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片山こずえ『女のコで正解!』について

――片山こずえ作品の最高傑作――

■同居人は、男の子の体を持つ女の子 
2LDKのマンションをルームシェアする同居人を探していた
専門学校生・えみりのもとに現れたのは、
「お人形みたい」にかわいい「有紀ちゃん」。
一緒に暮らし始めて判ったが、
ちょっとバカっぽいところもあるけどとってもいい子なのだった。
二人はたちまち仲良しになった。
けれど、一緒に暮らしているうちに えみりは、
彼女が女の子の心と男の子の体とを合わせ持つ
「性同一性障害者」なのだということに気付く。
しかもそれを、
あこがれのエツローにまで知られてしまい……。

■作者の愛を一身に受けたシンデレラガール「有紀ちゃん」
「作品かいせつ」の中で片山さんは、

女の子同士の友情ものは、
かなり前からいつか描くぞと、思ってました。
……で、
わたしが描くと、こうなりました。


と語っている。
104ページのフリートークにもある通り、
「有紀ちゃん」が作者の「愛を
 一身に受け」たキャラクターなのだということが
作品全体から実にありありと伝わってきて、
読んでいるこちらまで胸が熱くなってくる。

『いっそのこと自分が男だったら、
 エツローとも本当にただの男友達でいられて、
 こんなに苦しい思いをすることは無かった』などと語るえみりに、

それでも
エツローくん
スキになっちゃっ
たら?
 
きっと…
今よりもっと
苦しいわよ(片山こずえ『女のコで正解』63~64ページ)


と諭した「有紀ちゃん」の言葉には、
他には無い重みが感じられる。

彼女は「男の子」として生まれてきた。
そして高校1年生のとき、
「すごくカッコイイ男の子」に恋をしたのだ。
「人気者で/いつも笑ってて
 大好きだった」と彼女は振り返る。

彼女は、「ステキな彼」が欲しかったという。
けれど彼女には、もっと欲しかったものがあった。
それは、「女のコの友達」だった。

お菓子を食べながら好きな男の子の話を一晩中して、
「うれしかった」とか「悲しかった」とか、
一緒に泣いたり笑ったりできる親友がほしかったと言う。

そして彼女は、
ずっと願い続けてきた「女の子同士の友情」を、
物語の最後で手に入れた。
ハッピーエンドだ。

彼女は幸せ者だと思う。
「まるでシンデレラのような」という形容が適切かどうかはわからないが、
彼女が最後に手に入れたものは、
「性同一性障害者」が現に社会の中で置かれている差別や偏見を考えたとき、
おとぎ話のように貴重な幸せなのだ。
例えそれが、
「フツーの女の子」から見ればどうということのない、
「ただの女同士の友情」であったのだとしても。

少女漫画の中では「女のコの友達」は、
ついつい「ステキな彼」の陰に隠れてしまいがちである。
けれど、
その「女の子同士の友情」をテーマに物語を描こうとしたとき、
片山さんがそのテーマにふさわしいものとして設定した人物配置は、
実にみごとだったと言わざるを得ない。

作品は、
えみりとエツローと「有紀ちゃん」とが、
にっこり笑った1枚の写真で幕を閉じる。
(「両手に華」状態のエツローだけはやや複雑そうだが)。
この写真を撮ったのはおそらく、
えみりの友人で写真の授業を取っている
亜純(あすみ)だろう(片山こずえ『女のコで正解』69ページを参照)〔注1〕。
えみりは亜純とも、
きっと仲良くなったに違いない。
カメラに向ける「有紀ちゃん」の明るい表情がそれを証明している。

ところで、
物語の本筋にはいっさい関係ないが、
作中でエツローが
“STOP ACID RAIN(「酸性雨を防止しよう」)”
と書かれたTシャツを着ているのが
妙に気にかかった(片山こずえ『女のコで正解』54~59ページ)。
エツローって案外、
作品には描かれていないところで実は、
日曜日には環境保護運動に取り組んでいたりするタイプなのかもしれない〔注2〕。

〔注1〕作者・片山こずえさんの趣味も
「写真(を)撮ること」らしい(片山こずえ『女のコで正解』109ページ)。
1/4のフリートーク欄の中で片山さんは、
『あまり取りには行けないがモノクロをやりたい』といったことを語っている。

〔注2〕エツローは、
作者の「理想がうっかり入ってしまった」キャラクターらしい(片山こずえ『女のコで正解』154ページ)。
「有紀ちゃん」が「男だと知った」ときには、
彼女のえみりとの「同棲」にうろたえた彼だが、
すぐにきちんと反省して、
「ごめん
 みっともねー
 嫉妬した」とはっきり認めて謝ることのできた彼は、
立派な人間だと僕は思う。
自分の誤りを素直に認めて謝るというのは、
口で言うほどなかなかできることではない。
いなくなった「有紀ちゃん」の行方も、
彼が必死で探してくれたから見つけることができたのだ。


なお、なお本書には他にも、
「For my honey―君がいれば僕は幸せ―」・「くちびるガーディアン」の
2つの短編が収録されている。

■「For my honey」――「裏返された有紀ちゃん」の物語――
作者の片山さんによると、
「For my honey―君がいれば僕は幸せ―」は「女のコで正解!」の
「姉妹作品」とのこと(片山こずえ『女のコで正解』177ページ)。
ともに1995年に発表された作品だ。
「女のコで正解!」の「有紀ちゃん」が、
自分を女の子だと認めてくれる「女のコの友達」がほしかったように、
「For my honey」の夢(ゆめ)もまた、
自分を男の子だと認めてくれる「男のコの友達」を
求め続けていたのだろう(本書126ページ及び131ページ参照)。
(「男の子同士の友情」は、
 少女漫画の題材とはなりにくいのか、
 「For my honey」ではあまりそこに重点が置かれているわけではないが)。
本当は男の子であるにもかかわらず、
ずっと女の子としての活動を強いられてきた「夢ちゃん」。
彼はまさしく、
「裏返された有紀ちゃん」だ。
ずっと友達ができず、
男から何度も
性的暴行を受けかけたことを示唆する(本書124~125ページ)彼の人生は、
軽そうな見掛けとは裏腹に重い。
そのあたりにもおそらく、
「有紀ちゃん」と共通するものがあるのだろう。

■「くちびるガーディアン」
表題にある「ガーディアン("Guardian")」は、
「保護者」という意味の英単語。
元々は「ガード("guard")するひと」(=「護衛する人」・「番人」)という意味。
主人公・弥栄子の兄で化学教師の
斉門聖一郎にぴったりである。

《次に読むべき本》
この本が気に入った方は、次に
片山こずえ『王子様を落とせ』(集英社マーガレットコミックス)を読むことを
お薦めする。
「有紀ちゃん」の妹である みかよちゃんが大活躍する傑作だ。
併せて読むとより一層
作品理解が深まるだろう。

《そのうち読んでほしい本》
他の作者の作品では、
藤村真理「バラの花咲く」
本書と同じテーマを扱った、
読み応え十分の傑作だ。
藤村真理『SINGLES』第2巻(集英社マーガレットコミックス)に読みきりで収録されているので、
ぜひとも読んでいただきたい。

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【本日の読了】
片山こずえ『女のコで正解!』(集英社マーガレットコミックス)評価:4
by imadegawatuusin | 2005-09-09 15:57 | 漫画・アニメ