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やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第5話)

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第5話 いたずらな天使たち
第5話「いたずらな天使たち」の解説に入る前に
ちょっと休憩。
単行本で第5話に入る1ページ前に
智恵子のイラストが載ってますよね。
モップぼうき持って掃除してるやつ。

初登場シーンの印象が強いのか、
どうも智恵子といえば「モップぼうき」とセットのイメージが
あるんですけど。
で、
モップぼうきの先(柄の方ではなく掃く方)で
人の頭をたたく……と(笑)。
しかもチョンと小突くんじゃなくて
「ばしっ」と大書きで音まで立てて人の頭をたたいた上に
何か仁王立ちしてましたからね。
「智恵子=モップぼうき」になるわけです。

それはさておき、
ついに白川みずきVS黒木紗夜香バトル第1戦の
勃発です。
とはいえ、
緒戦は白川みずきの圧勝ですね。
紗夜香の攻撃を見事に受け流し、
紗夜香側だけが一方的に怒りまくる展開に
追い込みました。

「あれー、
 おっかしーなー。
 有名どころはみんな
 チェックしたはず
 なのに…」とさりげなく紗夜香のプライドを傷つけて
「プチッ」とキレさせ、
さらに
アメリカンスタイルのわざとらしいゼスチャーまで入れて
「ま、この世界
 運と実力
 だからね」とエラソーなことを言ってみて
さらに「ブチ/ブチッ」と
完全に紗夜香をブチ切れさせてしまいます。
(紗夜香のキレ方が、
 「プチッ」から「ブチ/ブチッ」にランクアップする描写が
 秀逸)。

靴に画鋲を入れられたりとか、
考えてみればすごい目に遭わされてきたわけですから、
ここでもっと頭に血が上っても全然不思議じゃないんですけど、
みずきはよくここで冷静に対応できましたね。
(「晶」のときじゃ出来なかったんじゃないかな)。

紗夜香は、
「この次は
 覚えて
 なさい!」、
「覚悟してると
 いいわ!」と典型的な捨て台詞を吐いて
去っていくしかありませんでした。
(ここでもみずきは、
 「そりゃ
  わざわざ
  どうも…。」って、
 すごい冷静ですけど。
 あと紗夜香って、
 去っていくときも両手を腰に当てるこのポーズを
 全然崩さないんですね)。

で、「アイドル水着大会」ですよ。
村崎さんでなくても
これは避けますよね。
ところが、
みずき=晶が『少女少年』第一期の中で
唯一周囲の反対を押し切って主体的に強行したのが
これなんです。
わざわざトラブルを呼び込もう呼び込もうという方向に
動く傾向がありますね、晶は。
得意のものまね(ここでは声まね)で村崎さんになりきって、
電話先の制作会社をあっさり騙しきってしまいます。
(架空の人物を一から演じきる)「演技」はできなくても、
(実在人物を巧みに模倣する)「ものまね」が得意な晶の本領が
このシーンでは存分に発揮されています。

場面変わって
学校への登校シーン。
晶は「アイドル水着大会」に出られることでご機嫌で、
「アッイドル
 水着大会~
 るっりちゃんの
 みっずぎぃ~」なんて鼻歌まで歌っております。
って、やっぱ目的はそれかよ!
どうりでムチャクチャやってでも
出場したかったワケです。

先日は、
キューバ国旗の描かれた服を着ていた晶(みずき)でしたが、
今日はスイス国旗が描かれた服を着ています。

ここで智恵子から
修学旅行のしおりが渡されるんですね。
晶たちの学校名が
「市立第一小学校」であることがわかります。
晶は後の球技大会のときに、
見学に来た るりについて、
「今、親の都合で
 東京について
 来てて……」と弁解し、
この地区が「東京」にあることを示唆していますが、
「市」ということは
いわゆる「23区」内ではないようですね。

ここで、
今まで「モップぼうき」のイメージしかなかった智恵子から
意外な言葉が飛び出します。
「えっと…
 このまえは
 ごめんね。
 もうアイドルのこと
 悪く言ったり
 しないから」。
晶ならずとも、
「な…
 なんだ
 なんだ!?
 智恵子が急にこんなに
 スナオになるなんて…」というものでしょう。

答えは、
白川みずきのヒット曲・「天使の予感」の中にあります。
こんなフレーズがありましたよね。
「女の子はみんな 天使になれる
 ……
 素直になれば 天使になれる」。

智恵子には実は、
ものすごく白川みずきの歌の影響を受けやすいという
特徴があります。
白川みずきの歌を聴くと、
特にその歌詞の内容にあっという間に影響されてしまう。
後で白川みずきの「天使爛漫」を聞いてすぐ、
「晶」に告白してしまったときなんかもそうだったわけですが、
ここで智恵子は
「素直になれば 天使になれる」という歌詞に影響されて、
びっくりするほど「素直にな」ってしまうわけなんです。

ちょっと余談になりますが、
「天使の予感」にしても「天使爛漫」にしても、
白川みずきの歌のテーマは
「素直になろう」の一言に尽きます。
「天使の予感」なんか出だしからして
「会えばいつでも ケンカになるけど
 ごめんね 素直になれないだけなの」で、
結論が
「女の子はみんな 天使になれる
 恋の力で 魔法をかけて
 
 素直になれば 天使になれる
 すてきな予感 翼にのせて…」ですからね。
(「天使爛漫」の方も結論は、
 「やきもちな天使 気まぐれ天使
  いたずらな天使 じゃまをしないで

  今日だけは 素直になりたいから
  見守っていて…」となってます)。

ひょっとすると、
白川みずきの曲のテーマである
「素直になろう」こそ、
『少女少年』第一期全体の大テーマなのかもしれません。

で、おもしろいのが、
この「素直になろう」っていうメッセージ、
やぶうち優さんの作品の中では
『少女少年III』のメインテーマである「自分らしく」と、
ほとんど同じ意味合いで使われているってことなんですよね。
(自分の本当の気持ちに素直に生きる=自分らしく生きる)。

教育の分野なんかでは、
保守的な先生は一般に
「素直になりなさい」って言い方は好むけど、
「自分らしく」って言い方はあまり使いたがりません。
自分勝手な子供を育ててしまうと考えてしまう。

他方、革新的な先生だと、
「自分らしく」って言葉はよく使うけど、
「素直になろう」っていう言い方はやはり敬遠する傾向が
ありますよね。
子どもの自主性をつぶしてしまうと考える。

やぶうち優さんの漫画のすごいところは、
この、「素直になろう」と「自分らしく」っていう、
教育業界的には随分と違ったニュアンスで受け取られうる
二つのメッセージを、
小学館の学習雑誌に連載された漫画の中で、
同時に、そして矛盾のない一つのメッセージとして発することに
成功しているところじゃないかって
僕は思うんですけど。

話を戻しましょう。
晶と智恵子が二人で話をしていると、
友人AとBが冷やかしに入ります。
「なんだー?
 ここ、ふたりの世界
 入ってるぞー!」
「告白かぁ!?」と。
これ、面白いのは
後に晶が黒木紗夜香に呼び出されて
二人で教室を出ていったときとの
周囲の反応の違いです。
晶と智恵子のときは
「なんだー?」
「告白かぁ!?」となったのですが、
晶と紗夜香のときは ほぼ同様のシーンで、
友人AやBたちは、
「おおー!?」
「なんだー!?」
「リンチ
 か」
「あきら
 ピーンチ
 !」
と言ってるんですよね。

この反応の違いは何なんでしょうか。
クラスメートの目から見ても、
晶と智恵子の間には
「ふたりの世界」というような空気が
流れていたってことなんでしょうか。

ともあれ、
晶は智恵子からもらった「修学旅行のしおり」を、
後ろ手に「ぐしゃ」と、
実に乱雑にかばんの中に突っ込みます。
晶の通う市立第一小学校が
日本の小学校としては珍しく
ランドセルを採用しておらず、
かばん登校であることが
ここで大きな意味を持ってきます。
もしランドセルなら、
晶がそれをそのまま「アイドル水着大会」の会場に
持っていくことはなかったでしょう。
後で紗夜香がこのかばんの中を見たとき、
「なにこれ!?
 きったな…」と言うシーンがありますが、
その伏線は以前から
ちゃーんと張られてきたのです。
すでに第1話の19ページや第4話の54~55ページの時点で、
このときのことをちゃんと予想していたかのように、
ランドセルではなく
かばんで登下校している様子が描かれているのは
すごいですね。

そうこうしているうちに
「アイドル水着大会」の本番です。
この会場、
僕はずっと大きなプールに
こちら側から「半島」のようなものが突き出しているんだと
思ってたんですけど、
よく見ると(「半島」ではなく)通路を挟んで左右のプールは
全く別。
右が「波のあるプール」で、
左が「静かなプール」だったんですね!

さて、
問題になるのは
やはり「水着への着がえ」。
みずきは紗夜香の追及を、
「じつはもう
 下に着てたん
 だよーん!」とやり過ごし、
村崎さんは
「じゃあわざわざ
 更衣室つかう
 必要ないでしょ
 ったくもー…」とぼやいてますが、
来たときはいいとして、
帰るときはどうするんでしょうか。
ずぶぬれの水着の上に
服を着るわけにもいかないでしょう。

やっぱり「更衣室
つかう必要」はあるようです。
(結局、どうしたんでしょうかね)。

さて、
作品に描かれているのは騎馬戦(はちまき取り)の
場面でしょうか。

ちょっと残念なのが、
晶がピンチを切り抜ける際に
いわゆる「レズネタ」、
つまり、「同性愛者である」ということ自体を
笑いものにする手法を使ってしまっていることです。

普通なら、
別に特別悪質とまでは言えないこの程度の描写に
一々目くじらを立てたりはしないんですけど、
本作作者のやぶうち優さんは
現在『小学五年生』で「性教育漫画」を担当していらっしゃるので、
これについては少々厳しいことを言ってみます。

別にね、
同性愛をテーマにして笑いを取っては絶対いかんと言ってる訳じゃ
ないんですよ。
同性愛者は一般的な異性愛者とは
性的指向が違うわけですから、
いろいろな面で世間一般の人との「ズレ」が
生じざるを得ない面もありますよね。
そういったことにまつわるチグハグなんかを
きちんと観察して、
そこにおもしろみを見出したりするのは
何の問題もないんです。
むしろ、
世間に はびこるおかしな偏見とか、
トンチンカンな反応なんかは
大いにネタにして笑い飛ばしたって構わない。
この手の話は
「事実は小説より何とか」で、
本当に笑ってしまうしかないような話が
ゴロゴロありますからね。

ところがここで晶がやっているのは、
レズビアンが「レズ」であるということ『それ自体』を
笑いものにしてるんですよ。
これはやっぱりよくないと思う。

やぶうち優さんの作品では、
例えば『少女少年IV』の大嵩雪火とか、
あるいは『アニコン』の西園芽衣とか
『ないしょのつぼみ』第3期の相楽紫音なんかも
同性愛者なわけですよね。
(『あぶの~まるZone』の水金ちかとか、
 『おちゃらかほい!』の武者小路玉緒なんかも?)
相楽紫音なんか、
自分が「レズ」だってだけで、
こんな風に「どっ」と笑われたりしたら、
絶対すごくショックだと思う。
そこん所をちょっと
考えていただけたらなぁと思います。
(って、
 こんな話はわざわざ僕が言わなくても、
 今のやぶうち優さんには「釈迦に説法」。
 とっくに分かってる話ですよね。
 『アニコン』の西園芽衣、
 『ないしょのつぼみ』第3期の相楽紫音の描き方を見れば
 『少女少年』第一期当時との描き方の違いは歴然! です)。

ちょっと重い話になりましたが、
黒木紗夜香が白川みずきの学校を嗅ぎ付け、
いよいよ転校してきます!
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やぶうち優『少女少年』第一期解説(その2)
やぶうち優『少女少年』第一期解説(その3)
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やぶうち優『少女少年II』各話解説

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by imadegawatuusin | 2006-09-03 15:23 | 漫画・アニメ