やぶうち優『少女少年』第一期解説(その1)

■第一期はシリーズ全7作中の異色作
『少女少年』第一期(みずき編)は、
少女少年シリーズ全7作の「基本形」・「スタンダード」として
語られることが多い。

確かに女子キャラクターの性格・配置などの点で言えば、
本作がその後のシリーズ(特にIIやIII)を
大きく規定したことは否定できない(『少女少年II』210~212ページ)。
ただ僕は、
こうした点のみをとらえて
「第一期」をもって「スタンダード」・「基本形」と規定するのは
あまりにも表面的な見方ではないかと思うのだ。

僕は今回、『少女少年』(みずき編)を、
あえて「異色の『少女少年』」と位置付けたい。
『少女少年』第一期の最大の特徴は、
主人公・水城晶(白川みずき)が「少女少年」を務める上での
「確固とした動機」の欠如、
言い換えれば、
「面白そう!」という単純な気持ちに
常に忠実な主人公のありようである。

■「確固とした動機」の欠如(「面白そう!」に常に忠実)
意外に思われるかも知れないが、
実は本書の主人公・水城晶(白川みずき)は、
作品全編を通してほとんど主体的に行動を起こすことがない。

芸能プロの村崎ツトムに『頼まれて』デビューし(本書24~30ページ)、
憧れの青野るりに
「私なんかいらなくなっちゃうくらい……」
と『頼まれて』芸能人としての決意を固め(本書44~50ページ)、
村崎ツトムに『授けてもらった』作戦に乗って
修学旅行先からライブ会場へと抜け出す(本書85~92ページ)。
姉である水城瞳に『授けてもらった』作戦に則り
二人二役を演じるが(本書131ページ~142ページ)、
結局バレて自らの正体を告白し(本書145~147ページ)、
最終的には芸能界からも
『自らの意思に反して』追放されてしまう(本書167~172ページ)。

水城晶が本作の中で主体的にとった行動といえば、
マネージャーである村崎ツトムの反対を押し切って強行した
「アイドル水着大会」への出場か、
小学校の球技大会に
青野るりを呼んだことくらいしか思いつかない(本書71ページ、104ページ)。
彼は村崎ツトムに言われれば、
「全っ然向いてない」ドラマ出演もいとわないし(本書46ページ)、
「イヤガラセ」に対しても、
その場その場で受け流したりかわしたりと
うまく対処することはできても(本書57~58、60~62ページ)、
黒木紗夜香が自ら犯人であることを明かすまで、
犯人を見つけ出して対決しようという姿勢など
一切見せることはなかった(本書65ページ)。

この「主体性のなさ」を、
僕は必ずしも否定的には捉えない。
思い出してほしい。
『少女少年』全7作の主人公たちはみな、
小学生だったのである。

自分の小学生時代のことを思い出してもらいたい。
そのころ、
自分はどんなことを考え、どんな生活をしていたか。

少なくとも僕は、
確固とした将来の夢とか、
そんなものは持っていなかった。
毎日毎日その日限りの生活をし、
後先考えずに「面白そうなこと」に飛びつく日々だった。

そんな僕にとって水城晶は、
歴代少女少年の中でもっとも親しみやすい、
言い換えれば最も小学生らしい少女少年に見えてならない。

「母さんに会いたい、母さんに認めてもらいたい」という
確固とした目的を持って芸能界に飛び込んだ『少女少年II』の星河一葵。
「田舎を出て、都会で一旗挙げてみせる」と張り切って
芸能界に飛び込んだ『少女少年III』の橘柚季。
計算高い白原允(『少女少年IV』)も、
胸にひそかに「大人への復讐への念」を秘める蒔田稔(『少女少年V』)も、
少女少年になるにあたって確固とした動機を持っていた。

けれど水城晶は違う。
彼は連載開始早々の第3話にしてすでに、
「アイドルをやる
 理由なんてもう
 どうでもいい」と独白している(本書50ページ)。
確固とした動機があるわけでもなく、
さりとて『少女少年VI』の谷川光のように
強制的に巻き込まれたというわけでもない。
彼を突き動かしているのは、
ひたすら「面白そうなこと」を求めてやまない子供らしさ、
「行けるとこまで行ってやる!」(本書50ページ)という
後先考えない「無鉄砲な行動力」だ。

大体、「確固とした動機」があるというのも善し悪しである。
『少女少年V』の蒔田稔などの場合は、
あまりにも「動機」が「確固」としすぎていたが為に、
ときに かたくなになり、
目の前の現実に対処できずに機能不全に陥ったという事実もある。

その点、本作の晶は
心底 元気でやんちゃで明るい(本書151ページ)。
そして、
少女少年史上まれに見る「考えなし」でもある(本書60、69~71、127、161~163ページ)。

大局的な方向性や強固な動機は存在せず、
常にその場その場の状況に応じて柔軟に、
変幻自在に対応する(本書68、77~78ページ)。
後先考えずに、
「面白そうなこと」に出くわすたびに首を突っ込み、
結局 大騒動を巻き起こす。
そんな晶の「少女少年」生活が、
最終的には収拾がつかなくなって
破綻に追い込まれてしまったことは、
おそらく必然だったのであろう。
よくよく考えてみると、
歴代少女少年の中で、
自らの意に反して芸能界を追放されてしまったのは
彼の他には一人もいない。

その意味でも水城晶(白川みずき)は、
非常に特異な「少女少年」だったと言える。

ストーリーとしても「ドタバタコメディー」の印象が強いのは、
この主人公の性格によるところが大きいのではないか。
次から次へと事件が起こり、
作品のボリュームのわりに「長さ」を感じさせることがない。

テンポのよさとノリの軽さを兼ね備えた本書は、
「少女漫画」など読んだことがないという男性にも自信を持ってお薦めできる
間口の広さをもっている。
その意味で本書は、
女装漫画の最高峰・『少女少年』シリーズ全7作についてはもちろん、
「少女漫画」というジャンルそのものへの
最高の入門書であると言えるだろう。
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by imadegawatuusin | 2006-07-31 23:48 | 漫画・アニメ