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やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第11話)

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第11話 涙のクリスマス
るりからの「告白」を受けて、
晶の頭には走馬燈のように、
芸能界の外からるりを見てきた自分自身が
浮かびます。

「みずきにとっては
 大先輩」、
「晶にとっては
 手の届かない
 憧れのアイドル」、
「るりちゃんは
 オレにとって
 ふつーの女の子
 なんかじゃない」……。

この言い方でるりは、
晶が寄せる自分への思いが
智恵子に対するものとは全く違うということを
改めて痛感させられるわけなんですが……。

確かに、
晶にとってるりは、
男の子がたとえ女の子になってでも近づきたいと願った
「手の届かない
 憧れのアイドル」だったわけです。
それは多分、
るりの望むものではなかったのでしょうけど、
そんなことでもなければ
二人が知り合うことは多分なかった。
単純に智恵子への思いと比較できるようなものでも
ないんじゃないかと思うんですね。

「結局私は
 晶くんにとって
 偶像(アイドル)でしか
 ないのね」というるりの言葉は、
言葉通りの意味ではものすごく正しいんですけど、
でも晶にとってるりは、
「ただの偶像(アイドル)」だったわけでも
ありません。
「手の届かない
 憧れのアイドル」であり、
「スーパーアイドル」だったのです。
もちろん、
そんなこと言ってもるりにとっては
何の慰めにもならないのかもしれませんけど。

そして、
本作一のるりの見せ場。
にっこり微笑んで晶にキスした後、
「私はこれからも
 『みんなの』
 アイドルとして
 がんばる」と宣言。
「私なんかいらなく
 なっちゃうくらい
 売れっ子になって」という
あの日の晶への「お願い」を撤回し、
人差し指を「ぴっ」と立て、
「そんな
 気のぬけた
 『みずきさん』、
 ライバルとして
 みとめない
 から…!」と
鮮やかに言ってのけるのです。

さて翌日、
何とか学校までは来たものの、
「智恵子に
 会ったら
 どんな顔すりゃ
 いーんだろ」と
戸惑いを隠せない晶です。
ゲタ箱に向かって
いろいろと予行演習を繰り返す晶ですけど、
そんな晶を智恵子は物陰から
見守っています。
そう。
智恵子なりにやっぱり気を使ってたんですね。

で、
こぶしを「ぐっ」と握って気合いを入れて
(サイン会に行くことを決断したときも
 同じことをしてましたね)、
晶に話しかける智恵子。
「やっ…、
 やっだぁー
 晶!」
「なにゲタ箱に
 むかってあいさつ
 してんの?
 ばっかじゃない!?」
と、
何事もなかったかのように、
つとめて「いつも通り」に振舞うわけです。
晶もそんな智恵子のやさしさに気づいて、
うれしくなってきちゃうんですね。

ところがこのとき、
すでに晶の正体が
世間に知られようとしていたわけです。

村崎プロの社前には
記者たちが詰め掛けます。
「紅白歌合戦
 出場が決まって
 いますが、
 この場合、赤組白組
 どちらで出場する
 つもりですか!?」。
本当に、
こういう場合どうなるんでしょうかね。

これまでの例で言えば、
美川憲一は白組、
「性同一性障害」者の中村中は赤組だった
ようですが……。
(この基準でいうとおそらく、
 白川みずきなら白組、
  『少女少年~GO!GO!ICHIGO』の章姫いちごなら
 赤組、でしょうかね)。

この期に及んでも晶は、
「大丈夫!
 ハダカにでも
 なんねー限り
 シラを切り
 とーせば
 バレないって」なんて言ってて
ノーテンキですが。

さてそこに紗夜香がやってきて、
「じつは…、
 今回のことは、
 あたしの
 マネージャーが
 したことなの…」。
「ごめんなさい!
 こんなことに
 なっちゃって…!
 あたしは
 もういいって
 言ったのに…!」と
泣き出してしまいますけど、
このときの晶の独白が、
「紗夜香が
 あやまるなんて…」
なんですね。
それほどの「高飛車キャラ」と
晶の中では認識されていたんでしょうか、
紗夜香って……。
(まぁ、
 靴にガビョウ入れられた件だって
 いまだにあやまってもらってないし)。

「紗夜香のせい
 じゃないし、
 気にすんなよ!
 どーにか
 なるって!」と
あくまで強気の晶ですけど、
紗夜香は、
「ムリよ!」
「きっともう
 マネージャーが
 裏で手を
 まわしてる
 はずだわ!」と
断言します。
紗夜香の目から見ても、
このマネージャーはそういう性格のやつなんでしょう。

仕事先でも記者がウジャウジャ……。
「大丈夫だよ!
 水泳大会の
 ときだって
 なんとか
 なったし…!」
となおも強気の晶。
しかしここにきて、
晶の口から出る言葉は、
「大丈夫」・
「どーにか
 なる」・
「なんとか
 な」るといった、
ほとんど根拠のない空文句ばかりになってきているのが
気になります。

実際問題、この時点で、
紗夜香の陰湿マネージャーと晶との勝負は
事実上ついていたともいえるでしょう。

さて、
CM撮影会場に着くまでに
「記者に
 もまれ」てボロボロになったみずき。
しかし、騒動の中身が中身なだけに、
みずきを「も」んだ「記者」の中には
みずきの体を触ろうとしたヤツも
いたんじゃないでしょうかね。

撮影スタッフは
「あー、みずきちゃん
 いろいろたいへん
 だねー」と、
一見他人事っぽい態度です。
しかし……、
じつはこのCM撮影こそが
「インボー」だったわけなんですね。
CM撮影の内容がなぜか急遽変更されて、
「みずき」が裸になることに……、ってこれ、
単純に考えてセクハラでしょう。
「このギョーカイじゃ
 よくあること」なんてカメラマンIは言ってますけど、
どうなんでしょうね。
『少女少年』第一期が『小学六年生』で連載されたのは、
児童ポルノ処罰法が
1999年に国会で可決されて施行される以前の
1997年なわけですが。
(作中の年度設定も、
 みずきが第3話で出演した歌番組の表題に
 「ヒットパレード97」とありますから、
 おそらく1997年で間違いないでしょう)。
こういうとき、
マネージャーは撮影現場に入れないんでしょうか。

ちなみに、
このときの撮影される「予定」だった
「愛をひとつぶ
 バーモントチョコレート」のCM完成予想図が、
この第11話・涙のクリスマスの
カラー扉絵になっています。
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やぶうち優『少女少年』第一期解説(その3)
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by imadegawatuusin | 2006-09-14 16:50 | 漫画・アニメ
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