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やぶうち優『少女少年II―KAZUKI―』解説(その1)

――ため息が出るほど見事な、胸に迫る感動作――

■本書のキーワードは「絆(きずな)」
やぶうち優さんの漫画には、
その作品の最終回の題名に、
作品全体のキーワードとなる言葉を与え、
締めくくりの意味を強調するという傾向がある。
『少女少年III』で言えば第13話の「自分らしく」がそれに当たるし、
『少女少年II』の場合は第12話の「絆―きずな―」という題名が
作品全体のキーワードなのだと考えられる。

それはもちろん、
第一義的には本書の主題である、
主人公・星河一葵と その母・大空遥との絆であり、
また一葵と その「父」である星河鉄郎との絆であろう。
だが、それだけではない。

三省堂の『新明解国語辞典』(第六版)には「絆」について、
「家族相互の間にごく自然に生じる愛着の念や、
 親しく交わっている人同士の間に生じる絶ち難い一体感」とある。
単なる友情とも、恋愛感情とも少し違う、
「絶ち難い一体感」。
それこそが、
一葵と遥、一葵と鉄郎のみならず、
一葵と絵梨、
一葵とトキオ、
そして一葵とマユカの間に貫かれている「絆」である。

■絆は“形”ではない
一葵はこうした「絆」について、
「“形”じゃないと
 思うんだ」と言っている(本書202ページ)。
『少女少年II』という作品は、
「友情」とか「恋愛」といった“形”にこだわって読んでしまうと、
その本質が見えなくなる。

『少女少年』シリーズは、
基本的には「少女漫画」であり、
もっと直接的に言えば恋愛漫画だ。
各作品の主人公たちが他のキャラクターに対して
どういう感情を持っているかは
作品を読めばすぐにわかる。

だが、そうした中で、
この『少女少年II』だけは少し事情が違うのだ。
本書の主人公である星河一葵の
絵梨・トキオ・マユカに対する想いには、
単なる友情とも恋愛感情とも異なる
一種独特のものがある。

そもそも一葵は、
作品前半では絵梨に対して、
ほとんど「一目ぼれ」に近い感情を抱いていたことが描かれている(本書34、36、59~61、69~72ページ)。

ところが、である。
一葵は一方で、
そうした自分の絵梨に対する執着について、
客観的に、批判的に見つめなおす冷静さを失わない。

女々しいな
オレ…。
今さらなに
考えてんだよ。
女になるって
決めたじゃ
ねーか。(本書62ページ)

…ばかだな
オレ。
つまんないこと
きいて…。
絵梨ちゃんは
オレなんかより、
ずっと遠くを
みてるのに…。(73ページ)


と、絵梨への想いにとらわれる自分を
自ら突き放すかのような独白すら為す。

そして、絵梨の幼馴染であり、
彼女に想いを寄せるトキオとの交流を経て一葵は、
絵梨とトキオとの仲を取り持つことを約束する(本書86ページ)。

少女漫画の世界では、
こういう「約束」は大概うまくいかないものだ。
恋愛感情より友情を優先し、
自分の想いに蓋をして二人の仲を取り持とうなどと「無理」をすると、
結局のところは破綻をきたし、
まず間違いなく泥沼の三角関係に陥ると言っていい。
(やぶうち優さんの『水色時代』で主人公の「優ちゃん」が、
 「タカちゃん」と「ヒロシ君」との間を取り持とうとしたときのことや、
 『みどりのつばさ』で主人公の翠が
 萌と翼との間を取り持とうとしたときのことなどは
 その典型例である)。

だが、本書では そうは ならない。
トキオとの間に結ばれたこの「男の約束」(本書86ページ)に、
一葵は終始忠実に行動する(本書106、114~117、150~158ページ)。
それも、「しぶしぶ」ではなく相当「積極的に」、である。
彼はトキオと絵梨との間がうまくいくように、
できうる限りの努力を惜しまない。

このあたりが星河一葵という男の子の
不思議なところでもあり、魅力でもある。
「恋愛」や「友情」といった“形”にとらわれすぎると、
どうしてこのような行動が可能なのかと
訳がわからなくもなる。
だがしかし、
ここで登場する概念がまさに「絆」、
すなわち「絶ち難い一体感」なのである。

■一葵の持つ、真の「天性の才能」とは
確かに一葵が絵梨に対して、
当初「一目ぼれ」に近い感情を抱いていたことは疑い得ない。
しかし同時に、
いやそれ以上に一葵は、
トキオや絵梨に「絆」――断ちがたい一体感――を感じるようになっていた。
トキオの幸せが一葵の幸せであり、
絵梨の幸せが一葵の幸せなのである。

一葵たちの学校の校長を務める露里浩紀は、
一葵が持っている「天性の才能」として
次の2つを指摘している。
1つは「役になりきれる」才能であり(本書101ページ)、
もう1つは「周囲にいい影響を与える才能」である(本書206ページ)。
ここに僕がもう1つ付け加えることが許されるとすれば、
「他者に絆――断ちがたい一体感――を感じることができる才能」
を挙げることができるだろう。
いや、
むしろ これこそが根源的な一葵の「天性の才能」であり、
露里校長の指摘した上の2点は、
ここから派生した2つの側面、
いわば「副次的な才能」であると言えなくもない。
(他者に対して容易に「一体感」を感じることができるから
 一葵は「役になりきれる」のであり、
 一葵が他者に一体感を抱いて接するからこそ、
 彼は「周囲にいい影響を与える」ことができるのである)。

彼の本当の才能は、
他者に対する共感能力にこそある。
他者との絆を感じることのできる才能こそが、
一葵に与えられた最大の「天性の才能」であったのだ。

ため息が出るほど見事な、
胸に迫るこの感動作を、
一人でも多くの人にぜひとも読んでもらいたい。

《進む》
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by imadegawatuusin | 2006-09-28 21:49 | 漫画・アニメ