

見事な構成で登場人物たちの魅力を十全に生かしきった、
劇場版『名探偵コナン』の最高傑作である。

《劇場版『名探偵コナン』お薦めベスト3》
第1位『天国へのカウントダウン』
第2位『14番目の標的』
第3位『瞳の中の暗殺者』

《お勧め参考サイト》
「名探偵コナン『時計じかけの摩天楼』について」
「名探偵コナン『14番目の標的』について」
「名探偵コナン『瞳の中の暗殺者』について」
「名探偵コナン『迷宮の十字路』について」
「名探偵コナン『銀翼の魔術師』について」
「名探偵コナン『水平線場の陰謀』について」
名探偵コナン『漆黒の追跡者』を見て

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by imadegawatuusin | 2005-09-03 17:24 | 漫画・アニメ