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「キングギドラ」の差別居直り発言に抗議

『ロックンロール・ニューズメーカー』という雑誌を買ってきた。
2002年10月号だ。
ここに、
人気ヒップホップグループ・「キングギドラ」の
インタビューが載っている。
彼らのことは、
この「裏主張」で3週間前に取り上げたばかりだ。

『UNSTOPPABLE』という彼らのCDに収録された
『ドライブバイ』という曲の歌詞は、
はっきり言ってひどかった。
 
  ニセもん野郎にホモ野郎 
  一発で仕止める言葉のドライブバイ 
  こいつやってもいいか 
  奴の命奪ってもいいか
 
これが、この曲のサビの部分だ。
サビの部分だから、何度も繰り返されるのだ。
「ホモ野郎」を「ニセもん野郎」と同列視したあげくに、
「こいつやってもいいか 
 奴の命奪ってもいいか」などと殺人を煽り立てる、
こんな歌詞が何度も繰り返されるのだ。

それだけではない。
この歌はそのあと、
 
  だってわかってやってんだろう 
  そのオカマみたいな変なの 
  だいたいわかる居そうなとこ 
  いつでも行ける行こうかそこ 
  おめえの連れたアバズレのレズに 
  火の粉かけたくなきゃパッくれろMC 
  どうしたビビったか 
  ママの選んだパンツにチビッたか
  (中略)死になクズが
 
と続く。

僕は、
この歌詞を見たとき、
はっきり言って途方にくれた。
言葉が何も出てこなかった。
そして、
このようなCDが
オリコンチャートで6位を獲得していると知ったとき、
寂しさと、悔しさと、
そのほかにもいろいろ、
言葉にできないような恐ろしい気持ちに包まれた。

けれど、
「言葉が出ない」・「言葉にできない」なんて、
そんな甘っちょろいことを言っていることはできないのだ。
言語に絶するこの曲に、
それでも僕は言葉でいどんでゆかなければならない。

もとより僕は、
言論の自由を重んじる。
当然、
「キングギドラ」のメンバーたちにも
言論の自由を認めなければならない。
彼らがこの曲を発表したことによって
法的に罰せられるような事態が起こることを
僕は断じて認めない。
だから、
国家権力の介入を期待することは許されない。

権力の介入を許せないなら、
個人的「肉体言語」で対決するか? 
けれど、
平和主義者の僕は、
暴力をふるうことも許せない。
そもそも、
それを実行するだけの体力も根性も持ち合わせていない。
第一、
「キングギドラ」のメンバーを殺しても、
結局は彼らを「言論弾圧と闘った英雄」に祭り上げてしまうだけだ。

だから、
僕に残された武器は、
言葉しかないのだ。
出てこない言葉を搾り出してでも、
僕は声を上げなければならない。
その、ようやく搾り出された言葉が、
『週刊金曜日』5月31日号に掲載された投書であり、
「今週の裏主張」に載せていただいた投稿だ。

同性愛者は信じられないほど弱い立場に立たされている。
もちろん、
いま日本には同性愛者差別のほかにもさまざまな差別が存在する。
在日外国人差別・少数民族差別・被差別部落の人たちに対する差別……。
これらはもちろん、
僕たちが全力を尽くして無くしていかなければならない不当な差別だ。

けれど、
これらの差別と同性愛者への差別とが決定的に違う点が
一つある。
在日外国人も、少数民族も、被差別部落民も、
そのお父さんやお母さん、
そして兄弟・親戚など、
近しいところに「同胞」がいる。
けれど同性愛者は違う。
よほどのことがない限り、
同性愛者のお父さんやお母さんは異性愛者だ。
兄弟、親戚にも同性愛者がいることはまれだろう。
彼らは、
世間の中で差別を受けるだけではない。
最後の最後に頼るべき家族の中にも、
彼らを理解するものがいないという悲劇が往々にして起こる。

僕は、そんな状況を変えたい。
同性愛者はからかわれ、
いじめられても当たり前だという世の中を変えていきたい。
男同士・女同士の恋人たちが、
東京ディズニーランドで堂々と手をつないでデートをするのが
当たり前になる世の中を創りたい。
その思いで、僕は「同性愛者解放」を叫ぶのだ。

しかし、
そんな声は、
「キングギドラ」のメンバーたちには
まったく届いていなかったようだ。
今日買ってきた『ロックンロール・ニューズメーカー』の中で、
「キングギドラ」のメンバーの一人、
「K DUB SHINE」氏は、
CDが発売停止に追い込まれたことについて次のように述べている。
 
  どこがいけないんだろう?っていうのはいまだにあるよ。
  普通の日常会話でしゃべってることを、
  そのまま曲にするのがラップだからさ
 
「どこがいけないんだろう?」……って、
あなた、あの歌詞を見て、
それでもどこがいけないか分かりませんか? 

「普通の日常会話でしゃべってることを、
そのまま曲にするのがラップ」って、
つまりあなたは、
「ホモ野郎」をつかまえては、
「こいつやってもいいか」・「奴の命奪ってもいいか」などと
「日常」的に「会話」しているわけなんですね! 
よく分かりました。

CD発売元の親会社・(株)ソニー・ミュージックエンタテインメントによると、
あなた方は「反省し、深くお詫び申し上げ」ているというお話でしたが、
やっぱり反省なんかしていなかったのですね
(ソニーは、
 キングギドラ」が反省し、謝罪していることを
 「紛れもなく本物」であるとまで太鼓判を押していたはずなんですが)。
あの事件についての初めての公式コメントであるにもかかわらず、
「反省」という言葉も「お詫び」という言葉も、
インタビューを見る限り、
まったくどこにも見当たらないではありませんか。

とりあえず、
「どこがいけない」かについては、
「キングギドラのCD回収を振り返って」という原稿に
詳しく書いておきましたので、
お送りしたいとおもいます。
おそらく、
読んでいただけることはないと思いますが、
「K DUB SHINE」さんは
 
  一般の人、
  つまりゲイでもないし
  ゲイを嫌いでもない普通の人に判断してもらいたい、
  っていうのはあるよね。
  そういう人がどう思ったか?っていうのは、
  わかんないで終わってるから。
  そこが、なんか煮え切らない
 
ともおっしゃってますので、
「ゲイでもないし
 ゲイを嫌いでもない普通の人」であるところの僕の意見を、
もしかしたら聞いてくれるかな、という希望を
少しは残しておきたいと思います
(でも、「一般の人」って何? 
 「普通の人」って何? 
 ゲイは「特殊」で「特別」な人なわけ? 
 ついでに言っとくと、
 まずはこの歌詞によって心を傷つけられた同性愛者の意見に
 しっかりと耳を傾けたうえで、
 自分で「判断」するのが筋だと思う。
 「ゲイでもないし
 ゲイを嫌いでもない普通の人」に決定権があり、
 当事者である「ゲイ」の意見はあまり重要でないかのようなこの発言には、
 やっぱり疑問を覚える)。

あといくつか、言わせてほしい。
 
  たぶん回収騒ぎがなければもっと行ったと思うから、
  全然不本意だよ。
  セールス的にはいままでよりもいいのかもしれないけど、
  あの登場の仕方だったら、
  トップ10に何週も入るもんだと思うし、
  ほんとにちゃんとヒットするべきだったと思うんだよね(「K DUB SHINE」氏)
 
たしかに、
回収騒動がなかったらトップ10に何週も入る勢いでした。
このような曲が我が国のオリコンで上位を占めてしまったことが、
僕もたいへん不本意です。
 
  作ってる段階では、
  いいか悪いかっていうのは、
  たとえばオレらがまったく問題ないと思って出しても、
  DefSTARからこれはダメだって言われることもあるわけで、
  そこの判断は、
  プロフェッショナルな人にまかせたいっていうのもあって。
  (中略)単純に言葉狩り的な部分でダメならば、
  それはもうしょうがないのかもしれないし(「ZEEBRA」氏)
  おかしいですね。
 
「DefSTAR」さんのほうでは、
 この歌詞が「社内で問題になったが、
 本人たちが『差別するつもりで作ったのではない』と言っているので
 発売した」と言っているのですが……。
「DefSTAR」側の言い分を信じると、
「ダメ」かどうかの「判断」は皆さんがしたということになります。
皆さんの言い分を信じると、
「ダメ」かどうかの「判断」は
「プロフェッショナルな」「DefSTAR」の社員に
「まか」されたということになりますね。
どちらかが嘘をついているということでしょうか。

それから、
今回のこの件のことを言っているのかどうかはよくわかりませんが、
今回のこの事件は断じて「言葉狩り」ではありません。
あなた方は「ホモ野郎」を
「やってもいいか」・「命奪ってもいいか」と言ったのです。
これを、どのように「適切」な言葉に言い換えたとしても、
事態は何も変わりません。
一つ一つの言葉ではなく、
この歌全体に流れる同性愛者蔑視の思想そのものが問われているのです
(もちろん、
 いわゆる「言葉狩り」的な視点から見ても、
 とんでもない言葉があふれているのも事実ですが)。

とはいえまあ、
皆さんの主張の中で、
共感できる部分も一応挙げておきたいと思います。
皆さんはこのたび、
『911』というCDを発表なさったそうですね。
昨年9月11日の同時多発テロ事件などに対して、
音楽を通じて発言していこうという皆さんの姿勢は立派だと思いますよ。
 
  ZEEBRA  
  オレらは日本にいて
  それを見て、っていうスタンスが基本なんだけど。
  だからメディア批判みたいなことも言ったし、
  どっち側でもないからこそ冷静に見えてる部分もあると思うし。
  でも日本は、どっち側でもなくないでしょ?
  
  インタビュアー 
  自動的にアメリカ側に入っちゃいますね。
  
  ZEEBRA   
  そうでしょ?
  自動的なのはなぜなんだ?って思うよね。
  
  K DUB SHINE 
  日本人も、
  一般のレベルではもっといろんな意見があるはずなんだよ。
  でもマスコミとかの論調がどうしてもアメリカ寄りだし。
  政治的に仕方がないとは思うけど。
  でもアメリカの報道よりは、
  日本の報道のほうが中立だとは思うし。
  
  ZEEBRA 
  たとえば、ことイスラム教に関しては、
  日本では認知度が低いと思うし、
  イスラム教って聞いただけで
  狂信者みたいに思われちゃいそうだけどさ
  
このあたりは、
なかなかいいところを突いていると思いますね。

では最後に、
ちょっとした話をご紹介して、
今回の文章を終えたいと思います。
「ZEEBRA」さんがおっしゃるように
「イスラム教って聞いただけで狂信者みたいに思われ」ていたのは、
何も現代の日本だけではありません。
中世のヨーロッパでもそうでした。
中世のキリスト教勢力は、
イスラム教を悪く見せるためなら何でもやったといっても過言ではないくらいです。
そしてこのとき、
イスラム教徒を悪く見せるために利用され、
とばっちりを受けたのが同性愛者だったのです。
たとえばこんな風に。
  
  (マホメットは)自然の敵であり、
  彼の民族の間にソドミー(酒井注―男性同性愛)という悪徳を
  普及させた人である。
  彼は男女両性と性的淫交に耽った(『オリエントの歴史』 ジャック=ド=ヴィトリ)
  
  サラセン人の宗教(酒井注―イスラム教)によれば、
  どんな性的行為でも何でも許されるのみならず、
  是認され、承認される。
  (中略)彼らはその身体を堕落させ、
  人目にさらしている。
  「男と男と恥ずべきことを行い」、
  彼らは「己が身に」罪と過ちの報いを受け取る。
  サラセン人は人間の尊厳を忘却して、
  これらのオカマたちのもとへ自由に通い、
  私たちの間で男と女が公然と一緒に暮らすように、
  彼らと一緒に暮らしている(『サラセン人撲滅論』 アダのウィリアム)
  
つまり、
当時のイスラム教が、
キリスト教と比べると
一般的に同性愛者に寛大であったという素晴らしい事実を
逆手にとったうえに誇張して、
「イスラム教徒はけしからん。
 なぜなら、イスラム教徒は同性愛者だからだ」と、
むちゃくちゃな論理を展開してイスラム教徒を貶め、
返す刀で同性愛者を貶めているのです
(「同性愛はケシカラン」ということには、
 もはや「前提条件」として何の疑いも差し挟まず、
 論証しようとする努力すら見せようとしない横暴さに注目!)。

そして当時、
同性愛者に「寛大」であったイスラム教と、
「厳格」であったキリスト教、
どちらが「人道的」であったかは歴史が証明しています。
十字軍はエルサレムを占領したときに
大勢のイスラム教徒・ユダヤ教徒を虐殺しました。
そして、イスラム教徒がこれを奪還したときは、
捕虜にしたキリスト教徒をほとんど祖国に帰らせたと言われています。

同性愛者への偏見が、
同性愛者への偏見にとどまらず、
たとえばイスラム教徒への偏見を
助長する結果を生むこともあるのだということを、
イスラム教徒への偏見に憤りを表明される皆さんに
ぜひ知っていただきたいと思います。
『鈴木邦男をぶっ飛ばせ!』「酒井徹の今週の裏主張」No.5より転載)


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by imadegawatuusin | 2002-09-23 05:40 | 差別問題
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