――店長のセクハラ・パワハラ認定の高裁判決も――
岐阜県美濃市に本社を置く衣料品小売業者の 「オンセンド」(代表取締役:森弘治)が、 労働組合に加入したパート従業員に 組合を離脱するよう圧力をかけ、 その後 雇い止めした上 、 労組との団体交渉を拒絶した問題で、 最高裁判所は11月6日、 脱退圧力と団交拒否を不当労働行為と認めた 中央労働委員会の命令を維持し、 オンセンドの上告を受理しない決定を言い渡した。 これを受けて 元パート従業員を組織する 三重県の個人加盟制労働組合・ ユニオンみえ(「連合」構成単産・全国ユニオン加盟)は 11月10日、 オンセンドに対して団体交渉の申し入れを行なった。 ■四日市店店長のセクハラの数々 三重県にあるオンセンド四日市店の パート従業員であったHさんは 2003年4月16日、 当時の四日市店店長・中根久雄氏から セクハラを受けた旨を オンセンド人事部長・山田俊介氏に申し出た。 オンセンド側の受け入れによりすでに確定している 2009年10月14日の名古屋高裁判決及び その前提となる名古屋地裁判決によると、 中根久雄氏は2001年3月ごろ、 オンセンド四日市店の店長として赴任。 それ以降、 2003年4月ごろまでの間に Hさんに対して、 「このエプロン、裸でしたら、いいやろうな」 などと話しかけたり、 Hさんの二の腕を 下から上になぞるように指で触ったり、 着衣の前ファスナーの胸元を引っ張ったり、 Hさんの目の前で、 服を着ていないマネキンの胸を ニヤニヤしながら触ったり、 Hさんの脇腹を指差しながら、 「手やここ(筆者注:=Hさんの脇腹)を 触りたくなってくる」と告げたり、 「お客さんがマジックパンツのここのところが・・・」 といいながらHさんの尻を触ってきたり、 「昨日やったんか」ないしは 「ゆうべがんばったかな」などと 性交渉を連想させる言葉を言ったりするなど、 セクハラ行為を行なったという。 Hさんはこのようなセクハラを受けて 職場に不満を持っていたことなどから、 オンセンドの山田俊介人事部長に 「店長からセクハラを受けました」と相談したのである。 オンセンドの山田俊介人事部長は、 中根久雄四日市店長から事実確認の後、 Hさんを呼び、 Hさんの目の前で中根久雄店長に対して セクハラの具体的行為を記載したメモを示し、 「これは軽犯罪ですよ。 だんなが知ったら、殴られますよ」と叱り、 中根久雄店長はHさんに謝罪した。 また中根久雄店長は始末書を作成・提出し、 Hさんにこれが示された。 そして2003年4月17日の朝礼において、 中根久雄四日市店長はパート従業員らの前で、 セクハラ行為について謝罪したのである。 その後は中根久雄店長のセクハラはなくなり、 Hさんもセクハラの件は解決したと思っていた。 ところが、 翌月5月中旬ごろ、 Hさんは同僚から、 中根久雄店長が 「Hさんが男に貢いでいる」との噂を流していると聞き、 これはセクハラ行為を告発したことに対する 報復に違いないと思って友人に相談、 ユニオンみえに加盟したのである。 ユニオンみえは同年6月16日、 くだんのセクハラ問題や パート労働者の低賃金待遇・有給休暇の取得や 残業割増の未払いなどの事項に関し、 オンセンドに団体交渉を申し入れた。 ■部長「ワァワァ言ってくる奴等と話する気はない」 ところがオンセンドの山田俊介人事部長は、 翌6月17日、 勤務時間中に職場近くの喫茶店にHさんを呼び出し、 賃金については 「最低基準はクリアしているから、 不当なんて言われることはない」と居直った上、 「この会社の給料で納得がいかないのなら、 他で働けばいい」とか、 ユニオンみえの通告書を指さして、 「ここ(筆者注:=ユニオンみえ)で働けばいいじゃない。 ここで働いて給料は出ないでしょ」などと、 職場の労働条件の向上を求めるHさんや ユニオンみえのごく当然の要求に対して とことん筋違いなことを言い立てた。 そして、 「よってたかって大勢でワァワァ言ってくる奴等と、 話なんてする気はない」と言い放ち、 ユニオンみえからの通告書を テーブルの上に投げ出したのである。 また、中根久雄店長のセクハラに関しても、 「セクハラのことで大の男が頭を下げて、 首を覚悟で始末書を書いた」などと発言。 さらにHさんが 店長による査定で高い評価を得ていたことを挙げて、 「あなたは、 周りの人に感謝の気持ちを忘れている。 ……あなたは感謝の気持ちを忘れちゃダメだよ」などと 恩着せがましく説教をはじめ、 あたかもセクハラを訴え出た労働者の側が 「感謝の気持ち」に欠けているかのような 無神経な発言を繰り返し、 会社を巻き込んだり、 会社を甘く見ないようにという趣旨の発言を行なった。 しかし、 オンセンド山田俊介人事部長の卑劣な行為は これだけでは終わらなかった。 翌18日にも山田俊介人事部長は オンセンド四日市店で勤務中のHさんに電話をかけ、 「昨日あれだけ話をしたのに、 何故分からないんだ、 ご両親、旦那さんを交えて話をしよう」などと 言いだしたのだ。 上司からの「セクハラ」を 訴え出たことに端を発する労使対立に 家族まで巻き込むことを示唆して、 ユニオンから離脱するよう精神的圧力を加える きわめて陰険なやり方である。 「組合と話をして下さい」と答えるのが やっとだったHさんに、 山田俊介人事部長は さらに追い打ちをかけるように、 「組合、組合って… あなたはこの会社の人間でしょう、 直接話もできないんですか」などと言ったのである。 オンセンドの対応には、 労働者の団結権に関する基本的な理解が 根本的に欠けている。 そもそも、 経済的にも社会的にも 圧倒的な劣位に置かれている一介のパート従業員が、 巨大な会社組織に対して 「直接話」をして自らの労働条件を 対等な立場で交渉することなど、 どだい無理な話なのである。 立場の弱い非正規雇用労働者が 自らの雇用をまもり、 使用者側と対等な交渉を行なうためには、 労働者自身が使用者側と対抗できる力量を 職場の内外で確立すること、 すなわち、 団結権・団体交渉権・団体行動権を持つ 労働組合を組織し、 職場内外の仲間とともに使用者側と対峙し、 相手と対等な交渉力を築いた上で 成果を勝ち取る以外にはない。 だからこそ、 労働組合に加盟している労働者の労働条件は 会社と労組の話し合いで決めねばならず、 個人との個別取引は許されないのだ。 Hさんが そうした問題については 労働組合と話をしてほしいと言ったのは 実に当然の対応である。 むしろ、 「よってたかって大勢でワァワァ行ってくる奴等と、 話なんてする気はない」などという オンセンド山田俊介人事部長の発言こそ、 労組に対する敵意をむき出しにした 極めて破廉恥な不当労働行為に他ならない。 翌19日、 ユニオンみえはオンセンドに対し、 オンセンド山田俊介人事部長の言動が 違法であると抗議し、 オンセンド側は団体交渉の開催を 受け入れる通知を20日に行なった。 ■会社側、セクハラ居直り嫌がらせ 第1回団体交渉は 2003年8月8日に開かれた。 この交渉で中根久雄店長は、 「ゆうべがんばったかな」との性的発言については 認めたものの、 その他のセクハラについては 「そうであったかもしれない」と述べるなどの 曖昧な態度に終始した。 オンセンド側は中根久雄店長に対し、 中根店長がHさんの尻を触った事実を Hさんの同僚が目撃していた事実を指摘し、 謝罪しろと叱責したが、 中根久雄店長は 「始末書は山田俊介部長から 書かなければ首にすると言われて、 仕方なしに書いた」などと 居直り発言をはじめたのである。 ユニオンみえ側は 始末書の読み上げや開示を要求したが、 オンセンドはこれを拒絶。 セクハラの件は次回持ち越しとなった。 パート労働者の賃金が 低く抑えられている問題については、 オンセンド側は、 パート従業員の賃金は 採用時や契約更新時に確認しているので問題ない、 就業規則は存在するが店舗にはないなどと 回答した。 第2回団体交渉は9月12日に開催された。 ここに至ると中根久雄店長は セクハラの事実を全く認めようとしなくなる。 2003年11月27日、 事態が進展しないので ユニオンみえとオンセンドは 非公式の折衝を持った。 だが、 ここに至るとオンセンドは これまでの態度を一転させ、 中根久雄店長のセクハラは なかったと否定するようになる。 オンセンドはこれに前後し、 11月1日付で中根久雄店長に代えて 吉田清則氏を四日市店店長として投入。 さらに12月になると吉田清則店長は、 それまで吉田店長自身の承認のもとに 組まれていたシフトで 12月7日や14日の日曜日が休みとなっていた Hさんの勤務シフトを突然問題視し始め、 12月7日や14日の休日を認めないと Hさんに通告したのである。 Hさんから相談を受けたユニオンみえは これに抗議するとともに、 元々のシフト通りに日曜日を休日とすること、 会社がこれを受け入れない場合には、 有給休暇を使用させるとのFAXを入れた。 ところがオンセンドは、 12月は1年のうちもっとも多忙な時期であり、 日曜日は その中でももっとも忙しい日であるなどと称し、 有給休暇を認めないと ユニオンみえにファックスしてきたのである。 (繰り返すが、 元々の勤務シフトにおいては、 12月7日・14日はHさんは休みだったのだ)。 ユニオンみえは12月11日、 有給休暇を認めないのは労基法違反であると、 オンセンドに団体交渉を申し入れる。 しかし12月18日の団体交渉において、 オンセンドは、 「Hさんから有給休暇の申請はされていない」 などと言いだし、 無断欠勤であるとの回答を行なったのだ。 オンセンドの受け入れにより すでに確定している 2009年10月14日名古屋高裁判決と その前提となる名古屋地裁判決は、 日曜の休日を一旦認めておきながら それを覆して日曜出勤を強要しようとしたのは 「ハラスメント」であると 以下の通り明確に断罪した。 本件においては、 こうしてHさんは2004年2月20日、 オンセンドを雇い止めされてしまったのだ。 ■オンセンド断罪の中労委命令確定 当然ユニオンみえはこれについて、 3月5日、 不当労働行為に対する謝罪や 解雇の撤回などを求め、 オンセンドに団体交渉の申し入れを行なった。 するとオンセンドは、 Hさんが2月20日付で 従業員の身分を失っているなどと称して、 団体交渉の開催を拒絶してきたのである。 自分たちがクビにしておいて、 「だから団体交渉には応じない」とは ひどい理屈だ。 オンセンドは団交拒絶にあたり、 「もし貴組合の御主張が 法的に正統(筆者注:原文ママ)なものだと お考えならば、 裁判において、 裁判所の判断を受ける方法を とっていただく様、 当社としては希望いたします」と 言い切ったのである。 しかし、 2008年10月9日の東京地裁の判決は こうしたオンセンドの団体交渉拒絶について、 次のように明確に断罪した。 労働者が自らの雇用契約上の地位を争い、 ■中労委命令無視するオンセンド オンセンドの不当労働行為を認定し、 ユニオンみえへの誓約書の手交と 団体交渉への応諾を オンセンドに命じた中央労働委員会命令は 2009年10月14日の名古屋高裁判決でも 11月6日の最高裁決定でも維持され、 確定した。 ところがオンセンドは、 ユニオンみえの団体交渉申し入れには 応じる回答を示したが、 「手交」を命令された ユニオンみえへの誓約書については 何と郵便で郵送してきた。 「とにかく形式的に渡せばいいんでしょ」 とでもいうかのような、 全く誠意の感じられないやり方だ。 誓約書について、 中央労働委員会は次の通り 明確に「手交」を命令している。 会社(筆者注:=オンセンド)は、 国語辞典の大辞林には 「手交」について、 「直接に相手に渡すこと。手渡しすること」 とある。 つまりオンセンドは、 従業員に組合を脱退するよう圧力をかけたり 団体交渉を拒絶したりといった不当労働行為を 今後くり返さないとする誓約書を、 ユニオンみえに郵便で送り付けるというような ずぼらなやり方ではなく、 きちんと「手交」(=手渡し)しなければ ならないのである。 本来なら、 悪いことをしたのはオンセンドの方なのだから、 きちんとオンセンド側が ユニオンみえまで足を運んで、 「すみませんでした」と 謝罪文を手交するのが筋なのである。 ユニオンみえは、 「中央労働委員会命令に反した 誓約書の受け取りはできない」として、 オンセンドの送り付けてきた誓約書を 返送した。 中央労働委員会命令に従い、 団体交渉までに ユニオンみえに誓約書を持参するか、 11月19日13時から 四日市総合会館8階第一会議室で開催される 団体交渉の冒頭に 手交すべきであるとしている。 (インターネット新聞「JANJAN」 11月16日掲載記事に加筆訂正)
by imadegawatuusin
| 2009-11-16 19:29
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