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やぶうち優『少女少年II―KAZUKI―』解説(その4)

―― 一葵は晶と同い年!? ――

一般には、
『少女少年』第一期は1997年度、
『少女少年II』は翌年・1998年度を舞台にしていると
考えられている。

第一期の舞台が1997年度であることは、
主人公のみずきが出演していた音楽番組が
「ヒットパレード’97」であることや(『少女少年』50ページ)、
第一期が
小学館の学習雑誌・『小学六年生』に連載されたのが
1997年度であったことから明らかである。

そして『少女少年II』であるが、
『少女少年』第一期の最後に、
晶と別れた村崎ツトムが、
一葵と思われる少年に、
「キミ
 キミ!
 そう
 キミ!
 アイドルに
 なる気
 ないかい!?」
と問いかけているシーンがある。
実際の『少女少年II』におけるセリフとは
やや違っているものの、
この呼びかけを
最初一葵が自分に向けられたものと思わなかったため、
もう一度繰り返したのが
『少女少年II』の冒頭なのだと考えると
いいかもしれない。

したがって『少女少年II』は
『少女少年』第一期の翌年度、
つまり1998年度の話であると考えるのが
自然なのである。
(『少女少年II』が『小学六年生』に連載されたのも
 1998年度のことである)。

そして、
『少女少年II』には物語の最後に、
翌年の「4月」に一葵たちが中学生になったことを
示唆するシーンがあること(『少女少年II』207ページ)、
連載された雑誌が
『小学六年生』であったことを考えても、
物語における一葵の学年は
基本的に小学6年生であったと考えるのが自然であろう。

つまり、
晶は1997年度に小学6年生、
一葵は1998年度に小学6年生だったというのが
最も自然な読み取りなのだ。

ところがである。
これと矛盾する記述が作品中にあるのである。

それは、村崎ツトムに提出した「申込書」に記載した、
一葵の生年月日である。
ここで一葵は自分の生年月日を、
「(19)86年3月10日」としているのである
(『少女少年II』29ページ)。

一葵が1986年3月10日生まれなら、
1985年度生まれということになる
(年度は4月で変わるため)。
もしそうであれば、
一葵は『少女少年』第一期の晶と
同い年ということになってしまう。
通常は、
1997年度に小学6年生、
1998年度には中学1年生となるはずだからである。

一葵はこの「申込書」を書くにあたって
「3回も
 みなおした」と証言している。
自分の生年月日を書き間違えたとは考えにくい。
この矛盾はどう考えればいいのだろうか。

これを考えるヒントが
『少女少年II』の198ページにある。
ここで、
誘拐から解放され、
正体が発覚した一葵のことが、
新聞に「実力派! 星河かずき(12)」と
報道されているのである。

誘拐事件があったのは
クリスマスイブ(12月24日)の前日、
つまり12月23日であるとされている(『少女少年II』173ページ)。
新聞報道は、
誘拐事件の後に、
「その後、
 東京に戻ってから
 正式な記者会見が開かれて、
 『大空遥に
  かくし子発覚』と
 『星河かずき
  実は男』の話題で、
 家に帰る
 ひまもなく、
 数日が過ぎて
 いった」という一葵のモノローグと、
「だけど
 その間……」という、
続くコマにある一葵のモノローグの間に
挟まれる形で登場する(『少女少年II』198ページ)。

つまり、
誘拐からの解放翌日から「数日」の「間」、
12月24日から数日の間に
報道されたものであるということである。

もしも一葵が3月生まれなのだとしたら、
普通はここは「星河かずき(11)」と
なっていなければならない。
しかし、
物語中の12月の時点で、
一葵は12歳になってしまっているのである。

だとすると一葵は、
通常より一年遅れで
学校に通っているとしか考えられない。

3月10日生まれというのは、
考えてみればかなりの「遅生まれ」である。
あと二十数日遅く生まれていれば
次年度生となる狭間の生まれであるからだ。
複雑な家庭の事情もある一葵のことだ。
学校への入学が一年遅れたのだとしても、
考えられないことではない。

そう言えば、
大空遥は自身の妊娠を一切世間に知られることなく
極秘のうちに一葵を出産したらしい(『少女少年II』25ページ)。
だとすると一葵は、
大空遥があまりお腹が大きくならないうちに生まれた、言い換えれば相当の未熟児だったのではないか。
実際の誕生日は3月10日でも、
本来は4月以降に
生まれるはずだった子どもであったとしても
おかしくはない。

また一葵には
小さいころから夢遊病の気があったようであり、
これについては今も完全には直っていない(『少女少年II』68ページ)。
こうした一葵の「発達の遅れ」も、
就学猶予が認められれた一つの要因である可能性がある。

では、
物語の冒頭で一葵が村崎ツトムに提出した「申込書」で
「年齢」が「11歳」(『少女少年II』29ページ)、
オーディションに提出されたものでは
「満11歳」となっていたこと(『少女少年II』38ページ)
についてはどう説明するのか。

この「申込書」を書いたとき、
一葵はまだ小学5年生だったと考えるのは
どうだろう。
よくよく考えてみれば、
1997年度を舞台とする『少女少年』第一期の最後に
一葵が登場することも示唆的である。

白川みずきは1997年のクリスマスシーズンと(『少女少年』158ページ)、
1998年の正月(『少女少年』172ページ)との間に
引退している。
引退が「紅白歌合戦」の前であることからも(『少女少年』161ページ)、
1997年の12月後半のことであろう。

それから1998年の4月までには
3ヶ月あまりの時間がある。
村崎ツトムが一葵と出会ったのも、
申込書を提出したのも、
この1998年1月から3月9日までの間だったのだと
考えれば、
一葵が一年遅れて入学しているにもかかわらず、
このとき年齢が11歳であったことの説明がつく。

ではまとめよう。
村崎ツトムが一葵と出会ったり、
一葵が村崎に「申込書」を提出した
『少女少年II』第1話・「運命の決断」は、
1998年の1月から3月9日までの間
(おそらく、3月1日から9日の間)で、
一葵が小学5年生で、
3月10日に12歳の誕生日を迎える前の話。
このとき、一
葵は11歳だったので、
「申込書」にはそのように書かれている。

「砂の嵐」のオーディションが行なわれたのは
1998年の「4」月であるが(『少女少年II』23ページ)、
申込書を記入した時点が3月9日以前であれば、
そこに年齢が「満11歳」と書かれていても
不自然ではない。

つまり一葵は、
『少女少年II』の第1話と第2話との間に
誕生日・3月10日を迎えて12歳になり、
4月を迎えて6年生になっている。
第2話・「とまどい」以降は一葵12歳、
小学6年生のときの話ということになる。

なお、
「申込書」の提出以前の段階で、
一葵の父・星河鉄郎が一葵に対し、
「一葵…。
 おまえももう
 6年生だし……」と発言している場面があるが(『少女少年II』24ページ)、
これはおそらく、
1998年3月の時点で、
「お前ももうすぐ6年生だ」・
「お前もあと1ヶ月もしないうちにもう6年生だ」
というような意味合いでの発言か、
あるいは
小学校への入学が1年遅れていることを意識して、
「お前も本当ならもう6年生だ」と言うような意味で
理解するとよいのではないか。

なお、
『少女少年II』の第1話・「運命の決断」の部分が
一葵が小学5年生時代の3月上旬であると考えることには
別の合理性もある。
それは、
この第1話が掲載された
1998年4月号の『小学六年生』は、
実は3月上旬(正確には3月3日)に
発売されているということである。

つまり、
雑誌掲載時に
リアルタイムでこの物語を読んでいた読者も、
第1話の時点では小学5年生だったのだ。
4月号掲載の一葵が小学5年生で、
5月号掲載以降の一葵が小学6年生であるとすれば、
作品の主人公と読者とが完全に同期していたことになる。


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by imadegawatuusin | 2007-01-03 11:37 | 漫画・アニメ
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