人気ブログランキング |

やぶうち優「少女少年 0話」解説

――女装漫画の最高峰『少女少年』シリーズの原点――

■同人誌に掲載された幻の「少女少年」
「少女少年 0話」は現在、
2006年に発売された『やぶうち優ファンBOOK』(小学館)に収録されており、
誰でも手軽に読むことができる(『やぶうち優ファンBOOK』49~54ページ)。
実はこの作品は、
長らくファンの間では入手困難な「幻の作品」とされてきた。

「少女少年 0話」は1990年、
やぶうち優さんらが発行する
「MemoryMaker Vol.2」という同人誌に掲載された作品である
「やぶうち先生の主な作品一覧表」『やぶうち優先生を応援するページ』)。
ただし話の構想自体はその数年前、
やぶうちさんが大学受験時代(1987年~1988年ごろ?)に
温めていたものであったとのこと。
このあたりのいきさつは
『少女少年』みずき編の後書き・「『少女少年』について」に詳しい(『少女少年』188~189ページ)。

「少女少年 0話」自体は
ページ数にしてたった6ページ(表紙を除けば内容は5ページ)の
非常に短いお話(?)である。
「お話」というより、
大学に合格して『ちゃお』に復帰したあかつきに
掲載してもらう予定だった作品の予告編、といった趣である。
(しかし、やぶうちさんが受験で『ちゃお』を「お休み」している間に〔注1〕
 『ちゃお』編集部の方針が一変し、
 もはや男の子が主人公のお話は載せないことになったそうで〔注2〕、
 『少女少年』の構想はその後
 『小学六年生』で第一期(みずき編)が連載される1997年まで9年間
 お蔵入りとなってしまったということである)。

〔注1〕実際にはやぶうち優さんは、
浪人中にも
「純情powerのトップ!」という作品を1作だけ描いており、
中学二年でデビューしてから現在まで、
必ず年間1作は作品を発表し続けている。

〔注2〕確かに、中学二年生でデビューしてから
高校生のころまでは、
やぶうち優さんは男の子が主人公となる作品を
『ちゃお』系の雑誌で多数発表している。
主人公の男の子がバニーガールをさせられる
「バニーガールしませんか?」(中学3年生のときの作品)や、
未来から女の子の生霊
(と言っていいのかどうかはよくわからないが、
 『ないしょのつぼみ』1巻の遠藤沙耶のような感じ)がやってくる
「Windy Day Dream」(高校2年生のときの作品)など、
後の作品につながる読み応えのある作品が多い。
ちなみに「Windy Day Dream」の主人公は、
「バニーガールしませんか?」で主人公・平松のりおに
バニーガール姿を強要した「山中くん」が務めている。


こうした いきさつもあって、
「少女少年 0話」の筋書きは
『少女少年』第一期(みずき編)と酷似している。
(「というか、
  ここからⅠ期目が生まれた」と、
 やぶうち優さん自身が書いている[「少女少年 0話」『やぶうち優ファンBOOK』54ページ])。
『少女少年』みずき編の後書き・「『少女少年』について」では、
「少女少年 0話」の女装アイドル・小川ちさと について、
「9年前にかいたみずき」と表記されているほどである(『少女少年』188ページ)。

ただ、いくつかの相違点も実はある。
『少女少年』第一期(みずき編)の主人公である水城晶(白川みずき)は
小学六年生であるが(『少女少年』17,74,110ページ)、
「少女少年 0話」の主人公である大山千里(小川ちさと)は
やぶうち優さんがプロデビューした学年と同じ
中学二年生である(「少女少年 0話」『やぶうち優ファンBOOK』50ページ)。
(おそらく、『少女少年』第一期の掲載誌が
 『小学六年生』になったことから
 主人公の学年が変更されたのであろう)。

水城晶が女装について、
「女装って
 言っても
 カンちがい
 しないでくれ。
 オレにはべつに
 そんなシュミは
 ないからな!」などと言うのに対し(『少女少年』182ページ)、
大山千里がはっきりと、
「女装が趣味」と言い切っているのは、
実に すがすがしい いさぎよさを感じさせる(「少女少年 0話」『やぶうち優ファンBOOK』50ページ)。
大山千里は自分の中学の文化祭で、
本名で堂々と「ミス一中」の座を射止め、
彼を知る大勢の観客の前で生き生きと、
セーラー服姿でその歌声を披露している(同上51ページ)。
(あと、
 個人的な感想を言わせてもらうと、
 水城晶はカツラを外すと女装が全然似合わないが、
 大山千里はカツラを外しても『水色時代』の北野深雪のような感じで
 あまり違和感を感じない[同上52ページ])。
 
芸能プロダクションの村崎ツトムは、
外見も風貌も
このときからまったくと言っていいほど変わっていないが、
「少女少年 0話」では名前は「曲(まがり)」となっている〔注3〕。
〔注3〕曲のキャラクター造形について
作者・やぶうち優さんは、
「大人の男性を描くのが苦手なやぶうちが、
 一生懸命考えた
 大人の記号の集大成なんです。
 スーツ・ネクタイ・サングラス・
 七三分けの髪型。
 髪型は、
 いつもくたびれて乱れているため
 わかりにくいんですが」と語っている。
やぶうち優さんが
「少女少年」の構想を練りはじめたのは
大学受験中の1987年ごろであり、
「少女少年 0話」が
「MemoryMaker Vol.2」で発表されたのは
1990年。
その間にあたる1989年にやぶうち優さんは
「お嬢様にはかなわない」という短編作品を
発表している。
この作品に登場する
「お嬢様」の運転手役・山根が
ちょうどこの「曲」=村崎ツトムと
風貌がそっくりであることは、
やぶうちっく研究の第一人者・くすださん
以下のように指摘しているところである。
「お嬢様の運転手の『山根』さんと、『村崎ツトム』。
 顔、雰囲気、性格、よく似ている気がします。
 きっと親戚なのでしょう。(笑)」。
「少女少年 0話」と同じ1990年に発表された、
「お嬢様にはかなわない」の続編である
「お嬢様には手を出すな」には、
さらにこの運転手・山根にそっくりな
誘拐犯2人組が登場し、
「あなたたちの顔
 どこかで見た
 ことがあるわ」
「そう!
 私の運転手の
 山根にそっくり
 なんだわ!」との
お嬢様こと二階堂景の指摘に対し、
当の誘拐犯らが、
「作者(やぶうち)が
 同じよーな顔
 しか描けない
 からな…」と返すという、
自虐的なギャグが展開されている。
「大人の男性を描くの」を「苦手」としていた
当時のやぶうち優さんが、
いかにこの
「一生懸命考えた大人の記号の集大成」を
随所で使い回していたかということを
如実に象徴するエピソードである。


ちなみに、
『少女少年』第一期で村崎ツトムは白川みずき(=水城晶)のルックスを
「まあまあ」と評していた(『少女少年』24ページ)のに対し、
本作の曲(まがり)は小川ちさと(大山千里)のルックスを
「並(ハンパ)じゃない!!」と絶賛している(「少女少年 0話」『やぶうち優ファンBOOK』51ページ)。

またちょっと意外なところでは、
「少女少年 0話」の主人公・大山千里は
自称「スポーツ万能」という設定だ。
『少女少年』I期目(みずき編)で
晶に好意を抱いていた青野るり なども、
彼のルックスや運動神経については、
「ルックスも
 運動神経も
 とびぬけていいって
 わけじゃない」と、そう高くは評価していなかった(『少女少年』114ページ)。
歴代少女少年の中でも
「スポーツ万能」という設定は意外に珍しい。

赤沢智恵子はこちらでは「クラスメートの鶴村」、
青野るりは「アイドルの清水みるく」となっていて、
設定・外見ともにあまり変わりがない((「少女少年 0話」『やぶうち優ファンBOOK』53ページ)。
(ただ、文化祭において学校でも堂々と本名で女装していた
 「女装が趣味」の大山千里が
 アイドル・小川ちさと と同一人物であるということに
 「クラスメートの鶴村」がまったく気づいていないのは
 やや つじつまが合わない感じもしなくはない。
 『少女少年』第一期において「女装が趣味」の設定が採用されなかったのには、
 そうした事情もあったのだろう)。

そして、
何より大きく異なっているのが黒木紗夜香の位置付けである。
『少女少年』みずき編の設定では、
「みずきのライバル役のアイドル」であるが、
「少女少年 0話」ではアマチュアバンドのメンバーであり、
最初から主人公のクラスメートだ。
名前は「亀山」。
本作の村崎ツトムにあたる「曲」の めいにあたり、
自分のやっているバンドを見てもらおうと
おじの曲(まがり)を中学の文化祭に呼んだのだ(同上53ページ)。
ここで曲(まがり)は女装して歌う千里を見出し
(「天使のイメージ」! 「ボーイソプラノのような透明感」!)、
彼は一躍アイドルへの道を駆け上ることになる(同上51~53ページ)。
そりゃー自分のバンドを見てもらおうと 曲(まがり)を呼んだ亀山としては
断然面白くないだろう。
もし本作が本当に『ちゃお』で連載されていれば、
嫉妬バリバリで黒木紗夜香ばりのイヤガラセを
「ちさと」に仕掛けていたに違いない。

そういえば、「少女少年 0話」の亀山は、
わざわざ自分たちのバンドを 曲(まがり)に見てほしい!と
文化祭に呼ぶほどだったのであるが、
『少女少年』全7作には「村崎さんに会いたくて」とか
「村崎さんが好きです!」というようなアイドルや女の子は登場しない。
かなりの敏腕プロドューサーという設定のはずだが。
(もっとも、『少女少年III』の橘柚季あたりは、
 元々は やや憧れの目で見ていたような節はあるが[『少女少年III』46ページ])。

また本作冒頭の「アオリ文」(?)には、
「ごめんなさい!
 実はわたし
 オトコノコ♂
 なんです!!」とあるのだが、
これも時代を感じさせる(「少女少年 0話」『やぶうち優ファンBOOK』50ページ)。

『少女少年』シリーズ全7作には、
「自分は男であるのに女装して
 ファンの人たちを騙している」といった類の罪悪感を
抱く少年はひとりもいない。
(また『少女少年』第一期では
 男だとバレたときに怒り出すファンが続出したが[『少女少年』167,172ページ]、
 『少女少年II』や『少女少年V』になると主人公が男だとわかったときも
 人々は比較的暖かく彼らを迎え入れている[『少女少年II』198ページ、『少女少年V』161ページ]。
 このあたりにも時代の移り変わりが表れているのではないだろうか)。


おすすめ参考文献
●wikipedia「少女少年0話」
少女少年0話についての情報が充実。
登場人物紹介なども。


関連記事
やぶうち優『少女少年』第一期解説
やぶうち優『少女少年II―KAZUKI―』解説

「マンガ・アニメに女装少年」 『朝日新聞』が報道

酒井徹お薦めの女装漫画》
1.やぶうち優『少女少年』シリーズ(Ⅰ~Ⅶ)、小学館てんとう虫コミックススペシャル
2.吉住渉『ミントな僕ら』全6巻、集英社リボンマスコットコミックス
3.志村貴子『放浪息子』エンターブレイン
4.なるもみずほ『少年ヴィーナス』全4巻、角川書店あすかコミックス
5.松本トモキ『プラナス・ガール』ガンガンコミックスJOKER

女装漫画に関する関連記事
『アイドルマスター Neue Green』(黒瀬浩介)について
片山こずえ『女のコで正解!』について
筒井旭『CHERRY』について
篠塚ひろむ『ちぇんじ!』について
林みかせ『君とひみつの花園』について
富所和子『ないしょのココナッツ』について
水内繭子『恋する子どもたち』について
『かしまし』漫画版について



..... Ads by Excite 広告 .....
by imadegawatuusin | 2006-07-17 23:59 | 漫画・アニメ