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やぶうち優『少女少年II』各話解説(第1話)

第1話 運命の決断

『少女少年II―KAZUKI―』は、
僕がリアルタイムで(つまり月刊『小学六年生』で)
初めて読んだ『少女少年』です。
本屋でたまたま『少女少年』(第一期)を手に取り、
巻末のお知らせ欄で第二期が連載中と知って
『小学六年生』を読むようになりました。

そこでびっくりしたのが、
一葵のいじらしさ、けなげさ、かわいらしさで、
僕はもうそのまま
『少女少年』に夢中になってしまいました。
僕が『少女少年』に夢中になる
「きっかけ」を作ってくれたのが
第一期(白川みずき編)だとすると、
僕を『少女少年』に夢中にしたのが
第二期・かずき編だと言えるでしょう。

さて、
その第二期・かずき編は主人公・星河一葵が街頭で、
芸能プロダクションの村崎ツトムから
スカウトされるところから始まります。
このシーン、
ちょうど『少女少年』(第一期)の最後の部分の
続きになっているんですね。
よく見てみると、
村崎さんが一葵らしき人物に声をかけるシーンで
『少女少年』(第一期)は終わっているんです。

こうした形で
シリーズ同士の関連が明確になっているものは
他にはないと思います。
III以降の『少女少年』は原則として、
他の『少女少年』の物語との関連性が明らかでなく、
全く別の世界の物語とも読みうるようにできています。

さて、
一葵が声をかけられたのは、
背景などから推察するとかなりの都会。
一葵もランドセルなどを背負ってないところを見ると、
休日中に都会に出てきたところだと考えられます。
(もっとも、
ランドセルを背負っていれば
男子か女子かはすぐにわかってしまいますので、
話が成り立たなかったかもしれませんが)。

後に分かる話ですが、
このシーン、
村崎ツトムは一葵のことを
女の子だと思ってスカウトしているわけです。

「キミ、
 けっこーイケてると
 思うよ、うん」
「学校でも
 モテモテなん
 じゃないの?」……。
こうした言葉を村崎ツトムが発しても、
一葵は
「いや
 そんなこと
 ぜんぜん…」と戸惑うばかり。

あくまで村崎さんは
髪の長い一葵を『女の子として』
「イケてると/思う」・
「学校でも/モテモテなん/じゃないの?」と
言ってるわけで、
そりゃ話がかみ合わないのは
当然といえば当然なのですが。
 
で、オーディションへの参加を勧められた一葵。

家に帰ってもちょっと浮かれ気分で、
「にへ~」としながら
カレーの鍋をかき混ぜたりしています。

そう。
一葵の家は父子家庭。
晩ご飯を作ったりする家事は
一葵が自分でやるわけです。
カレーにしたのも
「肉
 安かった
 から」とのことで、
この歳で経済観念がしっかりしてるところも
一葵の魅力の一つですね。

お父さんは休日出勤の仕事帰り。
決して豊かとはいえない家庭ですが、
お父さんはわが子のために
一生懸命働いているのでしょう。

そう。
『少女少年II―KAZUKI―』のテーマは
ずばり「家族愛」。
恋愛が主軸になった第一期と比べ、
家族の描写が丁寧です。

一葵は父と一緒にカレーを食べながら、
自分がアイドルになってスターになったら
「こんな
 ボンビーなせいかつとも
 さよならだよね!」と無邪気に夢を語ります。
そして、
「給料日がきたら
 髪切んないとなー
 のびほーだいで
 ぼさぼさ…」とつぶやくわけです。

一葵のチャーミングポイントとも言うべき、
外向きにカールした長い髪。
村崎さんもそこにだまされて
「女の子だ」と思い込んだわけですが、
実は単にお金がなくて、
髪を切ってこなかったからだと判明します。
給料日がちょっと早くて髪を切っていたとしたら、
この物語自体がなかったことになるわけです。
やぶうち優さんは
「家が貧乏」という設定と
「スカウトされる」という、
普通ではどう考えても結びつかないような結果を
きちんと論理的に結びつけて物語を展開しているわけで、
さすがだなぁと思わずにはいられません。

オーディションの応募用紙を一葵はお父さんに渡します。
ところがお父さんは、
審査員の筆頭に名前が挙がっている「大空遥」の名前に
反応します。
聞けば今回のオーディションは、
大空遥の「子供」の役だとか。
一葵は大空遥にそっくりだということで
スカウトされたわけです。

お父さんは一葵に、
自分が一葵の本当の父親ではないこと、
かつて大空遥のマネージャーであったこと、
一葵が大空遥の隠し子であり、
自分が引き取って今日まで育ててきたことなどを
話します。

つまり、
一葵と大空遥は本当の親子なわけであり、
ある意味では似ていて当たり前。
「これも
 なにかの
 因果かもな」とはお父さんの言葉です。

あまりに突然の話に、
一葵は自分の寝室(?)にこもってしまいます。
たぶん部屋も決して多くない狭い家ですけど、
ふすまにつっかえ棒をしたりして、
一葵もプライバシーを守っていることがわかります。

この瞬間から、
一葵のオーディションに臨む姿勢が激変します。
それまでは、
「スターになれば貧乏な生活からはおさらばだ」などと
夢見がちに語っていた一葵でしたが、
「本当のお母さん」に会える、
会って話ができるかもしれないとなれば
話の切迫感が違います。

それまで一葵は、
母親は自分が小さいころに亡くなったと
聞かされていました。
思い出したら辛くなるから
写真も全部捨てたのだという
父の言葉を信じてきたわけです。
そう言われれば、
お母さんの名前も尋ねにくかったことでしょう。
(それともお父さん、
 大空遥を母親に見立てて
 「お前の母さんは遥といってなぁ……」とか
 語ってた?)

でも本当は、
お父さんは結婚したこと自体がなかった。
ただただ、
今日まで一葵と二人で暮らしてきたのだとすれば……。
一葵は
「お母さんが生きていた」ということしか
頭にないみたいですけど、
お父さんのこれまでを思ったとき、
僕はなんかじんとくるものがありますね。

さて翌日、
一葵は応募用紙を携えて村崎プロダクツをたずねます。
涙を流して喜ぶ村崎さん。
これで仕事が一つ入ると読んだのでしょうか。

ところが一葵は
「3回も
 みなおした」はずの応募用紙の記入ミスを
指摘されてしまいます。
性別欄が男になっているではないか、というのです。
そこでようやく一葵は、
自分が女の子と間違えられていたことに
気付くわけですね。

第一期の晶と違い、
一葵は「女装」していたわけではありません。
それでも女の子と間違えられたというところに、
一葵のかわいらしさが示されていると思います。
もっとも、
「大空遥の娘役にぴったりな女の子と見つけたい」という
村崎さんの願望が、
実際以上に一葵を「女の子」に見せてしまった面も
あるのでしょうが。

「娘役」のオーディションのため、
男の子では問題外と言われてしまった一葵。
けれど、
本当のお母さんに会う、
会って話をするのだという一葵の決意は
そんなことでは揺らぎません。
一葵は宣言するのです。
「そのオーディション、
 女として
 受けます…!」。

ここに、
二代目少女少年・星川かずきが
誕生することとなったのです。


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やぶうち優『少女少年II―KAZUKI―』解説(その2)
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by imadegawatuusin | 2012-02-11 18:04 | 漫画・アニメ