――派遣元・派遣先の両社と交渉――

■法制度、「女性の半数非正規」の現実と溝
妊娠・出産を理由とした労働者への不利益取り扱いは
法律で禁止されているにもかかわらず、
実際には「契約期間満了」を理由に
妊娠するとクビになり、
産前・産後休暇の制度も
「絵に描いたもち」になっている……。
細切れ雇用が横行している派遣業界では、
そうした悩みを抱える女性が少なくない。
愛知県みよし市では妊娠がわかった女性労働者が
一人から入れる地域労組に加入し、
派遣元・派遣先の両社に雇用の維持を訴えている。

日系ブラジル人女性のソウザ=ニルデさん(37歳)は
今年に入って妊娠が判明した。
現在の職場である愛知県みよし市の福田工業は、
トヨタ自動車の100パーセント出資子会社・協豊製作所などに
自動車用部品を供給しているプレス会社。
ニルデさんは2008年11月から
派遣会社・クオリティージャパン(本社:愛知県西尾市)を通じて
派遣されてきた。

多くの他のブラジル人派遣社員と同様、
ニルデさんもまた、
社会保険に加入していなかった。
社会保険に未加入の場合、
妊娠・出産にあたって社会保険から支給される
出産手当金や出産一時金などの支払いを
受けることができない。
だがニルデさんは
そうした制度の存在を知らされていなかった。

ニルデさんは愛知県の個人加盟制労働組合・
名古屋ふれあいユニオン
(「コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク」)に加入。
名古屋ふれあいユニオンは
派遣先・派遣元の両社に対して交渉を申し入れ、
2月21日に第1回団体交渉が開始された。

労組側は両社に対し、
派遣社員全員の社会保険への加入を要求〔注1〕。
だが職場全体の改善を求める労組側に
派遣先の役員は、
「今回はニルデさんの問題について話をしたい」と
主張した。
また派遣会社も、
ニルデさんの加入手続きは速やかに行なうと約束したものの、
「社会保険が強制加入であることは知っているが、
 加入の話をするとブラジル人従業員は
 他の会社に行ってしまう」と主張した上で、
「社会保険に加入したかったら
 なぜこちらに言ってくれなかったのか」など、
責任をニルデさんの側に転嫁する発言も飛び出した〔注2〕。

せっかく社会保険に入っても、
出産時までに「雇い止め」をされてしまうと
再び社会保険からの脱退を余儀なくされ、
出産手当金や出産一時金の制度を
利用できなくなる可能性もある。

ニルデさんは、
「私は働き続けたい。
 出産の1ヶ月ほど前まで働いて、
 出産後も もう一度この会社に戻ってきたい」と
訴える。

それに対して派遣先は、
「お腹の大きな女性を働かせて
 もしも労災事故などが起きた場合、
 ユニオンさんは責任が取れるんですか」と
労組側を詰問。
派遣会社も
「もしも職場で流産などということになれば
 大変なことになる」と主張した。

ニルデさんの契約は2ヶ月更新。
妊娠を理由とした解雇などの不利益取り扱いは
法律で禁止されているものの、
派遣先の社員からは、
「派遣を受ける側としては、
 妊娠して派遣社員が充分な仕事ができなくなれば、
 派遣会社に
 『(派遣社員を)代えてください』というのが
 普通の話。
 正社員とは違う」との発言も飛び出し、
ニルデさんが仕事を続けながら
無事に出産・職場復帰を迎えられるかは
予断を許さない。

一方で派遣先の役員は、
「うちは
 診断書を出すなどちゃんとした理由で長期間休む人も
 クビにしたりはしてきていない。
 妊娠がわかったらクビにするなどということは
 ありえない」とも言明した。

愛知県で女性の労働問題に取り組む
女性ユニオン名古屋執行委員の坂喜代子さんは、
「正社員なら妊娠した女性をクビにすることはできない。
 女性の労働者は半分以上が非正規だと言うのに、
 法律や制度がみんな正社員を基準に作られている。
 出産とか育児、
 命をはぐくんでゆくということをリスクとしか
 捉えない社会は間違っている。
 労働者は1人では弱い。
 最後の最後は力関係。
 ユニオンが頑張るしかないわよ!」と
力強いコメントを寄せた。

〔注1〕派遣社員を雇用する派遣元はもちろん、
派遣先にも派遣労働者を
社会保険に加入させる責任がある。
厚生労働省の「派遣先指針」は、
「派遣先は、
 労働・社会保険に加入する必要がある
 派遣労働者については、
 労働・社会保険に加入している派遣労働者……を
 受け入れるべきであり、
 派遣元事業主から
 派遣労働者が
 労働・社会保険に加入していない理由の通知を
 受けた場合において、
 当該理由が適正でないと考えられる場合には、
 派遣元事業主に対し、
 当該派遣労働者を
 労働・社会保険に加入させてから
 派遣するよう求めること」と明確に定めている。
厚生労働省の
「労働者派遣事業関係業務取扱要領」によれば、
「派遣先は、
 派遣就業に関し、
 派遣先台帳を作成」しなければならず、
そこには
「派遣労働者に係る健康保険、厚生年金保険及び
 雇用保険の被保険者資格取得届の提出の有無」を
記さなければならないことになっているので、
「派遣元事業主から
 派遣労働者が
 労働・社会保険に加入していない理由の通知」を
受けていなかったという言い逃れは通用しない。

〔注2〕社会保険は全員・強制保険である。
「入りたい人が入りたい都合のあるときだけ入る」
ということでは、
保険としての制度が成り立たない。
今は必要のない人も含めて
全員で保険料を負担するからこそ、
必要なときに必要な人に
お金が支給できるのである。
社会保険に加入していると
妊娠・出産時にも保障が受けられるといった利点が
日系ブラジル人労働者の中で
どれだけ周知されているのかも怪しい状態の中で、
全員加入が原則であるにもかかわらず、
「本人の側から申し出がなかった」ことを理由に
社会保険に加入させなかったなどということは
論外と言えよう。
社会保険は
労働者本人に「加入する義務」があるのではなく、
雇用する企業の側に
「加入させる義務」があるのである。

(JanJan Blog 2月22日から加筆転載)


【参考記事】
トヨタ系協豊製作所下請で「妊娠切り」強行の危機
派遣女性、福田工業で「妊娠切り」をはね返す!
「震災切り」2件、労組取り組みで勝利的解決! 2011-06-08


労働組合名古屋ふれあいユニオン
雇用形態や国籍に関わりなく、
愛知県下で働くすべての労働者が一人から加盟できる
地域労働組合(コミュニティユニオン)。
コミュニティユニオン全国ネットワーク
コミュニティユニオン東海ネットワークにも参加。
昨年4月に開かれた第12回定期大会では、
「連合」単産・全国ユニオンへの加入に向けて、
検討委員会を設置し討議するとする活動方針を採択。
日ごろから組合員の学習会や交流会・相談会などを
積極的に企画しながら活動している。
現在、組合員数約200名。
組合員は組合費月額1500円。
賛助会員(サポーター)は年会費5000円。
住所:〒460‐0024
 愛知県名古屋市中区正木4-8-8 メゾン金山303号室
    (JR・地下鉄・名鉄金山駅下車 名古屋ボストン美術館の向かい)
電話番号:052‐679‐3079(午前10時~午後6時)月~金
ファックス:052‐679‐3080
電子メール:fureai@abox.so-net.ne.jp
郵便振替 00800‐8‐126554
ホームページ
http://homepage3.nifty.com/fureai-union/

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by imadegawatuusin | 2011-02-22 21:06 | 労働運動

――「ねこは死にました。めでたしめでたし」――
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■「生まれ変わらない幸せ」描く
佐野洋子によるこの絵本のすごさを
もっとも的確に言い表したのは、
歌人の枡野浩一氏であろう。
枡野氏は著書『日本ゴロン』(毎日新聞社)のなかで、
『100万回生きたねこ』について
次のように書いている。

100万回生きて100万回死んだ主人公のオスネコは、
最後の最後には二度と生き返らなくなる。
彼は生まれて初めて本当の意味で
死んでしまうわけなんだけど、
たいていの読者は物語の終わりを知ったとき
「あー、よかった。めでたし、めでたし」
という気分になっているはずで、
そこがすごいのだ。
主人公が死んでしまうのに
「あー、よかった」と心から思える不思議。
その「不思議」の部分は、
ぜひ絵本の実物を読んで味わってください。(枡野浩一『日本ゴロン』183ページ)


この書評にあえて付け加えることなど
何もないほどに完璧な書評だ。
ここから先は はっきり言って私の蛇足だ。

この物語は「生まれ変わり」を扱っている。
一般に広まっている多くの仏教宗派でも
生まれ変わりを信じている。

そうした仏教では、
何事にも執着をもたず、
愛や欲を超越したとき、
この生まれ変わり死に変わりの状態から抜け出して、
もう生まれ変わらなくなるという。

それに対して本書のオスねこは、
むしろ
100万回生まれ変わり死に変わりしているときの方が、
どちらかというと
愛や欲を超越しているかのように見える。
何ごとにも執着しない。
「とんできた やに あたって しんで」も、
「船から おちて……びしょぬれになって,しんで」も、
サーカスで「まっぷたつに なってしまっ」ても、
「いぬに かみころされてしま」っても、
「年をとって し」んでも、
「おぶいひもが 首に まきついて,しんでしま」っても
淡々としている。
大声で泣くのは飼い主だけで、
「ねこは しぬのなんか へいき」なのだと
いうのである。

しかし、
それが「悟りの境地」なのかというと、
そうではない。
ねこはそのときどきの自分の状態に
全然満足していない。
王様に飼われていても
「王さまなんか きらい」だといい、
船乗りに飼われていても
「海なんか きらい」だといい、
泥棒に飼われたら飼われたで
「ねこは,どろぼうなんか だいきらい」だという。

だから、
こんな状態だと「生まれ変わってしまう」のだと
言いたいのだろう。
最後にねこは、
愛する「白いねこ」と
「たくさんの 子ねこ」をもうける。
「ねこは,
 白いねこと たくさんの 子ねこを,
 自分よりも すきなくらいでした」と
この絵本は言う。

ねこは充実した人生(猫生?)を生きた。
だから、
もう生まれ変わらない。
充実した人生を全力で生きることで、
生まれ変わりなどというものに
振り回されることはなくなるというメッセージは、
本書も仏教も共通している。

枡野浩一氏はこう言っている。

私たちは日頃、
無条件に「生=すばらしい」「死=かなしい」と
考えるようになってしまっていて、
じつはそんな考えは嘘っぱちなんだということを
この絵本は教えてくれる。
すばらしくない生もあるし、
幸福な死もある。
もちろん幸福な死を迎えるためには、
生を充実させなくちゃ駄目なんだけど、
生きるということは死を忘れることではない。
むしろ死を真剣に想う人だけが、
真の意味で生きられるのだろう……と、
こうして文章にしてみると
当たり前の真理だし、
ほかにも似たようなことを言ってる人は多いけれど、
佐野洋子くらい届く表現で言えた人って
いないと思う。(枡野浩一『日本ゴロン』183~184ページ)

JanJan Blog 2月19日から加筆転載)


佐野洋子『100万回生きたねこ』(講談社)
評価:3(ふつう)



【参考サイト】
佐野洋子『コッコロから』について

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by imadegawatuusin | 2011-02-19 13:48 | 文芸