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『アリーテ姫の冒険』を読む

――「賢い」王女様の冒険譚――

結婚を嫌がるお姫様の冒険譚というと、
私はつい、
氷室冴子さんの傑作・『なんて素敵にジャパネスク』を
思い出してしまう。
この『アリーテ姫の冒険』も、
題名から ついてっきり、
おてんば姫の冒険物語だと思い込んでいた。

だがアリーテは、
実のところ決して「おてんば」少女ではない。
縫い物も絵も得意で、
親の国王から習わされたダンスも
楽しくレッスンを受けている。

姫を特徴付けているのは
「おてんば」などでは決してなく、
むしろ「かしこい」ということなのだ。
王様の書斎にある本という本を
読みつくした彼女の「賢さ」に、
王様は「あまりに賢いと嫁の貰い手がない」と
恐れている。
それで執拗に姫に結婚をすすめるのである。

誤解の原因は日本語の表題にもある。
日本では『アリーテ姫の冒険』と訳された
この本の英語における本当の題名は
"The Clever Princess"(賢いお姫様)なのだ。

物語にありがちだが、
アリーテ姫は「良い魔法使い」から
3つの願いをかなえる力が授けられている。
だが、
アリーテ姫はこれまでのおとぎ話の姫たちと違い、
この力を問題の解決には使わない。
悪い魔法使いから出される無理難題を、
アリーテ姫は魔法の力に頼ることなく、
あくまで自分の知恵と勇気ある行動で乗り越えてゆく。

アリーテには、
『なんて素敵にジャパネスク』の瑠璃姫のような破天荒さはない。
それまで
幾多の騎士や王子たちが失敗してきたという無理難題を、
ある意味ではきわめて「まっとうな」正攻法で
アリーテは解決してしまう。
「当たり前のこと」が
いざというときにきちんとできるかどうかこそが
本当の「賢さ」なのだと
読者は気付かされることになるだろう。
だがもしかするとアリーテ姫は、
根本的なところで瑠璃姫などより
ずっと「過激」なのかもしれないと思うのだ。

瑠璃姫は
自らは貴族社会の身分制度などには
こだわらないと言いつつも、
自分が摂関家の血を引く姫であることを
要所要所で利用(悪用?)しまくる傾向にある。
何のかんの言いつつ広い意味では、
大臣である父親の庇護の下に
活動していると言ってもいい。

それに対してアリーテ姫は、
自分を悪い魔法使いに売り飛ばした父親を決して許さず、
自らの国を捨てる。
そして、
新しい土地で国王に推挙されたにもかかわらず、
「冒険」の末に手に入れた「永遠の井戸の水」や
「病気を治すルビー」を使い
世界中の人たちを助けにまわる道を選択する。

そして、
あとのことは
「この国のおおぜいの人を集めて、
 みんなで相談」させ、
「よい法律」を作って国を守らせることにするのである。

どんなにじゃじゃ馬でも、
決して貴族社会の根幹、皇室制度の根幹そのものは
突き崩そうとしなかった瑠璃姫とは、
ここが非常に対照的だと思うのである。

by imadegawatuusin | 2012-01-20 19:09 | 文芸
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