同時多発テロ事件から1年を迎えて

同時多発テロ事件が去年アメリカで起きてから
ついに一年が経過した。
死後の世界も天国も信じることのできない僕には、
この残虐な無差別テロで亡くなった人々の
「冥福」(=冥界での幸福)を祈ることは出来ない。
しかし、
これを機会に改めて同時多発テロ事件について
考えを深めることが、
この大きすぎる犠牲を今後の世界に生かしてゆくことのできる
唯一の方法であると考えて、
この文章を書くことにした。

たしかに世界貿易センタービルは、
世界の発展途上国に飢えと貧困を押し付ける
グローバリズムの象徴的存在であった。
しかし、
9月11日のあの瞬間にそこにいたのは、
私利私欲のために
世界経済を混乱に陥れる金融投機家だけではなかった。
ビルの食堂労働者・清掃作業員、
そしてビルの中で行なわれていた建設工事に従事していた
建設作業員をはじめとする大勢の労働者たちが
日々の暮らしの糧を得るためにそこで働いていたのである。
その中には、
世界の飢餓や貧困と闘うために
反グローバリズム運動に参加していた
アメリカ労働総同盟産別会議の組合員も
千人以上いた。
彼らは当時、
国際通貨基金や世界銀行の総会にデモ行進をかけるために
数百台のバスを手配し、
イスラム世界をはじめとする発展途上国に対する債務の帳消しや
投機的金融取引への課税を求める闘いに
合流しようとしていたのである。
そうした人々までもが無差別に同時多発テロ事件で殺されたのだ。
そして、
たとえ殺されたのが
独占資本家としてグローバリズムの一翼をになう人物であったとしても、
高級軍人としてアメリカ覇権主義の一翼をになう人物であったとしても、
非武装の状態にいるときにいきなり命を奪うという
非人道的な行為が正当化されるはずがないことはいうまでもない。
何より、
世界貿易センタービルを破壊するために用いられた手段そのものが、
民間航空機を乗っ取り、
乗客もろともビルに突入・自爆するという
残虐極まりないものであったのである。

もちろん、
たび重なる国連決議を無視して占領地に居座り、
パレスチナ人を殺害するイスラエルに対して
莫大な軍事・経済援助を行なってきたのはアメリカだ。
しかし同時多発テロは、
このような事態を解決するどころか、
アメリカの世論をかえって危険な方向へと押しやってしまった。

大統領選挙での勝利すら疑わしく、
正当性が疑問視されていたブッシュ大統領の支持率は、
テロ事件の影響で大幅にはね上がった。
同時多発テロは、
京都議定書への調印拒否などで
ますます自国優先主義的な傾向を強めていたブッシュ大統領のもとに、
アメリカ国民を団結させてしまったのである。
犯行声明などの形で自分たちの政治的主張を明らかにすることすらせず、
やるだけやってだんまりを決め込んだこのようなテロを、
いかなる意味でも僕は容認しない。

アメリカ政府はこのテロを、
イスラム原理主義勢力・アルカイダの指導者である
オサマ=ビンラディン氏の仕業であると決め付けた。
そして、
彼が住んでいるとされたアフガニスタンを事実上支配していた
タリバン政権に対し、
彼を無条件で引き渡せと要求した。
さらに、
それが実現されないと見るやいなや、
アフガニスタンにおいて空爆攻撃を行なったのである。

たしかに、
「同時多発テロ事件で多くの人が殺されたのだ。
 タリバン政権が犯人を引き渡さない以上、
 空爆攻撃もやむをえない」との意見も分からないではない。
また、
タリバン政権は同性愛者を、
「同性愛者である」というたったそれだけの理由で処刑していた。
「女性に教育を受けさせる必要はない」などということを公然と主張し、
職場からも女性を閉め出していた。
はっきり言って、
とんでもない非民主的政権であったことは事実だ。

けれど空爆攻撃は、
最大限の外交努力を積み重ねた上で、
それでもどうしようもない場合の最後の手段であるべきだ。
報復攻撃で真っ先に犠牲になるのは
アフガニスタンの一般庶民なのだから。
犯人や首謀者だけを殺す爆弾などというものは
どこにもないのである。
しかし、
最大限の外交努力をアメリカが行なったとは、
どうしても僕には思えない。

タリバン側は空爆開始直前まで、
曲がりなりにも「対話による解決」を呼びかけてきた。
しかしアメリカは、
「話し合いの余地はない」などとして、
対話のテーブルに着こうとすらしなかった。

またアメリカは、
「オサマ=ビンラディン氏を引き渡せ」と言いながら、
彼が事件の犯人である証拠さえタリバン側には開示しなかった
(タリバン政権が崩壊した後になって、
 オサマ=ビンラディン氏が
 同時多発テロへの関与を認めるような発言をしている
 ビデオテープが公開されはしたが、
 そのテープが収録されたのは
 アメリカが空爆攻撃を開始した後のことであったとされている)。
「自国に滞在する人間を
 証拠もなしに外国に引き渡すことはできない」というのは、
自称「主権国家」のタリバンにとっては当然の論理であった。
オサマ=ビンラディン氏の引き渡しを
話し合いによって実現するつもりがあるのなら、
アメリカは対話のテーブルに着き、
彼が犯人である証拠をタリバン側に突きつけるべきであったのだ。

以上の手続きを経ないままに空爆攻撃に踏み切ったアメリカが
「最大限の外交努力」を行なったとは言いがたい。
だから僕は、
アメリカによるアフガニスタンでの空爆攻撃に反対した。
その判断は、
今でも間違ってはいなかったと信じている。
このような論理がまかり通れば、
アメリカは自分の攻撃したい国を
いつでも攻撃することが許されることになってしまう。
極端な話、
「この事件の犯人は日本に住む○○という人物だ。
 証拠を示すことはできないが、
 とにかく彼が犯人なのだ。
 彼を無条件で引き渡せ。
 言うことを聞かなければ日本を空爆する」などとして、
日本に空爆攻撃を行なうことも可能だったのである。

アメリカは一方的に世界の警察官となり、
なおかつ裁判官と死刑執行人の権限をも兼ね備え、
世界中に自分たちの決定を押し付けようとしている。
そして、
この「法廷」では弁護人はおろか、
第三者的な傍聴人の存在すら許されない。
「敵か味方か」・「中立はありえない」などという二分法をもって
世界各国を恫喝し、
自分たちへの同調を強制しようとするからだ。
一方でアメリカは、
国際刑事裁判所問題でも明らかになったように
自分自身を国際法の上に置き、
自らを国際的司法権の及ばない位置に据えようとしている。
その最も顕著な例が
このアフガニスタンにおける空爆攻撃だったのだ。

さて、
今回の卑劣なテロ事件には、
いまだに解決への希望が見えないパレスチナ問題や、
経済のグローバル化の進展によってますます拡大する
南北格差が背景にあると言われている。
それはおそらく事実だと思う。

そもそもイスラエルは、
国連決議224号や338号によって、
東エルサレムやガザ地区をはじめとする占領地から
撤退することが決められている。
パレスチナ紛争の原因は、
こうした国連決議を30年以上にわたって無視し続け、
いまだにパレスチナの独立を認めようとしないイスラエルの側にある。
そして、
そうした事態を事実上容認し、
支援してきたのがアメリカだ。
パレスチナ人のキャンプや町は、
今もアメリカからイスラエルに供給された
F16戦闘機や戦闘ヘリコプターによって
粉々に破壊されている。
このようなイスラエルやアメリカの態度が、
パレスチナの人々を絶望的な自爆テロへと
駆り立てているのである。

もちろん僕は、
パレスチナ人による民間人を標的にした自爆テロにも
賛成しない。
このようなテロは
イスラエル人とパレスチナ人の間の憎しみを深め、
隔たりを大きくするものでしかない。
イスラエル軍に侵略・再占領の口実を与えるだけであり、
パレスチナ問題の解決には寄与しない。
しかし、
こうした自爆テロを批判する前に、
まずはイスラエルの側から、
不法な暴力で作られた入植地を撤去し、
国連決議に従ってすべての占領地から撤退し、
パレスチナ国家の樹立を承認するべきなのである。

しかしアメリカはイスラエルに甘い。
アメリカは、
クウェートを侵略したイラクに対しては直ちに軍事攻撃を開始し、
十数万とも言われるイラクの人々を殺害した。
そして、
イラク市民の生活を支えてきた電力や水力のシステムを破壊した。
撤退後も、
国連の数字によっても毎月約5000人の子供が死亡するほどの
厳しい経済封鎖を科しているにもかかわらず
(この毎月の犠牲者数は、
 同時多発テロの犠牲者数を上回る)、
パレスチナを30年以上占領し続けるイスラエルに対しては、
軍事攻撃どころか経済制裁すら行なおうとはしない。

そして、
アメリカが主導する経済のグローバル化は、
世界の富のほとんどを
アメリカを筆頭とする先進国に集中させ、
発展途上国の対外債務を急激に膨張させている。
国際通貨基金や世界銀行は、
そうした国に資金を供給する見返りとして
その国の政府に医療や自国産業への補助金のカット、
そして多国籍企業の進出を容易にするための規制緩和を強制し、
発展途上国の民衆の生活を窮地に追いやっている。

こうして、
アメリカのパレスチナ政策や経済のグローバル化は、
イスラム諸国の民衆の間に反米感情を植えつける土壌を広げている。
こうした「テロの土壌」に目を向け、
解決への努力を行なわない限り、
アメリカに対する自爆テロの志願者が絶えることはないだろう。
そのことを忘れ、
軍事攻撃によってテロを根絶しようとすると、
イスラム諸国の反米感情にますます火をつけるだけである。

そして今アメリカは、
大量破壊兵器を開発していることを理由に
イラクへの先制攻撃に踏み切ろうとしている。
しかし、
少し考えれば分かることだが、
世界最大の大量破壊兵器保有国はアメリカなのである。
世界で最初に核兵器を作ったのもアメリカであるし、
使用したのもアメリカだ。
そして、
今までに蓄積した膨大なデータを基にして、
今も核爆発をともなわない核実験・「未臨界核実験」を続けているのも
アメリカだ。

そもそも、
イラン・イスラム革命の拡大を恐れるあまり、
フセイン政権を増長させたのはアメリカだ。
イラン・イラク戦争中の1988年に
フセイン政権がハラブジャ事件を起こしたときも
アメリカは、イランへの対抗上、
フセイン政権との友好関係を保つため、
事実上これを黙認したのである。
このとき、
フセイン政権の使用した化学兵器によって
5000人とも言われるクルド人が虐殺されていたにもかかわらず
(子供や老人も含めて村ごと皆殺し、といった状況だった)、
アメリカはこれを見殺しにしたのである。
それが、
今頃になってクルド人たちに、
フセイン政権打倒の反乱を起こして親米政権を作るように
話を持ちかけている。

イラク民衆の間に民主主義思想を広めることによってではなく、
外国勢力による軍事介入によって
フセイン政権を打倒しようとするこのやり方は、
まさしくテロそのものである。
リビアの最高指導者・カダフィ大佐は8月31日、
次のように述べている。
「イラクが攻撃されて体制が崩壊すれば、
 イスラム世界が西洋に脅かされているというビンラディンの説が
 正しかったことになってしまう」。
イラクへの先制軍事攻撃は、
イスラム原理主義者たちにテロの大義名分を
与えることになるだろう。
また、
逆説的な話だが、
こうしたアメリカの態度こそが、
「アメリカは、
 我が国への軍事侵略を公然と主張している。
 世界一の軍事大国であるアメリカに対抗するには、
 核兵器を保有するしかない」と、
大量破壊兵器開発を正当化する口実を
イラクに与えているのである。

フセイン独裁政権の打倒は、
イラク民衆の主体的な意志に基づく行動によって
なされるべきだ。
アメリカの軍事先制攻撃は
明らかに「国家の自衛権」を逸脱した介入攻撃であり、
許されるべきではない。
これがもし、
国連決議も取らないアメリカの単独攻撃となった場合は
なおさらである。
アメリカは、
イラクの体制をその一存で決定する権利を
持っているわけではないのだから。

また、イラクの側も、
大量破壊兵器を持っていないと言うのなら、
国連による査察を無条件で受け入れることを
ただちに表明してほしい。
「無条件での受け入れ」には
たしかに理不尽な部分も多いのかもしれないが、
イラクの側も、
多くの民衆を巻き添えにする戦争を回避するために、
最大限の努力をしてほしい。

僕は、
同時多発テロ事件から1年を迎えるにあたって、
改めてテロリズムに反対することを表明し、
合わせて、
アメリカによる戦争政策にも反対する。
『鈴木邦男をぶっ飛ばせ!』「酒井徹の今週の裏主張」No.4より転載)
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by imadegawatuusin | 2002-09-15 18:44 | 国際