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――ため息が出るほど見事な、胸に迫る感動作――

■本書のキーワードは「絆(きずな)」
やぶうち優さんの漫画には、
その作品の最終回の題名に、
作品全体のキーワードとなる言葉を与え、
締めくくりの意味を強調するという傾向がある。
『少女少年III』で言えば第13話の「自分らしく」がそれに当たるし、
『少女少年II』の場合は第12話の「絆―きずな―」という題名が
作品全体のキーワードなのだと考えられる。

それはもちろん、
第一義的には本書の主題である、
主人公・星河一葵と その母・大空遥との絆であり、
また一葵と その「父」である星河鉄郎との絆であろう。
だが、それだけではない。

三省堂の『新明解国語辞典』(第六版)には「絆」について、
「家族相互の間にごく自然に生じる愛着の念や、
 親しく交わっている人同士の間に生じる絶ち難い一体感」とある。
単なる友情とも、恋愛感情とも少し違う、
「絶ち難い一体感」。
それこそが、
一葵と遥、一葵と鉄郎のみならず、
一葵と絵梨、
一葵とトキオ、
そして一葵とマユカの間に貫かれている「絆」である。

■絆は“形”ではない
一葵はこうした「絆」について、
「“形”じゃないと
 思うんだ」と言っている(本書202ページ)。
『少女少年II』という作品は、
「友情」とか「恋愛」といった“形”にこだわって読んでしまうと、
その本質が見えなくなる。

『少女少年』シリーズは、
基本的には「少女漫画」であり、
もっと直接的に言えば恋愛漫画だ。
各作品の主人公たちが他のキャラクターに対して
どういう感情を持っているかは
作品を読めばすぐにわかる。

だが、そうした中で、
この『少女少年II』だけは少し事情が違うのだ。
本書の主人公である星河一葵の
絵梨・トキオ・マユカに対する想いには、
単なる友情とも恋愛感情とも異なる
一種独特のものがある。

そもそも一葵は、
作品前半では絵梨に対して、
ほとんど「一目ぼれ」に近い感情を抱いていたことが描かれている(本書34、36、59~61、69~72ページ)。

ところが、である。
一葵は一方で、
そうした自分の絵梨に対する執着について、
客観的に、批判的に見つめなおす冷静さを失わない。

女々しいな
オレ…。
今さらなに
考えてんだよ。
女になるって
決めたじゃ
ねーか。(本書62ページ)

…ばかだな
オレ。
つまんないこと
きいて…。
絵梨ちゃんは
オレなんかより、
ずっと遠くを
みてるのに…。(73ページ)


と、絵梨への想いにとらわれる自分を
自ら突き放すかのような独白すら為す。

そして、絵梨の幼馴染であり、
彼女に想いを寄せるトキオとの交流を経て一葵は、
絵梨とトキオとの仲を取り持つことを約束する(本書86ページ)。

少女漫画の世界では、
こういう「約束」は大概うまくいかないものだ。
恋愛感情より友情を優先し、
自分の想いに蓋をして二人の仲を取り持とうなどと「無理」をすると、
結局のところは破綻をきたし、
まず間違いなく泥沼の三角関係に陥ると言っていい。
(やぶうち優さんの『水色時代』で主人公の「優ちゃん」が、
 「タカちゃん」と「ヒロシ君」との間を取り持とうとしたときのことや、
 『みどりのつばさ』で主人公の翠が
 萌と翼との間を取り持とうとしたときのことなどは
 その典型例である)。

だが、本書では そうは ならない。
トキオとの間に結ばれたこの「男の約束」(本書86ページ)に、
一葵は終始忠実に行動する(本書106、114~117、150~158ページ)。
それも、「しぶしぶ」ではなく相当「積極的に」、である。
彼はトキオと絵梨との間がうまくいくように、
できうる限りの努力を惜しまない。

このあたりが星河一葵という男の子の
不思議なところでもあり、魅力でもある。
「恋愛」や「友情」といった“形”にとらわれすぎると、
どうしてこのような行動が可能なのかと
訳がわからなくもなる。
だがしかし、
ここで登場する概念がまさに「絆」、
すなわち「絶ち難い一体感」なのである。

■一葵の持つ、真の「天性の才能」とは
確かに一葵が絵梨に対して、
当初「一目ぼれ」に近い感情を抱いていたことは疑い得ない。
しかし同時に、
いやそれ以上に一葵は、
トキオや絵梨に「絆」――断ちがたい一体感――を感じるようになっていた。
トキオの幸せが一葵の幸せであり、
絵梨の幸せが一葵の幸せなのである。

一葵たちの学校の校長を務める露里浩紀は、
一葵が持っている「天性の才能」として
次の2つを指摘している。
1つは「役になりきれる」才能であり(本書101ページ)、
もう1つは「周囲にいい影響を与える才能」である(本書206ページ)。
ここに僕がもう1つ付け加えることが許されるとすれば、
「他者に絆――断ちがたい一体感――を感じることができる才能」
を挙げることができるだろう。
いや、
むしろ これこそが根源的な一葵の「天性の才能」であり、
露里校長の指摘した上の2点は、
ここから派生した2つの側面、
いわば「副次的な才能」であると言えなくもない。
(他者に対して容易に「一体感」を感じることができるから
 一葵は「役になりきれる」のであり、
 一葵が他者に一体感を抱いて接するからこそ、
 彼は「周囲にいい影響を与える」ことができるのである)。

彼の本当の才能は、
他者に対する共感能力にこそある。
他者との絆を感じることのできる才能こそが、
一葵に与えられた最大の「天性の才能」であったのだ。

ため息が出るほど見事な、
胸に迫るこの感動作を、
一人でも多くの人にぜひとも読んでもらいたい。

《進む》
やぶうち優『少女少年II―KAZUKI―』解説(その2)
やぶうち優『少女少年II―KAZUKI―』解説(その3)
やぶうち優『少女少年II―KAZUKI―』解説(その4)
やぶうち優『少女少年II―KAZUKI―』解説(その5)

やぶうち優『少女少年II』各話解説


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by imadegawatuusin | 2006-09-28 21:49 | 漫画・アニメ

■「おもしろさ」を具体的に書こう
ジャーナリスト・本多勝一氏の
『実戦・日本語の作文技術』(朝日文庫)に収録されている、
文芸教育研究家の西郷竹彦氏との対談の中で、
次のようなやり取りがある。

本多 自分がおもしろかったと思ったところを、
    読者も同じようにおもしろく感じるにはどうしたらいいか。
    ……いくら「おもしろかった」と書いてもだめですからね(笑い)。
西郷 「うまかった」と書いても、読者は食ってないわけですものね。


それが食事ガイドなら、
ただ「うまかった」と書いてあるだけでも構わない。
読者がそれを参考に、
自分で行って食べてくればいいまでの話だ。
だが、例えば本多氏の『カナダ=エスキモー』などの場合、
「おもしろそうだから」ということで
カナダにエスキモーを見に行くわけにはいかないのである。

そうした場合はやはり、
その「おもしろさ」(この場合は「興味深さ」という意味)を
具体的に書かなければ読者には何も伝わらない。
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by imadegawatuusin | 2006-09-27 21:46 | 雑記帳

――反民主的暴挙を許してはならない――

■「タイの田中角栄」:タクシン政権崩壊
「タイの田中角栄」と言われたタイ王国首相・タクシン氏の政権が、
軍部のクーデターによって事実上 崩壊した。

タクシン首相は、
典型的な金権・腐敗のバラマキ政治家であったと言われている。
各地の人々が地元へ予算を誘導しようと、
競うようにタクシン陣営へと投票するため、
タクシン政権は選挙では、
圧倒的な得票を得てその政権を維持してきた。
だが、その得票の多くはタクシン政権の政権運営や
タクシン首相の政治姿勢への支持や共感ではなく、
その支持基盤は意外にもろいものであったことが
今回のクーデター騒動でも明らかになった。

民主的に選ばれた首相が
軍部のクーデターにより政権を追われたにもかかわらず、
タイ国内で大規模な抗議行動が巻き起こる気配は見当たらない。
むしろ、
「金権・腐敗」の政権を「打倒」した軍事クーデターを、
一般市民が支持する風潮さえあるようだ。

■陸軍上層部と国王との「野合」
しかし、
「腐敗した政権」を打倒するためだからといって、
民主主義国家において軍部が政権を転覆するなどという暴挙を
僕は断じて認めるわけにはならない。
タイの憲政史上初めて国民の手によって作られた憲法を一方的に停止し、
この憲法に基づく選挙によって選出された議会を解散させるなど、
まさに言語道断である。

今回のクーデターは、
決して「腐敗政権の打倒」というような「美しい目的」のみのために
決行されたものではない。
今回のクーデターを首謀したソンティ陸軍司令官は、
今年10月1日に予定されていた軍首脳人事において、
更迭がささやかれていた。

彼は、
タクシン首相とは距離を置く元首相のブレム枢密院議長に近い姿勢をとってきたので、
このままではよりタクシン首相に近い将校と
その首を挿げ替えられる運命にあった。

また、
タイの国王もまた、
タクシン首相とはそりが合わなかった。
「成り上がりもの」の田中角栄を
日本の昭和天皇が毛嫌いしていたと言われるのと同様、
タイの国王も、
華僑出身でその経済力を背景に台頭した
この品位も品格もないタクシンという首相を嫌っていた。
タクシン首相はこの4月にも、
国王との謁見の後に「辞任」を表明したことがあった。
しかしその後も彼は、
のらりくらりと言を左右に はぐらかし、
政権の座に居座り続けてきた。

この、面子を潰されたタイ国王と、
「首切り」の危機に直面した陸軍上層部との利害の一致によって実現したのが
今回のクーデターだったのだ。

■「1回や2回の選挙」で清廉潔白な首相が選べるか
僕は、
民主主義国家においてはあくまで民主的手法による政権交代の実現を求める
社会民主主義者である。
いかに現政権が腐敗・堕落していようと、
暴力革命や軍事クーデターによって民主的に選出された政権を転覆するのは、
一部の陰謀家や軍部による越権行為であり、
傲慢のきわみであると考えている。

民主主義国家においては民主的手法により、
漸進的に政治は改革されてゆくものである。
タイで初めて国民の手によって憲法が制定されたのは、
1997年のことである。
それ以来 現在までに行なわれた選挙は2001年と2005年の2回だけで、
いずれもタクシン首相の率いる愛国党が勝利してきた。
たかだか数年の間に一回二回の選挙を経ただけで、
人格高尚で清廉潔白な人物を首相に選出できるほど
民主主義は甘くない。
世界の民主主義国は、
どの国においてもこうした政権の腐敗・堕落を経験している。
それでもこうした国々は、
地道な努力を重ねることで徐々にではあるが改革を勝ち取り、
選挙のたびに民衆による政権選択という試行錯誤を繰り返しながら
民主主義を定着させてきたのである。

■非民主的手法は結局は腐敗への道
クーデターによる政権転覆は、
短期的にはいかに腐敗政権を除去したように見えたとしても、
こうした地道で着実な改革への努力を
一瞬にして無に帰してしまう暴挙である。
こうした安易な手法によって目的を実現しようとする政権は、
結局 現政権にも増して腐敗し、
場合によってはより危険な全体主義への道を切り開くことにもなりかねない。

タクシン政権のような腐敗政権を
民主的な手段をもって打倒することができなかったという点も含めて、
クーデターによる今回の政権転覆はタイにおける民主主義の敗北である。
軍事政権はただちに民主主義的に選出された議会を復活させ、
政権を民衆の手に引き渡さなければならない。
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by imadegawatuusin | 2006-09-20 21:24 | 国際

――主人公・雅深に『こどちゃ』の葉山くんの面影を見る――

小花美穂さんの代表作は、
何と言ってもやはり『こどものおもちゃ』だろう。
『こどちゃ』は僕にとって、
今までの人生で出合った漫画の中で確実に五本の指に入る
思い入れの深い作品だ。

その『こどちゃ』のヒーローである葉山くんが大人になったら、
こんな感じの青年になったのだろうか。
本書の主人公・工藤雅深(まさみ)を見ていると、
僕はどうしてもそこに「葉山くん」の面影を見てしまう。

この本は、
絶対に『こどものおもちゃ』とセットで読むべきだろう。

あと、
脇役ではあるが「社長室長の高井さん」は、
「去り際」が本当にカッコいい。
いい意味で、期待を裏切るキャラクターであった。
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by imadegawatuusin | 2006-09-18 21:06 | 漫画・アニメ

←「やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第11話)」に戻る

第12話 少女少年
やぶうち優さんは単行本の最終話の題名に、
その作品全体の題名をそのままつけることが
しばしばありますね。
『少女少年』もそんな作品のひとつです。

さて、
一人の小学六年生のもとに
一斉に押しかけるマスコミ。
典型的な
集団的過熱取材の
状況です。
「もし今ここで
 『そんなのデマだ』って
 言ったところで、
 この先さらに
 追求の手が厳しく
 なるに決まってる!」
とは晶の独白です。
(しかし、
 ×「追求」→○「追及」の間違いですね)。

翌日の新聞では、
「“天使”白川みずき
 神話崩壊!
 今世紀最後のアイドル」
なんて報道されていますけど、
たしかに、
この後の「少女少年」シリーズを通しても、
白川みずきのような、
デビューから引退まで圧倒的な人気を誇った
「国民的アイドル」は
再び登場することはありませんよね。

そして、年が明けて、
学校へ登校する晶。
村崎さんが
「あとの責任は
 ぼくがとる!」と明言していた通り、
「水城晶」にはマスコミの取材は及んでいない
もようです。

それで、一人とぼとぼと登校する晶に、
紗夜香が告白して、失恋。

で、「約束どおり」
「ハダカで
 逆立ちして
 校内一周」しようとする智恵子を、
大慌てで止める晶ですけど、
このとき智恵子はなぜここまで
この「約束」にこだわろうとしたのでしょうか。

これは単純に、
晶との約束とかそういうことじゃなくて、
「TVでは
 いー子ぶってても、
 ウラではゼッタイ、
 わがままで
 いー気になってるに
 決まってる!」と言い切った
過去の自分の発言……というか感情に
何かケジメをつけときたいと思った動機が
智恵子の中にあったのでしょう。

そして、
告白シーンのいいところで、
女の子たちが乱入。
1997年度当時はそういった言葉はなかったですけど、
いわゆる「腐女子」のはしりでしょう。
「水城晶くん
 でしょ!?」、
「女装して
 アイドル
 やってた(ハート)」、
「かわいーっ(ハート)」、
「女のコ
 みたーい(ハート)」、
「あたしたち
 ファンになっ
 ちゃったのーっ(ハート)」、
「これからも
 アイドル
 つづければ
 いーのにーっ。
 もったい
 なーい」……。

「激怒する
 ファン続出!!」
とか
「怒るファン」とかを描きながらも、
こういった層もちゃんとあったということも
やぶうち優さんはきちんとおさえているんですね。

そして最後、
青野るりの母親からの自立を象徴する
「髪型のイメチェン」と、
黒木紗夜香の「大女優」への道を示唆して、
それでもって最後の最後に村崎さんが、
『少女少年II』の星河一葵に声をかけるところを
チラッと描いて
「少女少年」第一期は終わります。


《戻る》
やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第1話)
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やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第10話)
やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第11話)


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やぶうち優『少女少年II』各話解説

やぶうち優「少女少年 0話」解説

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by imadegawatuusin | 2006-09-16 16:53 | 漫画・アニメ

←「やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第10話)」に戻る

第11話 涙のクリスマス
るりからの「告白」を受けて、
晶の頭には走馬燈のように、
芸能界の外からるりを見てきた自分自身が
浮かびます。

「みずきにとっては
 大先輩」、
「晶にとっては
 手の届かない
 憧れのアイドル」、
「るりちゃんは
 オレにとって
 ふつーの女の子
 なんかじゃない」……。

この言い方でるりは、
晶が寄せる自分への思いが
智恵子に対するものとは全く違うということを
改めて痛感させられるわけなんですが……。

確かに、
晶にとってるりは、
男の子がたとえ女の子になってでも近づきたいと願った
「手の届かない
 憧れのアイドル」だったわけです。
それは多分、
るりの望むものではなかったのでしょうけど、
そんなことでもなければ
二人が知り合うことは多分なかった。
単純に智恵子への思いと比較できるようなものでも
ないんじゃないかと思うんですね。

「結局私は
 晶くんにとって
 偶像(アイドル)でしか
 ないのね」というるりの言葉は、
言葉通りの意味ではものすごく正しいんですけど、
でも晶にとってるりは、
「ただの偶像(アイドル)」だったわけでも
ありません。
「手の届かない
 憧れのアイドル」であり、
「スーパーアイドル」だったのです。
もちろん、
そんなこと言ってもるりにとっては
何の慰めにもならないのかもしれませんけど。

そして、
本作一のるりの見せ場。
にっこり微笑んで晶にキスした後、
「私はこれからも
 『みんなの』
 アイドルとして
 がんばる」と宣言。
「私なんかいらなく
 なっちゃうくらい
 売れっ子になって」という
あの日の晶への「お願い」を撤回し、
人差し指を「ぴっ」と立て、
「そんな
 気のぬけた
 『みずきさん』、
 ライバルとして
 みとめない
 から…!」と
鮮やかに言ってのけるのです。

さて翌日、
何とか学校までは来たものの、
「智恵子に
 会ったら
 どんな顔すりゃ
 いーんだろ」と
戸惑いを隠せない晶です。
ゲタ箱に向かって
いろいろと予行演習を繰り返す晶ですけど、
そんな晶を智恵子は物陰から
見守っています。
そう。
智恵子なりにやっぱり気を使ってたんですね。

で、
こぶしを「ぐっ」と握って気合いを入れて
(サイン会に行くことを決断したときも
 同じことをしてましたね)、
晶に話しかける智恵子。
「やっ…、
 やっだぁー
 晶!」
「なにゲタ箱に
 むかってあいさつ
 してんの?
 ばっかじゃない!?」
と、
何事もなかったかのように、
つとめて「いつも通り」に振舞うわけです。
晶もそんな智恵子のやさしさに気づいて、
うれしくなってきちゃうんですね。

ところがこのとき、
すでに晶の正体が
世間に知られようとしていたわけです。

村崎プロの社前には
記者たちが詰め掛けます。
「紅白歌合戦
 出場が決まって
 いますが、
 この場合、赤組白組
 どちらで出場する
 つもりですか!?」。
本当に、
こういう場合どうなるんでしょうかね。

これまでの例で言えば、
美川憲一は白組、
「性同一性障害」者の中村中は赤組だった
ようですが……。
(この基準でいうとおそらく、
 白川みずきなら白組、
  『少女少年~GO!GO!ICHIGO』の章姫いちごなら
 赤組、でしょうかね)。

この期に及んでも晶は、
「大丈夫!
 ハダカにでも
 なんねー限り
 シラを切り
 とーせば
 バレないって」なんて言ってて
ノーテンキですが。

さてそこに紗夜香がやってきて、
「じつは…、
 今回のことは、
 あたしの
 マネージャーが
 したことなの…」。
「ごめんなさい!
 こんなことに
 なっちゃって…!
 あたしは
 もういいって
 言ったのに…!」と
泣き出してしまいますけど、
このときの晶の独白が、
「紗夜香が
 あやまるなんて…」
なんですね。
それほどの「高飛車キャラ」と
晶の中では認識されていたんでしょうか、
紗夜香って……。
(まぁ、
 靴にガビョウ入れられた件だって
 いまだにあやまってもらってないし)。

「紗夜香のせい
 じゃないし、
 気にすんなよ!
 どーにか
 なるって!」と
あくまで強気の晶ですけど、
紗夜香は、
「ムリよ!」
「きっともう
 マネージャーが
 裏で手を
 まわしてる
 はずだわ!」と
断言します。
紗夜香の目から見ても、
このマネージャーはそういう性格のやつなんでしょう。

仕事先でも記者がウジャウジャ……。
「大丈夫だよ!
 水泳大会の
 ときだって
 なんとか
 なったし…!」
となおも強気の晶。
しかしここにきて、
晶の口から出る言葉は、
「大丈夫」・
「どーにか
 なる」・
「なんとか
 な」るといった、
ほとんど根拠のない空文句ばかりになってきているのが
気になります。

実際問題、この時点で、
紗夜香の陰湿マネージャーと晶との勝負は
事実上ついていたともいえるでしょう。

さて、
CM撮影会場に着くまでに
「記者に
 もまれ」てボロボロになったみずき。
しかし、騒動の中身が中身なだけに、
みずきを「も」んだ「記者」の中には
みずきの体を触ろうとしたヤツも
いたんじゃないでしょうかね。

撮影スタッフは
「あー、みずきちゃん
 いろいろたいへん
 だねー」と、
一見他人事っぽい態度です。
しかし……、
じつはこのCM撮影こそが
「インボー」だったわけなんですね。
CM撮影の内容がなぜか急遽変更されて、
「みずき」が裸になることに……、ってこれ、
単純に考えてセクハラでしょう。
「このギョーカイじゃ
 よくあること」なんてカメラマンIは言ってますけど、
どうなんでしょうね。
『少女少年』第一期が『小学六年生』で連載されたのは、
児童ポルノ処罰法が
1999年に国会で可決されて施行される以前の
1997年なわけですが。
(作中の年度設定も、
 みずきが第3話で出演した歌番組の表題に
 「ヒットパレード97」とありますから、
 おそらく1997年で間違いないでしょう)。
こういうとき、
マネージャーは撮影現場に入れないんでしょうか。

ちなみに、
このときの撮影される「予定」だった
「愛をひとつぶ
 バーモントチョコレート」のCM完成予想図が、
この第11話・涙のクリスマスの
カラー扉絵になっています。
「やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第12話)」に進む→


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やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第1話)
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by imadegawatuusin | 2006-09-14 16:50 | 漫画・アニメ

――ほほえましくも、少し切ないお薦めBL――

本書は水内繭子さんの、
かわいく、ほほえましく、
少し切ないボーイズラブ漫画作品集だ。
中でも後半に収録されている、
「リトルエンゲージ」・「ミニスカート純情」・
「メッセージ」の3作品が特にお薦めだ。

■「リトルエンゲージ」
中学生の健治の学年に、
岡本史(ふみ)という男の子が転校して来た。
実は、
彼は健治の幼馴染で、
しかも「婚約者」だったのだ。

史は以前、
健治の家の近くに住んでいて、
二人は大の仲良しだった。
だがこのころ、
幼い健治は一つの大きな勘違いをしていた。
彼は史を、
ずっと「女の子」だと思っていたのだ。
そして、二人はこのような約束をしていた。
「大きくなったら
 けっこん
 しようね」と……。

■「ミニスカート純情」
「ミニスカート純情」は、
上記の「リトルエンゲージ」の続編だ。
健治の姉の手にかかり、
史は女装させられてしまう。
それを見た健治は
「すげー
 かわいい
 史」と目を輝かせるが、
史の想いは「少し複雑」である。

もちろん、
大好きな健治に
「すげー
 かわいい」と言ってもらえて
「悪い気は
 しない」。
けれど、
健治は史を、
ずっと女の子だと思っていたのだ。

そこで、
史は健治にさりげなく訊いてみた。
「どんな
 女の子に
 なってると
 思ってた?
 再会する
 まで」
「どんな
 女の子を
 期待してたの
 おれに」

それは、男である史にとって、
「本当は
 すこし
 こわい
 質問」だったのだ。

■「メッセージ」
本書に収録された作品の中でも、
ひときわ巧さの光る作品だ。

ボーイズラブ漫画は俗に「やおい」、
つまり、
ヤマもなく
イミもなく
オチもないなどと揶揄されることがある。
だが、本書にはかなり予想外の、
感動的な「オチ」が用意されている。

「ヤマ・イミ・オチ」を兼ね備えた、
実力派のボーイズラブ作品である。

《お薦めボーイズラブ漫画》
1.松山ずんこ『ピーターパンのこころ』
2.萩尾望都『トーマの心臓』
3.まんだ林檎『コンプレックス』

酒井徹お薦めの女装漫画》
1.やぶうち優『少女少年』シリーズ(Ⅰ~Ⅶ)、小学館てんとう虫コミックススペシャル
2.吉住渉『ミントな僕ら』全6巻、集英社リボンマスコットコミックス
3.志村貴子『放浪息子』エンターブレイン
4.なるもみずほ『少年ヴィーナス』全4巻、角川書店あすかコミックス
5.松本トモキ『プラナス・ガール』ガンガンコミックスJOKER

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『かしまし』漫画版について


【本日の読了】
水内繭子『恋する子どもたち』松文社(評価:4)



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by imadegawatuusin | 2006-09-13 21:01 | 漫画・アニメ

■『嵐が丘』に着想を得つつ
 その構造を内側から食い破る実力作
本作・『"文学少女"と飢え乾く幽霊』は、
野村美月さんの「文学少女シリーズ」の第2弾である。
前作『"文学少女"と死にたがりの道化』は、
太宰治の『人間失格』に着想を得たミステリーとして
一部で大いに話題を呼んだ。
今回の『~飢え乾く幽霊』は、
19世紀のイギリスの文学者・エミリー=ブロンテ〔注1〕の
『嵐が丘』をモチーフとしている。

最後の最後まで読まないと
何がどうなっていたのかよくわからなかった前作と比べ、
今回の『~飢え乾く幽霊』は、
比較的早い段階で「物語の構図」の把握が可能だ。
おそらく読者の大半は
(『嵐が丘』という作品を知る・知らないに関わらず)、
この本の半分も読み終わらないうちに
この物語における主要な事実関係、
つまり『嵐が丘』的構図というものを
ほぼ掴み取ることができるであろう。

具体的には、
雨宮蛍の後見人である黒崎保の正体が
実は蛍の母・九条夏夜乃の幼馴染である国枝蒼だという事実。
そして彼が、
夏夜乃の娘である蛍を夏夜乃の身代わりに仕立て上げようとしているという
事実である。

だが、この作品の真骨頂は、
読者が以上の事実に気付き始めたそのところから始まるのである。

確かに読者は、
本書に展開される『表面的な』事実関係、
つまり「一体何があったのか」ということに関しては、
比較的 簡単に見抜くことができる。
そして、それは決して『間違っている』わけではない。
けれど野村さんは、
この『嵐が丘』的な事実関係というものを
まずはいったん作品の中に取り込んだ上で、
それを内部から食い破ってゆくという力技を披露する。

本書279ページで、
本書の語り手である井上心葉は次のように言う。

まだ、この物語は終わっていない。

まだ明かされていない真実がある。


物語の後半、
「まだ明らかにされていない真実」が次々と明らかにされてゆく中で、
物語は何度も何度も塗り替えられ、
その色合いを変えてゆく。
それまで見てきた物語が、
ちょっとした視点の転換で全く違う物語となってゆく妙味を
読者は味わうことができるだろう。

そして、最後に残る、
重く、けれど深く静かな読後感を
ぜひとも多くの人々に僕は感じてもらいたい。

〔注1〕『嵐が丘』の著者であるエミリー=ブロンテに関しては、
その姉・シャーロット=ブロンテもまた文学者として有名である。
エミリーの『嵐が丘』は出版当初は猛烈な非難ないしは黙殺をもって迎えられたが、
姉・シャーロット=ブロンテの代表作『ジェーン・エア』は出版当初から読者の歓迎を受けてきた。
近年でもこの『ジェーン・エア』は、
少女小説家・氷室冴子さんの傑作『シンデレラ迷宮』や『シンデレラミステリー』の
極めて重要なモチーフになるなど根強い人気を誇っている。
(『シンデレラ迷宮』において準主人公的役割を務める「ジェーン」が、
 実はこのジェーン=エアなのだ)。


《参考サイト》
「野村美月『“文学少女”と死にたがりの道化』」
「続・野村美月『“文学少女”と死にたがりの道化』」

野村美月『天使のベースボール』について
野村美月『天使のベースボール2巻』について
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by imadegawatuusin | 2006-09-12 20:52 | 文芸

←「やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第9話)」に戻る

第10話 天使爛漫
第9話の最後で、
智恵子のそばから晶が走り去るその最中に
会場の電気が「フッ」と消え
(この描写、うまいですね。
 智恵子の視線はずっと晶を捕らえていたのに、
 突然電気が消えて
 晶が視界から一瞬にして消えてしまうのです)、
「白川みずき」のアナウンスが会場に流れます。
「本日はあたし
 白川みずきのコンサートへ
 ようこそ!」
「まもなく
 始まります!
 最後まで
 ゆっくり
 楽しんで
 いってね!」……。

ということは、
このアナウンスをしているとき、
晶はまだ着替えてはいなかったことに
なりますね
(「姿は晶で声だけがみずき」という状態で
 マイクで話していた。
 だから電気を消したのか?)

10話冒頭で智恵子は、
「晶…。
 おねがい、
 早く戻って
 きて…!」と
心の中でつぶやいていますが、
その直後に「白川みずき」が登場していることを考えると、
晶が走り去った9話の終わりと
10話の始まりの間には、
晶がみずきに変身する、
それなりの時間が経過していたことがわかります。

みずきが女装した上、
あの「天使」のコスチュームに着替えるまで、
しかも姉の瞳との衣装交換が終わるまでの間、
智恵子はただ不安な気持ちのまま、
ずっと1人で待たされていたわけですね。

そこに、
白川みずきが登場します。

晶は戻ってきていない。
ステージの上には白川みずき。
「みずき=晶」と智恵子がほぼ確信しかけたその時、
「晶」が帰ってくるんですね。

会場が暗いだけでなく、
ステージの方は光に満ちていますから、
ステージのみずきをじっと見つめていた智恵子は
暗いところでは目が利きません。

しかし、ニセ晶が戻らないうちに
白川みずきが登場したいうことは、
よほど時間的に切羽詰まっていたのでしょう。
「入れ替わり」が完了するやいなや、
「みずき」はステージにダーッと走って
行っちゃったって感じでしょうかね。
「晶」が会場に戻る方が
それより遅れてしまったわけです。

舞台の上で白川みずきは
「天使爛漫」を歌います。
「やきもちな天使 気まぐれ天使
 いたずらな天使 じゃまをしないで

 今日だけは 素直になりたいから
 見守っていて…」。
白川みずきの歌は、
常にその時の智恵子のこころに共鳴し、
智恵子に行動を促す役割を担っています。
今回もそうです。

「白い翼の天使(エンジェル)

 今夜は
 あふれてる――」
白川みずきの歌声に突き動かされ、
智恵子の心の中から思いが溢(あふ)れ出てくるのです。
「あたし…
 みずきが晶でも
 …それでもいーと
 思ってた…」
「だって、
 あたし…」
「みずきも
 晶も
 好きだから…」。

ここで注意したいのは、智恵子は、
このコンサートで晶に告白しようとか、
そんなことはおそらく全く考えてなかっただろうって
ことなんですね。
ただただ、
みずきの歌を聴いて、
思わず思いが溢れ出たっていう、
そんな感じ。

だから、
後から冷静になって考えてみると、
このときの告白はもう冷や汗ものなんですよ、
智恵子にとって。
ですので後日、
晶と一緒に体育館裏を掃除することになったときなんか
気まずくて、
「コンサートの時
 あたしが言った
 こと…、
 気にしない
 でね」
なんて言ってしまう。
もちろん、
実際に智恵子の告白を聞いた「晶」は
実は姉の瞳なワケですから、
本物の晶には何のことだか
さっぱりわからないわけですけど。

さて、
話は戻りますけど、
コンサートの後、
晶と瞳は再びお互いの服を取り替えます。
……が、
その瞬間をパパラッチに
撮影されてしまっています。
(142ページ左下に
 「カシャ…」というカメラのシャッター音が
 描かれていますね)。

というか普通、
更衣室の扉を開けたまま
着替えるもんでしょうかね。
このへん、
晶は他の少女少年と比べても
根本的にノーテンキだと思います。

で、
例の体育館裏の告白シーン。

どうでもいいですが小学生のころ、
「校舎裏」とか「体育館裏」とかいうところは、
何かヒミツめいたひびきが
ありませんでしたか?

先生たちも掃除とかそういうとき以外は、
「校舎裏には行ってはいけません」
みたいなことを言っていて
(目が届かないから?)、
つまらないイタズラとか「愛の告白」とかは、
大概そこで行なわれていたような……。

それはともかく、
紗夜香が来て「入れ替わり」のタネを
全部バラしてしまいます
(紗夜香は手にクマデを持ってないけど、
 サボりか?)。

晶も最初はごまかそうとしますけど
紗夜香の
「とぼけるのも
 そのへんに
 したら?」という一言で観念し、
「白川みずきは、
 …オレでした!」と白状します。

この瞬間、
バックに天使の羽が舞い落ちる描写が
なされていますね。
言うまでもなく「天使」は
少女少年=白川みずきを示す符丁。
その天使の翼がこの瞬間、
失われたことが表現されています。
すなわち、
「少女少年としての白川みずき」は
この瞬間、
終わりを迎えていたことになるのです。

マスコミに正体がバレたとかどうとかいうのは
あくまで芸能界追放の「きっかけ」に過ぎないわけで
(『少女少年II』の星河一葵や
 『少女少年V』の蒔田稔は、
 正体がバレても芸能活動を
 きちんと続けているわけですし)、
「アイドル・少女少年としての白川みずき」は
実質的にはこの瞬間、もう終わっていたのです。
(実際この後 晶は、
 「なんか、
  智恵子にバレたら
  イッキに気ィ
  ぬけちゃったな…」と
 心の中でつぶやいてますし、
 青野るりには
 「そんな
  気のぬけた
  『みずきさん』、
  ライバルとして
  みとめない」と、
 マスコミで「正体」が公表される以前に
 はっきり言われていますしね)。

さて、
「白川みずきは、
 …オレでした!」と
告白された智恵子ですけど、
すっかり思考が停止してしまいます。
この告白、
決して晶が自発的に
自分に真実をうち明けてくれたわけではない。
嘘に嘘を重ねて、
ついに隠しきれなくなって明かされた真相。
驚いていいのか、
怒ったらいいのか、
悲しんだらいいのか、
それすら判断つかなくなって
智恵子はすこし困ったような表情で
完全に固まっています
(このときの智恵子の微妙な表情が
 ものすごく絶妙なタッチで
 描かれています)。

その時、
晶の持っているポケデジが
鳴り出すんですね。
このシーン、
つくづくやぶうち優さんは
小道具の使い方がうまいなぁと
感心します。

ある意味では、
「智恵子が白川みずきにプレゼントしたポケデジを
 晶が持っていた」
→「智恵子の疑いが一層深まる」という
あのシーンで、
この「ポケデジ」の物語における役割は
終了してしまっても全然かまわないわけです。
普通なら晶は、
そんなことがあったらすぐにでも
このポケデジを処分するでしょうし、
そうなれば、
このポケデジが物語の中で再登場することも
まずはない。

ところがやぶうち優さんは、
あえてここでもう一度、
この「ポケデジ」を再登場させるわけです。
智恵子からもらったポケデジを
決して捨てなかった晶の人柄を表現することもできますし、
それ以上にこの気まずいシーンを、
「あたしのポケデジ、
 大事にもってて
 くれてるんだね…」
「うれしー!」
という智恵子の言葉に
自然につなげる効果を果たしています。

はっきり言って、
嘘に嘘を重ねて追い込まれてからの
「白川みずきは、
 …オレでした!」という告白を、
その後の
「うれしー!」につなげるのは
相当難度の高いものです。
普通なら怒って当たり前、
悲しんで当たり前、
あきれて当たり前のこの告白を、
「うれしー!」につなげるためには、
ヤバくなっても決して捨てなかった
このポケデジの存在が不可欠なのです。

そして智恵子の2度目の、
そして今度こそ本物の晶への告白。
「やっと全部
 なっとくが
 いったよ」。
「晶がるりちゃんや
 黒木さんと
 知り合いなのも、
 晶がみずきなら
 あたりまえだよね」。
「そしてそれに
 やきもちを
 やいたり、
 白川みずきが
 気になったり
 したのは…、
 あたしが
 晶を好き
 だから
 って…」。

一度目の「告白」のときと同様、
この瞬間も智恵子の頭には
「天使爛漫」が流れていたんじゃないでしょうか。
白川みずきの歌を心にとめて、
「やきもちな天使 きまぐれ天使
 いたずらな天使 じゃまをしないで」と念じながら、
精一杯「素直に」「素直に」って
心がけたんでしょうね、きっと。
このシーンの智恵子、
真っ赤になりつつもにっこり笑っていて、
とてもかわいいです。

さて、
すっかり元気をなくしている「みずき」を見かねて、
るりが「みずき」を
(テレビ局?)屋上のクリスマスツリーの所に
連れ出します。

「ここね、毎年
 デコレーション
 するの。
 小さい頃から
 嫌なことが
 あった時、よく
 ここに来たわ」と
るりは言ってますけど、しかし……。
ここって
いつも「デコレーション」している訳じゃなくって、
クリスマス前の特定の一時期だけ
「毎年
 デコレーション
 する」んでしょう。
そこに
「小さい頃から
 嫌なことが
 あった時、よく
 ……来た」ってことは、
るりにはよほどしょっちゅう
「小さい頃から
 嫌なことが
 あった」ってことに
なるんじゃないでしょうか。

そしてるりは呼びかけます。
「なにがあったか
 わからないけど、
 早くいつもの
 みずきさんに
 もどってね」。
「私の好きな、
 元気な
 晶くんに…」。

このとき、
「みずき」の背中がふくらんでいるのは、
読者側から見て右から左に
風が吹いたからでしょうか。
るりにとって「晶」は、
「本当の自分」を見てくれた、
「本当の自分」を見つけてくれた
初めての男の子だったのです。
(「「やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第11話)」に進む→」)


《戻る》
やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第1話)
やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第2話)
やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第3話)
やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第4話)
やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第5話)
やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第6話)
やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第7話)
やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第8話)
やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第9話)

《進む》
やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第11話)
やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第12話)


参考お勧め記事
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やぶうち優『少女少年』第一期解説(その4)
やぶうち優『少女少年』第一期解説(その5)
やぶうち優『少女少年』第一期解説(その6)
やぶうち優『少女少年』第一期解説(その7)

やぶうち優『少女少年II―KAZUKI―』解説
やぶうち優『少女少年II』各話解説

やぶうち優「少女少年 0話」解説

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by imadegawatuusin | 2006-09-09 21:38 | 漫画・アニメ

←「やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第8話)」に戻る

第9話 うそつきな天使
「ヤロー
 ばっか」の列の中に
赤沢智恵子が現れます。
智恵子に「じーっ」と見つめられて、
それでも笑顔を絶やさないみずき。
プロですね。プロ!

ところで、
このシーンでの智恵子のツッコミ、
うまいと思いませんか?

確かに普通、
女の子が、
「あなたに
 そっくりな子が
 いるんだ。」
「でも男の子
 なんだけど…。」なんて言われたら、
「なにそれ、
 どんな子なの、その子」ってなりますよね。
それなのに……。
「おどろか
 ないね」っていう冷静なツッコミが
冴えてます。

しかしそれでも、
智恵子は確証を持ちきれないみたいなんですよね。
このときのキョトンとした智恵子の表情、
事態を図りかねているような独特の表情は
ちょっとした見物です。

そこで、「はっ」と我に返った智恵子。
持ってきたプレゼントを
白川みずきに渡そうとします。
が、そこに割り入ってきた
オタク青年が智恵子を突き飛ばしてしまいます。
聞けば、
「わざわざ
 大阪から
 夜行で来たん」だとか。
(多分 大阪→東京だったら、
 夜行バスが一番安い交通手段なんですよね。
 情熱はあっても金がないのが
 若年オタクの悲しさであります)。

ちなみにやぶうち優さんの作品には、
時々ろくでもないオタクが登場するのでありまして、
(『少女少年II』の西村とか、
 『少女少年IV』の奴らとか……)。 
「やぶうち優さんオタク嫌い説」なんていうのが
一部でささやかれたことがあるんですが……。
そもそも、やぶうち優さん自身が、
若いころは『ファンロード』に投稿したり、
長じてはコミックマーケットに出店して
同人誌を売ってたりする
紛れもないオタクなんだってことを押さえとかなきゃ、
ここんところは正しく理解できないと思うんですよ。

詳しくは『アニコン』なんかを読めばいいと思いますけど、
要するにこうした「悪しきオタク像」っていうのは、
「自戒」あるいは「啓発」を込めた表現なのだと
考えるべきだと思うんですね。

さて、智恵子とのやり取りを
遮られた腹いせに、
みずきはサインをわざと失敗して見せますが、
逆にオタクは大喜び。
「うおーっ。
 みずきちゃんの
 失敗作ー!
 めちゃめちゃ
 レアやで!
 ごっつ
 うれしー!」と
喜び勇んで帰っていきます。
(智恵子を突き飛ばすオタクもオタクだけど、
 腹いせにデタラメなサインをするみずきもみずき。
 やぶうちっく評論家のくすださんは、
 「マニアの心理よくご存知ですね。(笑)
  私は、大受けです。
  何かの機会で、
  やぶうち先生のサイン会があったならば、
  ぜひ、失敗作を頂きたいです。(笑)」と
 語っています)。

さて、ポケデジ。
自分が「みずき」にプレゼントした
ポケデジで、
晶が遊んでいることを
智恵子は発見してしまいます。

で、そのとき一番はじめに
智恵子の口から出た言葉が、
「白川みずき
 本人に気に入って
 もらえなかったから
 晶んとこに
 まわったの
 かな。」
だったってのが示唆的ですね。

普通ならここで、
晶=みずき、ということになるのでしょうが、
それ以外では
とてつもなく純真なところがある女の子なのに、
ことアイドルがからむとどういう訳か、
智恵子はとことんネガティブ思考に、
というかひねくれた思考に陥るんですよね。
悪い方に悪い方にと
とってしまう。
本当に、過去に実際そういう体験をしたことが
あるんじゃないかと思ってしまうくらいに。

「(アイドルは)
 自分のこと
 かわいーとか
 思ってるっぽいし」
「TVでは
 いー子ぶってても、
 ウラではゼッタイ、
 わがままで
 いー気になってるに
 決まってる!」とか、
さっきの「気に入ってもらえなくて」発言にしても、
何か特定の「だれか」を念頭に置きながら
しゃべってんじゃないかと思うくらい
「具体的」なんですよね。

実際、その直後に、
紗夜香が白川みずきのチケットを見せびらかすと、
本当に素直に「わー
いーなー」とうらやましがり、
紗夜香がこれをプレゼントすると、
満面の笑みで大喜びするこの純真さ、
これと見比べると一目瞭然なんですけど、
この落差は一体どこから来たんでしょうか。

さて、
「困った時のお姉ちゃん」。
善後策を協議する二人です。
あれ?
そういえば晶と姉の瞳って、
「顔も声も
 そっくり」だったはずですよね。
で、智恵子もそれを知っていたはずで……。
「白川みずき=水城瞳」
って発想は、
誰も浮かばなかったのでしょうか。
(男の晶より、
 よっぽどお姉ちゃんの方が
 疑わしいと思うんですけど)。
いや、瞳は瞳で常日頃から
周囲からいろいろ疑われたりしていたからこそ、
「入れ替わり」なんて芸当が
あっさり思いついたのかもしれませんが。

ところでこのとき、
晶は姉の瞳に
「…で?
 あんたは
 どの子が
 本命なのよ!」
と聞かれて、
「る…
 るりちゃんだよ、
 いちおー…」と
答えています。

いろいろ見方はあると思いますけど、
僕はこの言葉、
必ずしも嘘ではなかったんじゃないかと
思っています。
「本命」って言葉が適切かどうかはビミョーですけど、
「るりちゃん」は晶の
「一番大切な女の子」の一人であったことは
間違いないと思うんですよ。
少なくとも、
智恵子に告白される前の時点では。

晶の「るりちゃん」への思いは、
もちろん恋愛感情ではなかったかもしれないですけれど、
それとは別の、
すごく強いものがあったと思うんですね。

さて、コンサートが始まる直前に、
智恵子が晶に語ったことばに
注目してください。

「あたしにだけ、
 うそつかないで
 …ね…?」


このセリフについて、
「yuuの少女少年FANページ」を主催する
yuuさんは、
「『あたしにだけ、うそつかないで・・・ね・・・?』
 と言う言葉は、ちょっと自己中じゃないだろうか?」
としています。

でも、よく読んでほしいんですよ。
智恵子は、
「あたしにだけ
 うそつかないで」
と言ったのではなく、
あたしにだけ、
 うそつかないで
と言ったんです。

智恵子には、
「自分だけがうそつかれてる」っていう思いが、
ずっとあったんじゃないでしょうか。
るりも、紗夜香も、
「自分の知らない何か」を
知っているらしい。
でも、自分だけが知らない。
自分だけが、晶から何も聞かされていない。
そのことが智恵子には、
たまらなく寂しかったんじゃないでしょうか。

だから智恵子は、
「あたしにだけは、
 うそつかないで」ではなく、
「あたしにだけ、
 うそつかないで」と言ったんです。
このセリフ、
このときの智恵子の気持ちをぎゅっと凝縮した
名ゼリフだと僕は今でも思っています。
「やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第10話)」に進む→


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by imadegawatuusin | 2006-09-08 16:34 | 漫画・アニメ