野村美月『天使のベースボール2巻』について

――お嬢様監督、合宿に行く――

■リリイに迫られ断れず
私立男子校・翔之原高校野球部が
このたび合宿を決行した。
引率はもちろん、
お嬢様監督・琴宮まりあさんである。

「最初はレスリング部の安岡先生に
 代わりに行っていただこうかとも思っていたんです。
 だって最近、
 野球部部長の太宰くんと
 いろいろ変な噂を立てられているでしょう。
 でも樋口くん(リリイ)が、
 『琴宮サンが行かなかったら、
  女の子はアタシ一人になっちゃうじゃない』と言い出して……」。

「樋口くん」とは野球部のエース、
樋口百合夫くんである。
男子校に通ってはいるが、
「頭のてっぺんから足の先まで女の子」を自認する。
校内では「リリイ」の愛称で親しまれている、
少しキツめの美少女だ。
(そのためしばしば、
 野球部のマネージャーと勘違いされることがある)。

関係者によると まりあさんは、
「若くてかわいい女の子を、
 たった一人で、
 野郎どもと一緒に行かせて平気なの?
 アタシに子供ができちゃったら、
 琴宮サンが引きとって育ててくれるの?」
とリリイに持ち前の気迫で迫られ、
逆らえなかったようなのだ。
(しかしいくら何でも子供はできないだろうと思うが)。

これまでまりあさんは
樋口くんのことが少し苦手であったという。
確かに樋口くん(リリイ)はまりあさんを、
「女は胸の大きさじゃない」・「デブ」などと、
客観的に見ればほとんど逆恨みではないかとも思われる言葉で
ののしった「前科」がある。

しかし今回の合宿で、
まりあさんは樋口くんと
「少しだけ仲良くなれた気がしてうれしかった」と語っている。
まりあさんによると、
同室になった樋口くん(リリイ)は、
化粧品の使い方についてアドバイスしたり、
日焼け止めクリームについての説明をしてくれたりして、
すっかり打ち解けたということなのだ。
「楽しかったですよ。
 樋口くん、
 『アタシ達野球をする女性にとって一番の敵は、
  相手チームのピッチャー、バッターじゃなくて、紫外線よ!
  青空の下で明るく楽しく野球をするには、
  日焼け止めの厳選は不可欠よ!』なんて力説しちゃったりして……」。

■まりあさんの心のオアシス・中原由羽くん
今回の合宿先には、
黒いグランドピアノが置かれていた。
小さいころからピアノと生活を共にしてきた
ライトの中原由羽くんが喜んだことは言うまでもない。
副部長の夏谷魁くんは、
合宿先の選定にあたって、
ひそかにピアノのあるところを探し回ったといわれている。
(関係者によると、
 「ナツさん(夏谷くん)はお由羽ちゃん(中原くん)にあまあま」とのこと)。

さらさらの茶色の髪と大きな目、
かわいく無垢な中原くんは、
「猛獣のすみか」と言われる翔之原高校における、
まりあさんの心のオアシスである。
まりあさんが野球部の顧問を押し付けられたばかりのころ、
辛い日々に耐えられたのは、
中原くんがいたからだとまりあさんは振り返る。
まりあさんは中原くんを、
「天使のような存在」と言ってはばからない。

そんな中原くんを巡って、
今回の合宿ではひと悶着あったという情報を入手した。
もともと中原くんに想いを寄せていたセカンドの永井達樹くんと、
中原くんが野球を始めるきっかけとなった
憧れのバッター・正宗一也くんとの間で
三角関係が勃発したというのである。

関係者は次のように語っている。
「もともとお由羽ちゃん(中原くん)の指導役は
 永井だったのよ。
 お由羽ちゃんは中学のころ、
 指に怪我したら大変だからって野球の授業は全部見学させられて、
 全く初心者だったじゃない。
 それで永井は、
 お由羽ちゃんのことをかわいがって、
 あれこれ世話を焼きまくってきたわけよ。
 お由羽ちゃんって、
 いたいけで庇護欲そそるとこあるじゃない。
 それを正宗が、
 ひっさらって行っちゃったわけだから、
 やっぱり焼きもち焼いちゃうわよねー」。

この件で
永井くんが合宿先でトラブルを起こしたとの情報もあり、
本紙は当事者3人にインタビューを試みたが、
永井「う……うるさい! 帰れ帰れっ!」
中原「え……いや、その話はちょっと……(少し顔を赤らめて)」
正宗「……(無言)」
という結果に終わり、
その詳細を把握することはできなかった。

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【本日の読了】
野村美月『天使のベースボール2巻』ファミ通文庫(評価:3)

《参考記事》
野村美月『天使のベースボール』について
野村美月『“文学少女”と死にたがりの道化』
続・野村美月『“文学少女”と死にたがりの道化』
続々・ 野村美月『“文学少女”と死にたがりの道化』
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by imadegawatuusin | 2006-05-11 14:28 | 文芸