『蟹工船』ブーム!? で『中日新聞』にコメント

「現代は団結が難しい。
 だからこそ、
 蟹工船があこがれの対象になっているのでは
 (名古屋ふれあいユニオン酒井さん11面)」
(『中日新聞』6月5日夕刊1面)


■「本当に、ワーキングプアが読んでるの?」
「『蟹工船』ブーム
 ――荒れる海 低賃金で働く男たち描く――
 ワーキングプア 若者ら共感」と題する記事が
『中日新聞』6月5日夕刊に掲載され、
僕のコメントが掲載された。
関係する部分だけを引用すると以下の通り。

東海地区は、
有効求人倍率の水準は高い。
しかし、
派遣労働者らが参加する
「名古屋ふれあいユニオン」の委員長、
酒井徹さん(24)は、
不安定な雇用状況を蟹工船に重ねる。

「同じ工場で正社員、派遣社員、
 日系ブラジル人、研修生が働き、
 しかも待遇が異なる。
 今や誰でも格差は身近な関心事で、
 幅広い層がブームを支えているのでは」
という。

蟹工船では労働者が団結し、
経営者側に立ち向かう。
しかし、
自身も派遣やホームレスの経験がある酒井さんは
こうも指摘する。

「現代はむしろ団結が難しく、
 希望を見いだしにくい。
 だからこそ、
 蟹工船があこがれの対象になっているのではないか」


……とまぁ いっぱしのことを言っていますが、
『蟹工船』なんて大学時代に1度読んだきりで
ほとんど忘れていたようなもので、
『中日新聞』の記者さんが突然組合事務所に来たので、
かなりいい加減なことを口走っていたような……。
(確かこんな感じのやりとりでした↓)。

記者「いま、
   小林多喜二の『蟹工船』が
   売れているんだそうですね。
   若い派遣労働者なんかが
   自らの境遇に重ね合わせて
   共感したりしてるんでしょうか」

酒井「それ、ホントの話なんですか。
   売れてる売れてるって話は聞きますけど、
   実際の派遣労働者で
   『蟹工船』読んでる人の話なんて、
   少なくとも僕は聞いたことありませんけど……」

記者「でも栄の本屋さんとか行ったら
   平積みになってて、
   ものすごい部数が売れてるって話ですよ」

酒井「うーん……、実際の派遣労働者がというよりは、
   もうちょっとインテリというか、
   そういった層が買っていってるんじゃないかと
   いう感じがしますけどね。
   いろんな地域から かき集められた労働者が
   蟹工船だのマグロ漁船だのに乗せられたりとか、
   あるいは
   いわゆる『飯場』でも『タコ部屋』でもいいんですけど、
   そういう『蟹工船労働』っていうのは、
   一昔前までは世間からかなり隔絶されたところに
   あったんじゃないかと思うんですよね。
   ところがここ数年、
   製造業にも派遣労働者が解禁されて、
   『住み込み派遣』なんていう形で、
   どんどん「普通の工場」の中に入って来ちゃった。
   沖縄とか東北とかから集められてきた労働者が
   派遣会社の用意した寮に入れられて、
   毎朝派遣会社の手配したバスに乗って
   工場にやってくる。
   昔の『蟹工船』は海の上にあってなかなか見えなかったけど、
   いまじゃごく普通の町工場に、
   ネットカフェで暮らしている日雇い派遣労働者なんかが
   ひょこっと来たりして、
   『蟹工船労働』がいわゆる『一般』の労働者にとって
   目に見える、身近な、『明日は我が身』の存在に
   なりつつある。
   そういったことを敏感に感じ取った、
   派遣労働者そのものよりは
   もうちょっとハイクラスな層の労働者たちが
   本を買っていってるんじゃないでしょうか」

記者「格差が身近なものになっているということですか」

酒井「例えば今年の冬、
   グッドウィルでこたつ工場に日雇い派遣で行ったんですけど、
   僕に仕事を教えてくれたのが
   龍さんという中国人研修生だったんですよね。
   僕に仕事を教えるぐらいですから、
   僕よりずっと仕事ができる。
   職場のみんなから頼りにされている。
   でもこの人、愛知県の最低賃金である
   時給714円すらもらっていないんです。
   ある日1日だけヒョコッと行った僕が
   時給800円もらってるのにですよ。
   『蟹工船』でも同じ船の中に
   全然違う所から来た労働者が集められて
   最初は分断されてるけど、
   同じ釜で飯を食って、
   同じようにひどい目に遭っていく中で
   最終的には一つに団結していく。
   でも、いまは違うんです。
   同じ非正規労働者でも、
   派遣労働者と外国人研修生では
   全然立場が違う。
   まして日雇い派遣なんか、
   今日行く職場と明日行く職場が全然違う。
   今日一緒に働いている人と
   明日一緒に働く人が違っている。
   これで、
   労働者は団結して闘おうっていうのが
   むちゃくちゃ難しい。
   派遣労働者は正社員との格差に怒るというよりも、
   そもそも『ハケン』と『正社員』は違うんだから……という
   あきらめが もはや先行してしまう。
   だからね、
   いまの労働者にとって『蟹工船』っていうのは
   一種のあこがれだと思うんですよ。
   もちろん、当時の職場環境は
   今よりずっと劣悪だし、
   代わってやろうかと言われたら
   全力でお断りするけど、
   でも、本を読んでそこに自分を投影している人たちって、
   『労働者が最後は団結して立ち上がる』あの結末に、
   何かあこがれみたいなものを
   感じているんじゃないでしょうかね」

ちなみに小林多喜二といえば、
僕は三浦綾子の書いた、
小林多喜二の母・セキを主人公とする
『母』という小説が大好きです。
小林多喜二の『蟹工船』そのものは
実を言うとあまり印象に残ってないし、
面白かったという感覚もないのですが、
この小説には泣けました。

「私は小説をかくことが、
 あんなにおっかないことだとは
 おもってもみなかった。
 あの多喜二が小説書いて殺されるなんて……」

「わたしはねえ、
 なんぼしてもわからんことがあった。
 多喜二がどれほどの極悪人だからと言って、
 捕らえていきなり竹刀で殴ったり、
 千枚通しでももだばめったやたらに刺し通して、
 殺していいもんだべか。
 警察は裁判にもかけないでいきなり殺しても
 いいもんだべか」

「多喜二は死んだ。
 指はぶらんとするほど折られても、
 足はぶすぶす千枚通しで刺されても、
 守らねばならない秘密は守ったんだと。
 そう言って、
 党の人たち、みんなほめてくれたの。
 でも、
 ほめられんでもいい。
 生きていてほしかった(三浦綾子『母』)



【参考記事】
評伝・葉山嘉樹(「セメント樽の中の手紙」作者)
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by imadegawatuusin | 2008-06-05 22:28 | 文芸