タイ:クーデターは民主主義の敗北

――反民主的暴挙を許してはならない――

■「タイの田中角栄」:タクシン政権崩壊
「タイの田中角栄」と言われたタイ王国首相・タクシン氏の政権が、
軍部のクーデターによって事実上 崩壊した。

タクシン首相は、
典型的な金権・腐敗のバラマキ政治家であったと言われている。
各地の人々が地元へ予算を誘導しようと、
競うようにタクシン陣営へと投票するため、
タクシン政権は選挙では、
圧倒的な得票を得てその政権を維持してきた。
だが、その得票の多くはタクシン政権の政権運営や
タクシン首相の政治姿勢への支持や共感ではなく、
その支持基盤は意外にもろいものであったことが
今回のクーデター騒動でも明らかになった。

民主的に選ばれた首相が
軍部のクーデターにより政権を追われたにもかかわらず、
タイ国内で大規模な抗議行動が巻き起こる気配は見当たらない。
むしろ、
「金権・腐敗」の政権を「打倒」した軍事クーデターを、
一般市民が支持する風潮さえあるようだ。

■陸軍上層部と国王との「野合」
しかし、
「腐敗した政権」を打倒するためだからといって、
民主主義国家において軍部が政権を転覆するなどという暴挙を
僕は断じて認めるわけにはならない。
タイの憲政史上初めて国民の手によって作られた憲法を一方的に停止し、
この憲法に基づく選挙によって選出された議会を解散させるなど、
まさに言語道断である。

今回のクーデターは、
決して「腐敗政権の打倒」というような「美しい目的」のみのために
決行されたものではない。
今回のクーデターを首謀したソンティ陸軍司令官は、
今年10月1日に予定されていた軍首脳人事において、
更迭がささやかれていた。

彼は、
タクシン首相とは距離を置く元首相のブレム枢密院議長に近い姿勢をとってきたので、
このままではよりタクシン首相に近い将校と
その首を挿げ替えられる運命にあった。

また、
タイの国王もまた、
タクシン首相とはそりが合わなかった。
「成り上がりもの」の田中角栄を
日本の昭和天皇が毛嫌いしていたと言われるのと同様、
タイの国王も、
華僑出身でその経済力を背景に台頭した
この品位も品格もないタクシンという首相を嫌っていた。
タクシン首相はこの4月にも、
国王との謁見の後に「辞任」を表明したことがあった。
しかしその後も彼は、
のらりくらりと言を左右に はぐらかし、
政権の座に居座り続けてきた。

この、面子を潰されたタイ国王と、
「首切り」の危機に直面した陸軍上層部との利害の一致によって実現したのが
今回のクーデターだったのだ。

■「1回や2回の選挙」で清廉潔白な首相が選べるか
僕は、
民主主義国家においてはあくまで民主的手法による政権交代の実現を求める
社会民主主義者である。
いかに現政権が腐敗・堕落していようと、
暴力革命や軍事クーデターによって民主的に選出された政権を転覆するのは、
一部の陰謀家や軍部による越権行為であり、
傲慢のきわみであると考えている。

民主主義国家においては民主的手法により、
漸進的に政治は改革されてゆくものである。
タイで初めて国民の手によって憲法が制定されたのは、
1997年のことである。
それ以来 現在までに行なわれた選挙は2001年と2005年の2回だけで、
いずれもタクシン首相の率いる愛国党が勝利してきた。
たかだか数年の間に一回二回の選挙を経ただけで、
人格高尚で清廉潔白な人物を首相に選出できるほど
民主主義は甘くない。
世界の民主主義国は、
どの国においてもこうした政権の腐敗・堕落を経験している。
それでもこうした国々は、
地道な努力を重ねることで徐々にではあるが改革を勝ち取り、
選挙のたびに民衆による政権選択という試行錯誤を繰り返しながら
民主主義を定着させてきたのである。

■非民主的手法は結局は腐敗への道
クーデターによる政権転覆は、
短期的にはいかに腐敗政権を除去したように見えたとしても、
こうした地道で着実な改革への努力を
一瞬にして無に帰してしまう暴挙である。
こうした安易な手法によって目的を実現しようとする政権は、
結局 現政権にも増して腐敗し、
場合によってはより危険な全体主義への道を切り開くことにもなりかねない。

タクシン政権のような腐敗政権を
民主的な手段をもって打倒することができなかったという点も含めて、
クーデターによる今回の政権転覆はタイにおける民主主義の敗北である。
軍事政権はただちに民主主義的に選出された議会を復活させ、
政権を民衆の手に引き渡さなければならない。
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by imadegawatuusin | 2006-09-20 21:24 | 国際