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片山こずえ『宝物は君のこと』について

■作品にふと垣間見える「こだわり」
片山こずえさんは、
主義主張を声高に主張するタイプの漫画家ではない。
むしろどちらかというと、
(良くも悪くも)「通俗的な少女漫画の職人」である。
けれど彼女の作品には、
とうとうと流れるストーリーの中に、
ふと読者に、
立ち止まって考えさせずにはいられないメッセージが
さりげなく込められていたりするから油断できない。

たとえば……。

この本の表題作・「宝物は君のこと」の中で
主人公の女子高生・七子が、
祖父が寝たきりになったときのことを振り返って
次のように話す場面がある。

あたし
じいちゃんが
寝たきりに
なった時ね
(まぁ ヘルパーさんも
 来てくれたけどね)
人から よく
「お孫さんが女の子で
 よかったわねぇ」って
言われたんだ――
でも
じいちゃんと
あたししか
いなかったん
だから
たとえ
あたしが男でも
やらなきゃいけない
のにね――(片山さつき『宝物は君のこと』28ページ)


「お孫さんが女の子で
 よかったわねぇ」というさりげない一言の裏に隠された、
「高齢者の世話は女がするのが当然」という偏見が
浮き彫りにされる。

結局、「ケチ」で有名だった祖父が亡くなり、
七子には3億円の遺産が残されたのだが、
彼女はそのほとんどを老人医療施設に寄付することにした。

そんな時、彼女のところに
今まで会ったこともない親戚一家がなだれ込んできて、
「一緒に暮らそう」と言ってくれたのだ。
しかし実は、
彼らは七子の相続した(と思い込んでいる)3億円の遺産を
狙っていたのだ。

……で、おもしろいのは、
この遺産目当てで寄ってきた「親戚」、
みんないい人ばっかりなのだ。
「遺産目当てのいい人」っていうのも変な話なのだけれど、
金に目がくらんでいるくせにどこか間が抜けている。
トラック運転手として、
3人の息子たちを女手一つで育ててきた、
やたらきっぷのいい母・愛子(38……とサバを読もうとしたが、40歳らしい)。
美容師見習いのおちゃめな北斗(20)。
ぶっきらぼうな南斗(みなと:高2)。
そして、甘えん坊のレオ(小2)。
みんな、作者の愛情が感じられる、
味のあるキャラクターばかりだ。

だから、
テーマがテーマなのにちっとも暗くならなくて、
終始明るい作品に仕上がっている。

なお本書には表題作のほかに、
「最強LOVERS」・「見逃さないで」の
2つの短編が収録されている。

■「最強LOVERS」 腕っぷし少女の不器用な恋
「私とつきあいたければ腕相撲で勝つこと」。
まどかは告白してくる男を腕相撲でのしている。
だけど、そんなまどかは、実は極度の男性恐怖症なのです。

■「見逃さないで」 きっと見ている人がいる
由香は小さいときから非常に影が薄い。
でも、
ただ一人由香を人ごみから見つけてくれた人がいた。
菅谷くんだ。
彼は一度見たことは一瞬で記憶してしまう天才だった。


……いつも思うが、
片山さんは作品の題名をつけるのがうまいと思う。
最近の少女漫画の中には(昔からか?)
わけのわからない題名が少なくないが、
片山さんのつける題名は、
いつも作品のテーマをビシッと的確に表わしている。

【次に読むべき本】
本書を読んで片山こずえさんの漫画の魅力に惹かれた方は、
ぜひ、片山作品の最高傑作、
『女のコで正解!』(集英社マーガレットコミックス)を読んでほしい。
さりげないこだわりと軽快なタッチを併せ持つ
片山さんの魅力が凝縮された傑作だ。

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【本日の読了】
片山こずえ『宝物は君のこと』(集英社マーガレットコミックス)評価:3
by imadegawatuusin | 2005-09-11 15:59 | 漫画・アニメ
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