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板野博行『語句ェ門777』について(その5)

――「近い」かどうかは潜在対象との比較で決まる――

本書『語句ェ門777』36~37ページの「言語論2」で、
「言葉はあいまいだからよい」として
「近い」という言葉が取り上げられている。

以前テレビで
「駅から近い」というのは
人によってどのくらい差があるかを検証していたが、
「近い」という語の幅は
人によって100mくらいから1kmくらいまでの
広さがあることがわかった。
ここから「近い」という言葉の定義は
人によってずいぶん異なっていることがわかる。
しかし、
「近い」という語を完全に定義してしまったならば、
逆に日常生活は不便になる。
「近い」という語は
定義があいまいであるからこそ実用的なのだ。


ここでは「近い」という語の語感が
「人によって」異なっている例を挙げている。
だが、
同じ人でも時と場合によって、
「近い」という言葉が使える距離は
大きく変化するはずだ。

例えば、
日本全体を考えたときには、
千葉県や神奈川県は
(およそ1kmの距離で済むはずはないが)
「東京から近い」ということになるだろう。
世界単位で考えたときには、
たとえ物理的な距離としては
1000km以上離れていたとしても、
「中国は日本から近い国だ」と言うことに
何の躊躇もないだろう。

すなわち「近い」とは、
潜在的に「遠い」とされるものとの比較によって
決まるのであり、
「○メートル以内」などと単純な距離で定義することは
そもそも不可能な言葉なのである。


【読書案内】
現代文のキーワードを、
頻出作家の考え方などを紹介しながら
コンパクトにかつ深く解説した本としては、
河合出版の
『ことばはちからダ! 現代文キーワード』
最も優れていると思う。
本書で現代文用語の基礎力を身につけた人は、
この本に進むとよいだろう。

日本語文の構造理解についての最良の入門書は、
本多勝一『日本語の作文技術』(朝日文庫)であろう。
日本語の文章について勉強がしたい、
わかりやすい文章が書きたいという人は
ぜひ読んでみてほしい。



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by imadegawatuusin | 2011-11-29 17:35 | 日本語論