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桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』を読む

――「血族の因縁」と対照的な「血縁のない居候」――
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『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』
『少女には向かない職業』
『少女七竈と七人の可愛そうな大人』……と
桜庭一樹の作品を続けて読んできた私が
次に手を伸ばしたのが本書・『赤朽葉家の伝説』である。

中国地方の日本海側で
製鉄業を生業としてきた「赤朽葉家」を舞台に、
祖母・母・娘と女系三代の物語がつづられてゆく。

この物語を読んでいて一番興味深く思われたのが、
こうした「血族の因縁」とは裏腹に
一家に次第に増殖してゆく居候たちである。
彼らはこの物語の舞台となる赤朽葉家とは
何ら血縁関係も婚姻関係も持たないにもかかわらず、
ふとしたきっかけからこの家に転がり込み、
そのまま居付いてしまう。
倒産したライバル会社の娘とか(なぜか祖母と仲が良い)、
漫画家であった亡くなった母親の元担当編集者とか、
母親と顔が似ているフィリピン人とかが
因襲漂うこの旧家に平気な顔で同居している。

そもそもこの家では、
祖母も母親も、
親戚の間でいつの間にか決められた相手と
結婚させられたのであり、
いわゆる「恋愛結婚」をしていない。
だから、
自分の夫であっても根本的には「他人」にすぎず、
友人・知人を同居させることと
あまり違いがなかったのかもしれない。
物語の語り手である三代目の「わたし」が、
小さいころからこうした血縁も何もない居候たちと
自然に仲良く暮らしている光景が、
逆に、
物語の主題である三代にわたる血族の因縁を
際立たせる効果を果たしているのではないだろうか。


桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』(創元推理文庫)
(評価:4)


【参考記事】
桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』について
桜庭一樹『少女には向かない職業』について
桜庭一樹『少女七竈と七人の可愛そうな大人』について

by imadegawatuusin | 2012-01-19 10:36 | 文芸
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