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片山こずえ『X=LOVE』について

■短編の名手・片山こずえの第一作品集
僕は、「冤罪もの」が非常に苦手だ。
小さいころ、アニメ・『フランダースの犬』を
僕は見ていられなかった。

この作品についてはよく、
「ネロが死ぬシーンを見て泣いた」
というような話をよく耳にするが、
僕にとって最もショッキングだったシーンは
そこではない。

主人公・ネロが
村の風車小屋に放火した疑いをかけられ、
村八分にされるくだりである。

悔しかった。
テレビの中に怒鳴り込んで、
「お前ら、あれはな……!」と、
声を大にして泣き叫びたい思いだった。

「『フランダースの犬』のラストシーンを見て泣いた。
 感動した」とだけ安易に言う人間を、
はっきり言って僕は信用しない。
「お前らどこに目ぇ付けてんだ」と
怒鳴りつけたくなってくる。

片山こずえさんの第一作品集・『X=LOVE』の表題作は、
まさに「冤罪もの」である。
だから、読むのがキツかった。
例の「冤罪」のくだりにきたところで、
僕はページを閉じてしまった。
そして、
10分間ほどそのまま放置する。
恐る恐るページを開けて、
チラッと見てはまた閉じる。
次のページに進むのには、
相当の時間を必要とした。

もう
いーんだよ
どーだって


いわれのないカンニングの疑いをかけられ、
一時はすべてを投げ出してしまいそうになった早川を、
すんでのところで支えたのが、
主人公・沢村の愛だった。

人は、
順調に物事が進んでいるときには本当に寸暇を惜しみ、
全力を尽くしてがんばることが可能である。
だが、
本当の意味での正念場はそこにはない。
逆境にあい、つまづいてしまい、
すべてを投げ出したくなったときに、
(全力でなくてもいい)
ほんの少しでいいからがんばり続けることができるかどうかに
人生はかかっているといっていい。

早川はそこで踏ん張れた。
沢村が支えてくれたからである。

人は、土壇場に追い込まれてしまったとき、
なかなか一人で踏ん張ることは難しい。
そんなとき、
自分を支えてくれる人がいた早川は幸せ者だ。
日蓮宗の宗祖である日蓮の言葉にも、

甲斐無き者なれども・
たすくる者強ければたうれず、
すこし健(けなげ)の者も
独(ひとり)なれば
悪しきみちには・たうれぬ(「三三蔵祈雨事」『新編日蓮大聖人御書全集』1468ページ)


つまり、
「不甲斐ない者であっても、
 助けるものが強ければ倒れない。
 少し壮健な者も、
 独りであれば、
 悪い道では倒れてしまう」
とある。

なお本書には、
表題作・「X=LOVE」だけでなく、
他4作の片山さんの初期短編集が収録されている。

■「ドリーム・スープ」 片山さんのデビュー作!
絵はまだまだ発展途上。
自分で描いておいて、
「いつから左ききになったの」(62ページ)と自分で突っ込んでみたりする
おちゃめな片山先生である。

なお、
本作の中で2度繰り返される次の言葉は
印象的だ。

あたしの
大好きな人は
とっても…
いい人なの


これは、
片山作品を貫く大原則である。

片山さんの『宝物は君のこと』の解説の中で僕は、
「遺産目当てのいい人」というかなり奇妙な表現を使ったが、
片山作品の主要登場人物たちは、
みんな「とってもいい人」である。
この辺に片山さんの、
キャラクターたちに対する愛情を
僕はいつも感じるのであるが。

■「彼までZOOM」 「うまいなぁ」の一言
ケンカ、カメラ、そして恋……。
最初は別々に見えた出来事が、
たった30ページの短編の中で
みごとにつながり
そして組み立てられていく。
「うまいなぁ」の一言だ。

しかし、これがデビュー後第一作とは、
さすが短編の名手・片山先生。

■「本気の君をさがしてる」 とにかく可愛い!
この作品に登場するネコ君は
何という名前なのだろう。
本当に愛嬌があって可愛いのだ。

けれど、
ヒロインのみちるちゃんは
もっともっとかわいい。
この本に収録されている5作品のヒロインの中で、
一番可愛いのはダントツみちるちゃんである。

■「ラブコンタクト」 ほれた女の顔がわからない
「ほれた女の顔がわからない」。
よくもまぁこんな設定をひねり出したものである。

高校生・坂木小伍郎はある日、
コンタクトレンズを落として困っていた。
そんなとき、通りがかった女の子が、
落としたコンタクトレンズを一緒に探し、
見つけてくれたのである。

親切な彼女に、
坂木は「一目ぼれ」(?)してしまう。
問題は、
(コンタクトレンズをしていなかったので)
この少女が誰だったのか、
彼にはわからないということだ。

普通に漫画を読むにあたっては
ほとんど気にしないような何気ないシーンが、
最後の最後で「コンタクトの少女」を特定する
重要な手がかりになっていく。
(それも、1つではない!)

そのシーンを読んだときには、
よもやこれが解決への伏線なのだとは
とうてい気づかせないような何気なさがにくい。
多分、この「何気なさ」を、
たとえば小説で表現するのは難しいだろう。
「漫画」という表現方法の長所を最大限に生かした一品だ。

【次に読むべき本】
本書を読んで楽しんだ方は、
ぜひ同じ作者の『女のコで正解!』(集英社マーガレットコミックス)に
手を伸ばしてほしい。
深い内容を持つ傑作で、
片山こずえ作品の最高峰である。

【関連記事】
「片山こずえ『信じる者は救われる!』について」
「片山こずえ『僕という名の罪と罰』について」
「片山こずえ『君だけを惑わせる』について」
「片山こずえ『女のコで正解!』について」
「片山こずえ『王子様を落とせ』について」
「片山こずえ『宝物は君のこと』について」

【本日の読了】
片山こずえ『X=LOVE』集英社マーガレットコミックス(評価:3)
by imadegawatuusin | 2006-04-28 13:35 | 漫画・アニメ