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篠塚ひろむ『ちぇんじ!』について

――仲良し姉弟、安里と千里が入れ替わり!?――

■「ボクたち中身が入れ替わったんだ!!」
本作はいわゆる「男女入れ替わりモノ」である。

中学2年の安里と千里は
いつも仲良しの かわいい双子の きょうだいだ。
「活発」な姉の安里、
「素直でいいコ」の弟・千里(本書7ページ)。
2人は学年の誰からも好かれるマスコット的存在だ。
だが彼らには、
他人には言えない「二人だけの秘密」があった。
それは、
弟の「千里には小さい頃から不思議な力があって、
幽霊を見ちゃったり
ときどき予知夢を見たりもする」ということだ(本書9ページ)。

そんなある日の夜こと、
弟の千里が姉の寝室にやってきた。
「今日一緒に寝てくれない?」と言うのである。
「さっきとてもよくない夢を見たんだ」、
「ボク怖くて心細くて…」と千里は言う(本書10ページ)。

そんな千里の手を握り、
姉の安里はこう言った。
「だーいじょうぶっ
 あたしがこーして
 手をにぎってれば
 安心して眠れるでしょ!?」。
こうして2人は眠りについた(本書11ページ)。
安里は千里の「企み」に全く気付いていなかったのだ。

翌朝 目を覚ました安里は、
ある「異変」に気が付く。
自分の体が「千里」になっていたのである(本書13ページ)。

そして、目の前にやってきたのは何と「安里」。
実は「彼女」は「安里の体を持つ千里」であった。
「彼女」は満面の笑みを浮かべてこう言った。
「ボク千里だよ
 せ・ん・り(ハート)
 安里が寝てる間に
 『魂入れ替え術』が
 成功したんだ!!」(本書13ページ)

「ボクたち中身が入れ替わったんだ!!」(本書14ページ)

そう。
姉の安里と弟の千里との体の魂が、
それぞれ入れ替わってしまっていたのだ。

「なんでっ!?
 どうやって!?
 どうして!?」
と問う(千里の体を持つ)安里に対し、
(安里の体を持つ)千里が答える。
「ごめぇん
 安里が寝てる間に
 ボクがやっちゃった!!」(本書15ページ)

安里ならずとも
「なんですってえ――――!?」というものであろう。

■なぜ千里は安里と入れ替わろうとしたのだろうか
そもそもどうして弟の千里は
姉の安里と入れ替わろうなどと考えたのか。
(安里の体を持つ)千里は
次のように弁明した。

もともと千里には、
如月北斗という親友がいた。
彼は霊感体質で内気な千里に対しても、
気さくに話しかけてくれた。
女子にも人気があって
とてもカッコいい北斗を見ているうちに、
千里は北斗を好きになっていったのだという。
『ボクは北斗の恋人になりたい。
 そのために、
 なんとしてでも「女の体」を手に入れて、
 北斗に振り向いてもらいたい……』と。

(千里の体を持った)安里はただちに元に戻すように要求するが、
(安里の体を持った)千里は断固拒否する。
こうして2人は互いの体を入れ替えながら
生活してゆくハメになる。

ところで、である。
物語を読み進めてゆくうちに以上の千里の弁明は、
少々マユツバ臭いということに
徐々に読者は気付いてゆくことになるだろう。
というのも作品からは、
千里の北斗に対する執着心が、
あまり感じられないからだ。

実際(安里の体を持つ)千里は、
北斗が他の女の子から告白されているのを見ても、
焼きもちを焼くどころか面白がっているような節すらある(本書23~25ページ)。

それに2人の体が入れ替わってしまったせいで、
むしろ「女」になった千里の側が北斗と疎遠になってゆき、
「親友の座を手に入れた」安里の側が北斗に接近するようになる。
安里は北斗の家に「お泊り」に呼ばれ、
一夜を共にするまでになる。
おかげで安里は今まで何とも思っていなかった北斗のことを
異性として意識するようになってしまう。

対する(「女」になった)千里の側が
北斗に積極的にアプローチする光景は
最後の最後まで見られない。

■最後の最後まで読者に「筋」を読ませない
ここで読者の側には、
当然 次のような推測が浮かぶことになるはずだ。
「千里が安里と入れ替わったのは、
 安里を男にして北斗と接近させ、
 2人をくっつけようとしたからではないのか」と。
これまた少女漫画では、
ある意味 定番の展開ではある。

だが、結論から言ってしまうと、
実はこれも違っている。
本作のように『ちゃお』のような、
比較的低年齢層を主なターゲットとする少女漫画雑誌では、
はっきり言って最初の数ページを見ただけで
その後の展開や構図すべてが
読めてしまうものも少なくない。

だが、本作はそうした凡百の作品とは
はっきり一線を引いている。
篠塚ひろむの『ちぇんじ!』は、
最後の最後まで読者に「筋」を読ませないのだ。
読者はまるで推理小説を読むように、
頭に多くの謎を抱えたまま
ページを読み進めることになるだろう。
「どうして千里は安里と入れ替わろうとしたのだろうか」。
その本当の答えは、
最後の最後まで明かされない。

この「先の読めない面白さ」を、
1人でも多くの人々に味わってもらいたいと
この文を書いた次第である。

《次に読むべき本》
「男女入れ替わり」は漫画界では多くの蓄積を持つテーマであるが、
その頂点とも言うべき作品こそ、
近年発表された志村貴子『放浪息子』(エンターブレイン)である。
女の子になりたい男の子と、
男の子になりたい女の子、
「思春期一歩手前」の子供たちの、
ほほえましくも真剣で、
そしてほのかに もの悲しい日常生活が描写された傑作だ。

《そのうち読むべき本》
『放浪息子』がどこまでも「日常生活」に基盤をおき、
子供たちの人間関係を主とする「小さな世界」にリアリティーを見出すのに対し、
平安時代の王宮を舞台にした波乱万丈の「男女入れ替わり」を描いたのが
山内直実『ざ・ちぇんじ!』(白泉社文庫)である。
姉と弟との入れ替わり、
最後まで先を読ませないサスペンス等は本書とも共通するものがあり、
巧みな伏線の張り方は読むものを真に圧倒する。

酒井徹お薦めの女装漫画》
1.やぶうち優『少女少年』シリーズ(Ⅰ~Ⅶ)、小学館てんとう虫コミックススペシャル
2.吉住渉『ミントな僕ら』全6巻、集英社リボンマスコットコミックス
3.志村貴子『放浪息子』エンターブレイン
4.なるもみずほ『少年ヴィーナス』全4巻、角川書店あすかコミックス
5.松本トモキ『プラナス・ガール』ガンガンコミックスJOKER

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【本日の読了】篠塚ひろむ他『ちぇんじ!~ちがうワタシになれたなら~』小学館ちゃおコミックス(評価:4)



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by imadegawatuusin | 2006-05-29 21:18 | 漫画・アニメ