『ことわざの知恵』を読む(その12)

昨日の記事に引き続き、
『ことわざの知恵』(岩波新書)を取り上げたい。

今日取り上げることわざは、
この本の123ページに掲載されている
「転石苔を生ぜず」である。

これもまた、
まったく正反対の二つの解釈を持っている。

もともとはイギリスの

A rolling stone gathers no moss.


ということわざの翻訳であるとのこと。
ころころと職業や住所を変えてばかりいる人間は風格が出ず、
大成しないという意味のものだったという。

ところがこれがアメリカにわたると、
まったく同じことわざが正反対の意味に変容する。
千年一日同じところに住み、
同じような仕事ばかりやっていると、
苔が生えてダメになってしまう、
という意味に理解されてしまったというのだ。

この背景には、
イギリス人とアメリカ人の一般的な人生観はもちろん、
それぞれの文化が持つ「苔」というものに対する印象の違いが
反映されているのではないかと考えられる。

長い歴史を持ち、
伝統や先例を重んじるイギリス社会においては、
あまり職業や住所をころころと変えることは
あまり良いこととはみなされない。
その上イギリス文化では、
古い家の庭に苔の生えた
「味のある」石などを置いて
その趣を高める「ガーデニング」の伝統がある。

それに対して移民文化のアメリカでは、
その開拓者精神からか「新しいものに果敢に挑戦する」ことが美徳とされる。
さらにアメリカ文化では、
「石に生えた苔」はまるで鉄についた錆のように
「劣化の表れ」であると捉えられるのだそうだ。

「変化」に対する考えと「苔」に対するイメージの違いが、
同じことわざをまったく正反対の意味に解釈させてしまう。
これもことわざの面白いところである。


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by imadegawatuusin | 2005-02-10 18:37 | 日本語論