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富所和子『ないしょのココナッツ』について

――『ライバルはキュートBoy』の原点――

■『らんま1/2』に着想を得た「男女入れ替わり」物
本作『ないしょのココナッツ』は、
『ライバルはキュートBoy』で有名な富所和子さんの
原点とも言うべき作品である。
富所さんの代表作である『ライバルはキュートBoy』は、
女装好きの可愛い弟と、
そんな弟に反発と劣等感との入り混じった複雑な感情を抱える姉とを描いた
いわゆる「女装漫画」であるが、
この『ないしょのココナッツ』は「男女入れ替わり」物である。

小学3年生の内木香子(通称:ココ)と、
同級生の山口夏樹(通称:ナッツ)には、
「2人だけのヒミツ」がある。
それは、
どちらか一方が くしゃみをすると
二人の「たましい」が入れ替わり、
キスをすると元に戻る、というものだ。

この設定はどうやら、
高橋留美子さんの代表作、
『らんま1/2』から着想を得たものであるらしい。
(『らんま1/2』の主人公である早乙女乱馬は、
 「水をかぶると女になって、
  お湯をかぶると男に戻る」という体質の持ち主である。
 本書69ページには、
 山口夏樹〔=ナッツ〕の部屋に
 『らんま1/2』のポスターが貼られているのが見て取れるし、
 本書20ページには早乙女乱馬の父親・早乙女玄馬らしきパンダが
 さりげなく登場したりしている)。

■後の空也くんを思わせるナッツ
優れたファッションセンスの持ち主で、
「さわやかで、活動的な服」を好む山口夏樹(=ナッツ)は(本書49ページ)、
香子(=ココ)と入れ替わった時も、
彼女のタンスの中の服を勝手にコーディネートしてみたりして、
けっこう「女の子生活」を楽しんでいるような部分さえある。
挙句の果てにはナッツに乗り移っているココに向かって、
「おまえ、センス
 悪いなー。
 いい服がなくて
 くろうしたぜ」とまで言い出す始末である(24ページ)。
「かわいくなった」と男の子たちにちやほやされても、
「ぼくって
 男でも女でも
 モテちゃうん
 だな~~」と、
かなり嬉しそうである(本書25ページ)。
このあたり、
明らかに『ライバルはキュートBoy』の空也くんを
思わせるものがある。

■ココの「悲観的現実思考」は野花ちゃんに継承!?
運動神経が良くて、
「男でも女でも
 モテちゃう」ナッツに対し、
一方のココの方は対照的に
男になっても女になってもパッとしない。
ナッツの場合、
たとえ女の子と体が入れ替わってしまっても、
それはそれで
「わりと
 のってきた」りするのに対し(本書24ページ)、
ココの場合、
「一生このまま
 だったら
 どうしよう~」などと終始 悲観的思考である(本書39ページ)。

そして、そんな悲観的な思考の中にも、
「もしほんとに
 一生このままだったら、
 ナッツはわたしを
 おムコにもらって
 くれるかしら…」などと、
小学3年生のくせに妙に現実的なことが
真っ先に頭に浮かんでしまうあたり(本書39ページ)、
『ライバルはキュートBoy』の野花ちゃんを思わせるキャラクターではある。

富所さんの代表作である
『ライバルはキュートBoy』の成立背景を考える上でも、
その「原点」とも言うべき本作の理解は欠かせない。

《次に読むべき本》
本書『ないしょのココナッツ』を読んで気に入った人には、
富所和子さんの最高傑作・『ライバルはキュートBoy』1~4巻(小学館ちゃおコミックス)を
ぜひとも強くお薦めしたい。
間違いなく楽しめる作品だ。

《そのうち読むべき本》
いわゆる「男女入れ替わり物」としては、
志村貴子さんの『放浪息子』(エンターブレイン)が最高傑作だと僕は思う。
女の子になりたい男の子と、
男の子になりたい女の子、
「思春期一歩手前」の子供たちの、
ほほえましくも真剣で、
そしてほのかに もの悲しい日常生活が描写された傑作だ。
また、
『放浪息子』がどこまでも「日常生活」に基盤をおき、
子供たちの人間関係を主とする「小さな世界」にリアリティーを見出すのに対し、
平安時代の王宮を舞台にした波乱万丈の「男女入れ替わり」を描いた
山内直実『ざ・ちぇんじ!』(白泉社文庫)もおもしろい。
姉と弟との入れ替わり、
最後まで先を読ませないサスペンス、
そして巧みな伏線の張り方は読むものを真に圧倒する。

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【本日の読了】
富所和子『ないしょのココナッツ』(小学館てんとう虫コミックス)評価:3

by imadegawatuusin | 2006-08-20 14:56 | 漫画・アニメ
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