城平京『飢えた天使』について

■『スパイラル』城平京さんのデビュー作
この作品は、
人気ミステリー『スパイラル』の作者・城平京さんのデビュー作である。
推理小説家・鮎川哲也さんが編集長を務めた
『本格推理』(光文社文庫)の第10号に掲載されている。
(『本格推理』の他の号は古本屋などでよく見かけるのだが、
 どういうわけかこの第10号だけが、
 なかなか見つからないのである。
 もしかしたら、
 全国で城平さんのファンが買占めに走っているのか?)

なお城平さんは、
この作品の投稿時には「吉野口飛鳥」というペンネームを
使用していたそうだ。
(本作が『本格推理』第10号に掲載されるにあたり、
 現在のペンネームの使用を始めたらしい)。
選者の鮎川哲也さんは、

ふたつの筆名から推測するならば、
作者は大和の国の住人と思われる。


と、選評の中で語っている。
(実際、城平さんは奈良県出身である)。

「城平京」というのは、
自らの出身県に奈良時代に置かれた都・「平城京」の
「城」の字と「平」の字を
入れ替えただけのペンネームだったのか、と、
これを読んではじめて気がついた。

作風は、
「あぁ、やっぱり城平さんは、
 デビューのときから城平さんだったんだ」と
納得できるもの、とだけ言えば、
きっとわかっていただけるのではないか。
(選評の中で評者の鮎川さんは、
 城平さんのことを「飛び切りのロマンチスト」と呼んでいる)。

《あらすじ》
■トイレで餓死体 ドアを冷蔵庫等で塞がれて? 
名探偵・藤崎守のもとに、
ある画家から一件の依頼が舞い込む。
それは、自分の妻の死についての真相を
教えてほしいというものであった。

彼の妻は、
自宅のアトリエのトイレで
遺体で発見された。
死因は餓死だった。
トイレの前には、
ドアをふさぐように冷蔵庫などが積まれていた。
警察は、
彼女がトイレに入った間に何者かが
ドアの前に冷蔵庫などを積み上げた結果、
彼女はトイレのドアを開けることができなくなり、
そのまま中で餓死したものと考えた。
ちょっと想像しただけで
ぞっとして身の毛がよだつほど、
実におぞましい事件である。

状況から見て、
そのようなことができたのは、
夫である画家本人以外にはありえないように思われた。
しかし、
夫である画家は交通事故にあい、
事件前後の記憶を喪失してしまっていたのである……。

依頼人の画家は探偵・藤崎に訴えた。
自分は愛する妻に対して、
一体何をして、何をしなかったのかを教えてほしい、と。
藤崎の目には、彼はとうてい、
このようなおぞましい殺人を犯す人物には見えなかった。
しかし、
いくら調べても彼以外の犯人など、
まったく浮かんでこないというのも事実なのである。

画家は、
自分が犯してしまったかもしれない、
信じがたいほどむごたらしい犯罪を前にして、
ただただ震え、怯えていた。
藤崎は彼のために、
自分が収集したありとあらゆる証拠・証言から考えうる
全ての可能性を考え尽くす。
その中に、
依頼人の「救い」となるストーリーは、
はたして存在するのだろうか……。

《解説》
作品の構成、というか展開は、
後の小説版『スパイラル』第2巻・『鋼鉄番長の密室』
驚くほど酷似している。
この作品の発展形(あるいは「完成形」)が、
『鋼鉄番長の密室』なのだとみて、
まず間違いないであろう。
(「真実」よりもむしろ「依頼人の救い」を重視して
 推理を進めるその姿勢も、
 両作品の名探偵、藤崎守と鳴海歩とに共通している)。


《次に読むべき本》
本作品を読まれた方は、
絶対に小説版『スパイラル』第2巻・『鋼鉄番長の密室』
足を進めるべきである。
ある意味では本作・「飢えた天使」の「救い」は、
数年後に発表される『鋼鉄番長の密室』において、
ようやくもたらされるのだと言っても過言ではない。
(『スパイラル』の漫画版や、
 小説版の他の巻を読んでいなくとも、
 『鋼鉄番長の密室』だけを単独で読むこともできる)。

《そのうち読んでほしい本》
やはり、
城平京さんの名を世に知らしめた大傑作
『名探偵に薔薇を』(創元推理文庫)を
一生に一度は読んでおきたい。
本作とも共通する、
胸に迫ってくるような物悲しさとロマンチックさ、
そしてどんでん返しに次ぐどんでん返しという、
推理小説の醍醐味を限界まで楽しませてくれる
名作中の名作だ。
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by imadegawatuusin | 2005-09-07 18:16 | 文芸