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やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第9話)

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第9話 うそつきな天使
「ヤロー
 ばっか」の列の中に
赤沢智恵子が現れます。
智恵子に「じーっ」と見つめられて、
それでも笑顔を絶やさないみずき。
プロですね。プロ!

ところで、
このシーンでの智恵子のツッコミ、
うまいと思いませんか?

確かに普通、
女の子が、
「あなたに
 そっくりな子が
 いるんだ。」
「でも男の子
 なんだけど…。」なんて言われたら、
「なにそれ、
 どんな子なの、その子」ってなりますよね。
それなのに……。
「おどろか
 ないね」っていう冷静なツッコミが
冴えてます。

しかしそれでも、
智恵子は確証を持ちきれないみたいなんですよね。
このときのキョトンとした智恵子の表情、
事態を図りかねているような独特の表情は
ちょっとした見物です。

そこで、「はっ」と我に返った智恵子。
持ってきたプレゼントを
白川みずきに渡そうとします。
が、そこに割り入ってきた
オタク青年が智恵子を突き飛ばしてしまいます。
聞けば、
「わざわざ
 大阪から
 夜行で来たん」だとか。
(多分 大阪→東京だったら、
 夜行バスが一番安い交通手段なんですよね。
 情熱はあっても金がないのが
 若年オタクの悲しさであります)。

ちなみにやぶうち優さんの作品には、
時々ろくでもないオタクが登場するのでありまして、
(『少女少年II』の西村とか、
 『少女少年IV』の奴らとか……)。 
「やぶうち優さんオタク嫌い説」なんていうのが
一部でささやかれたことがあるんですが……。
そもそも、やぶうち優さん自身が、
若いころは『ファンロード』に投稿したり、
長じてはコミックマーケットに出店して
同人誌を売ってたりする
紛れもないオタクなんだってことを押さえとかなきゃ、
ここんところは正しく理解できないと思うんですよ。

詳しくは『アニコン』なんかを読めばいいと思いますけど、
要するにこうした「悪しきオタク像」っていうのは、
「自戒」あるいは「啓発」を込めた表現なのだと
考えるべきだと思うんですね。

さて、智恵子とのやり取りを
遮られた腹いせに、
みずきはサインをわざと失敗して見せますが、
逆にオタクは大喜び。
「うおーっ。
 みずきちゃんの
 失敗作ー!
 めちゃめちゃ
 レアやで!
 ごっつ
 うれしー!」と
喜び勇んで帰っていきます。
(智恵子を突き飛ばすオタクもオタクだけど、
 腹いせにデタラメなサインをするみずきもみずき。
 やぶうちっく評論家のくすださんは、
 「マニアの心理よくご存知ですね。(笑)
  私は、大受けです。
  何かの機会で、
  やぶうち先生のサイン会があったならば、
  ぜひ、失敗作を頂きたいです。(笑)」と
 語っています)。

さて、ポケデジ。
自分が「みずき」にプレゼントした
ポケデジで、
晶が遊んでいることを
智恵子は発見してしまいます。

で、そのとき一番はじめに
智恵子の口から出た言葉が、
「白川みずき
 本人に気に入って
 もらえなかったから
 晶んとこに
 まわったの
 かな。」
だったってのが示唆的ですね。

普通ならここで、
晶=みずき、ということになるのでしょうが、
それ以外では
とてつもなく純真なところがある女の子なのに、
ことアイドルがからむとどういう訳か、
智恵子はとことんネガティブ思考に、
というかひねくれた思考に陥るんですよね。
悪い方に悪い方にと
とってしまう。
本当に、過去に実際そういう体験をしたことが
あるんじゃないかと思ってしまうくらいに。

「(アイドルは)
 自分のこと
 かわいーとか
 思ってるっぽいし」
「TVでは
 いー子ぶってても、
 ウラではゼッタイ、
 わがままで
 いー気になってるに
 決まってる!」とか、
さっきの「気に入ってもらえなくて」発言にしても、
何か特定の「だれか」を念頭に置きながら
しゃべってんじゃないかと思うくらい
「具体的」なんですよね。

実際、その直後に、
紗夜香が白川みずきのチケットを見せびらかすと、
本当に素直に「わー
いーなー」とうらやましがり、
紗夜香がこれをプレゼントすると、
満面の笑みで大喜びするこの純真さ、
これと見比べると一目瞭然なんですけど、
この落差は一体どこから来たんでしょうか。

さて、
「困った時のお姉ちゃん」。
善後策を協議する二人です。
あれ?
そういえば晶と姉の瞳って、
「顔も声も
 そっくり」だったはずですよね。
で、智恵子もそれを知っていたはずで……。
「白川みずき=水城瞳」
って発想は、
誰も浮かばなかったのでしょうか。
(男の晶より、
 よっぽどお姉ちゃんの方が
 疑わしいと思うんですけど)。
いや、瞳は瞳で常日頃から
周囲からいろいろ疑われたりしていたからこそ、
「入れ替わり」なんて芸当が
あっさり思いついたのかもしれませんが。

ところでこのとき、
晶は姉の瞳に
「…で?
 あんたは
 どの子が
 本命なのよ!」
と聞かれて、
「る…
 るりちゃんだよ、
 いちおー…」と
答えています。

いろいろ見方はあると思いますけど、
僕はこの言葉、
必ずしも嘘ではなかったんじゃないかと
思っています。
「本命」って言葉が適切かどうかはビミョーですけど、
「るりちゃん」は晶の
「一番大切な女の子」の一人であったことは
間違いないと思うんですよ。
少なくとも、
智恵子に告白される前の時点では。

晶の「るりちゃん」への思いは、
もちろん恋愛感情ではなかったかもしれないですけれど、
それとは別の、
すごく強いものがあったと思うんですね。

さて、コンサートが始まる直前に、
智恵子が晶に語ったことばに
注目してください。

「あたしにだけ、
 うそつかないで
 …ね…?」


このセリフについて、
「yuuの少女少年FANページ」を主催する
yuuさんは、
「『あたしにだけ、うそつかないで・・・ね・・・?』
 と言う言葉は、ちょっと自己中じゃないだろうか?」
としています。

でも、よく読んでほしいんですよ。
智恵子は、
「あたしにだけ
 うそつかないで」
と言ったのではなく、
あたしにだけ、
 うそつかないで
と言ったんです。

智恵子には、
「自分だけがうそつかれてる」っていう思いが、
ずっとあったんじゃないでしょうか。
るりも、紗夜香も、
「自分の知らない何か」を
知っているらしい。
でも、自分だけが知らない。
自分だけが、晶から何も聞かされていない。
そのことが智恵子には、
たまらなく寂しかったんじゃないでしょうか。

だから智恵子は、
「あたしにだけは、
 うそつかないで」ではなく、
「あたしにだけ、
 うそつかないで」と言ったんです。
このセリフ、
このときの智恵子の気持ちをぎゅっと凝縮した
名ゼリフだと僕は今でも思っています。
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やぶうち優『少女少年』第一期解説(その3)
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2.吉住渉『ミントな僕ら』全6巻、集英社リボンマスコットコミックス
3.志村貴子『放浪息子』エンターブレイン
4.なるもみずほ『少年ヴィーナス』全4巻、角川書店あすかコミックス
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by imadegawatuusin | 2006-09-08 16:34 | 漫画・アニメ