麻耶雄嵩『神様ゲーム』について

■本文は事件の「真相」に「触れて」います!
 ……しかし、「真相」には至っていません(涙)
 

麻耶雄嵩『神様ゲーム』〔注1〕のポイントは、
「神様」たる鈴木太郎は「間違えないということ」(本書279ページ)、
そして彼は、
「嘘はつかないけど、
 本当のことを包み隠さず話すわけでもない」(本書259ページ)ということである。

主人公は「ぼく」こと小学4年生の黒沢芳雄。
彼の親友・岩渕英樹が、
秘密基地・「鬼婆屋敷」の井戸の中から遺体で発見される。

「神様」・鈴木太郎によると、
真犯人は芳雄(=ぼく)の憧れのクラスメート・山添ミチルであり、
「共犯者がもうひとりいる」(本書257~258ページ)。

芳雄(=ぼく)は推理の結果、
その共犯者が刑事である、
自分の「父さん」で以外には考えられないとの結論に至る。

「神様」・鈴木太郎によると事件の際、
山添ミチルは「あの家で共犯者とエッチなことをしていた」(本書260ページ)。
その「現場を」岩渕英樹に「見られた」ので、
「山添さん(筆者注:=ミチル)はすぐさま岩渕君(筆者注:=英樹)に襲いかかり、
 土間に頭を強打した岩渕君はそのまま死んでしまった」(本書260~261ページ)。
「岩渕君は頭を打ちつけたとき鼻血を出した。
 それが山添さんの白い服とスカートにべったりついた」。
「そのままじゃ目立つから、
 自分の家に帰って服を着替えるために
 (筆者注:ミチルは)岩渕君の服とズボン、帽子を拝借した」(本書262ページ)。

以上は「神様」・鈴木太郎が語る、
この物語世界における「絶対的な真実」である。

しかし、
物語の最後の最後にいたり、
主人公・芳雄の推理は外れていたことが明らかになる。
ミチルの共犯者は芳雄の「父さん」ではなく、
「母さん」であったことが明らかにされるのだ。
だが、
「母さんが共犯者であった」ということが
「どんなに信じられなくても、
 ……」それは「真実」であるとだけ述べられるだけで、
それ以上、何の説明もなされないのである。
これでは、
読者は途方にくれてしまう。

じっくり考えてみよう。
まず、
事件当日 秘密基地で、
ミチルと「エッチなことをしていた」のは、
主人公・芳雄の「父さん」ではなく「母さん」であった。
これはいい。

本書30ページでミチルは、
「一ヶ月前に六年生に告白されて、
 『他に好きな人がいるから。』と断った」とあり、
またそこには、
「少し前に僕(筆者注:=芳雄)んちのことを何度か訊かれた」とも書いてある。
ミチルと「エッチなことをしていた」のは、
主人公・芳雄の「父さん」ではなく「母さん」であったと考えても、
これらの記述とは何ら矛盾しない。

しかし、である。
芳雄の推理によるまでもなく、
「父さんしか、
 ミチルちゃんと連携して
 ぼくたちを巧みに誘導できた人はいない」(本書275ページ)はずなのだ。

先にも述べたとおり、
「神様」・鈴木太郎によれば、
「共犯者」は「ひとり」である。
よって、
芳雄の母が共犯者であるなら、
彼の父も同時に共犯者であることはできない。

よって、
刑事である「父さん」が自分の隠れていた物置小屋に自ら踏み込み、
足跡が「ない。」と嘘の証言をしたという推理は、
共犯者が「母さん」である場合には成り立たない。
では、
芳雄たちが裏庭に踏み込んだとき、
共犯者・「母さん」はどこに隠れていたのか。

これは容易に解決できる。
「母さん」は体格が「小さい」(本書12ページ)。
だからおそらく、
芳雄が最初に推理したとおり、
井戸の蓋として使われていた
「大きなたらいのような蓋」の中に隠れていたのであろう。

だが、
問題はここからである。
芳雄の推理の「父さん」の部分を
「母さん」に全て入れ替えようとしても、
どうしても入れ替えられない部分がある。
それはミチルが、
秘密基地に残って「袋の鼠」となった共犯者を脱出させるため、
主人公・芳雄に
「父さんにケータイを掛けるように提案した」(本書273ページ)という部分だ。

「共犯者」は「ひとり」である。
これは、
本書の物語世界における「神様」・鈴木太郎が言っているのだから
疑えない。

「父さん」は、
遺体をもう一度見に裏庭に行くよう芳雄たちに指示する。
彼らが裏庭に出た間に、
共犯者は隠れ家から脱出したのだ。
本書274ページにもある通り、
「ぼくが父さんに電話したとき、
 状況から考えて、
 犯人が裏庭に潜んでいる可能性が大きかった。
 でも父さんはプロであるにもかかわらず、
 無理にぼくを裏庭へ向かわせようとした」。

「父さん」が共犯者でないのであれば、
「父さん」とミチルがとったこの行動を
どう理解すればいいのであろう。

気になるのは、
本書の表題・『神様ゲーム』が、
英語では“God's truth”(「神様の真実」)と表記されている点だ。
辞書で調べても、
“truth”(「真実」)に「ゲーム」という意味はない。
何か意味があるのだろうか。

わからない。
いくら考えてもお手上げである。
もし真相にたどり着けた方がいるなら、
このブログにトラックバックかコメントをして
是非ともお教えいただきたい。

【重要】
なおWeb上に、
「共犯者」はやはり父親であり、
「天誅を下すために、お父さんの愛するお母さんを殺した」
という説
が掲載されていた。
うーむ……。

〔注1〕なお、
物語の本筋とは直接関係ない(のか?)のだが、
本書の中で登場する「ラビレンジャー」なる戦隊ヒーローものは
一体どうなっているのだろう。

「ラビレンジャー」たちは「タルムード司令」なる人物に率いられ、
「ジェノサイドロボ」に乗って戦うのだという。
必殺技のきめゼリフは「ファイナル・ジェノサイド!」だそうだ。

言うまでもなく「ラビ」とはユダヤ教の聖職者、
「タルムード」とはユダヤ教聖書(いわゆる『旧約聖書』)の解釈を集大成した書物で、
言ってみればユダヤ教の「第2の聖典」のようなものだ。
そして「ジェノサイド」とは「大量虐殺」を示す言葉である。
悪ふざけにしては
ちょっと度がすぎるのではないだろうか。


【本日の読了】
麻耶雄嵩『神様ゲーム』講談社ミステリーランド(評価:1)
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by imadegawatuusin | 2006-05-04 15:42 | 文芸