人気ブログランキング | 話題のタグを見る

TMC裁判:「実習生」リエンさん、本人尋問に臨む

――6人の訴え、「研修生」制度を揺るがす――

■セクハラ・パワハラ・差別的言動などを乗り越えて
10月3日、
名古屋地方裁判所で、
トヨタ自動車下請け会社・TMCのベトナム人「実習生」
リエンさんに対する本人尋問が行なわれた。
以下の本人尋問に関する記事は、
名古屋労災職業病研究会の機関紙・『もくれん』32号に掲載された、
労職研事務局長・繁野芳子さんの記事に依拠したものである。
(リエンさんの発言や証言内容、
 TMC側弁護士の尋問内容などは全てこの記事から引用している)。

まず午前中は、
原告側弁護士が質問し、
リエンさんがこれに答える形で進行した。

リエンさんたちTMCのベトナム人「実習生」らは、
職場や寮においてセクハラ・パワハラ・差別的言動など
度重なる人権侵害を受けてきた。
パスポートも健康保険証も取り上げられ、
給料もかなりの部分を会社側が強制「貯金」。
(しかし、その「貯金」部分を計算に入れてすら、
 最低賃金法の最低基準に達しない。
 現在の外国人「研修生・実習生」制度のもとでも、
 本来、
 1年間の「研修生」期間を終えて
 「実習生」に昇格した後の期間については労働者性が認められており、
 最低賃金法の適用を受けるとされている)。

こうした現状に耐えかね、
リエンさんをはじめとするベトナム人「実習生」6人は
ついにTMCにおける数々の人権侵害を告発、
全統一労働組合全労協加盟)に結集した。

愛知においては名古屋労災職業病研究会の杉浦医師を中心に、
名古屋ふれあいユニオン浅野委員長や僕を含む
5団体・10個人が「TMCのベトナム人実習生6人を支える会」を結成。
現在は団体としての名古屋ふれあいユニオンも、
会員として彼女たちの闘いを支援している。

本人尋問の中でリエンさんは、
低賃金・長時間労働の中で食費を切り詰め、
「お前ら人間ではない。
 動物だ」などと怒鳴られながら
ベトナムに仕送りを続けてきた労働実態を語り、
最後に、
「(この裁判で)失ったことを取り戻したい。
 私たちの状況をよく見てほしい。
 私たちと社長との関係がどんなものか理解してほしい。
 組合と会社と私たちの関係を
 正しいものにしてください」と語って訴えを終えた。

午後は被告側弁護士の尋問だ。
内容は、
午前中の原告側弁護士からのものとほとんど同じ。
ただし、聞き方はずいぶん違い、
「健康保険証の役割を知っているか」、
「それが手元になくて不便に感じたか」、
「パスポートは会社に預かってもらった方がよいと言われたか」
などと尋問した。

TMC側弁護士は最後に、
「お母さんとよく相談して、
 頑張ってほしい」とリエンさんに語りかけ、
尋問を終えた。

このTMC側弁護士の言葉は、
一体どのような心情から出たものなのだろうか。
ベトナムからやってきた若い女性へのささやかなエールのつもりなのか、
敵・味方の関係を超えた暖かい思いやりの現われなのか……。

だが、
少なくとも僕はそうは思わない。
それは、彼女たち6人が勇気を持って立ち上がったとき、
ベトナム政府が彼女らの親御さんたちに
次のように言って圧力をかけた事実を知っているからだ。

「お宅の娘さんは、
 日本でマフィアのような労働組合に入ってしまった。
 お母さんの力で、
 何とかやめさせることはできないだろうか……」。

遠く日本で働いていると思っていた娘が、
何と「マフィアのような労働組合」に入ってしまったと
政府に聞かされた親御さんの気持ちたるや、
一体どのようなものであろうか。
何としてでもそのような組合は抜けさせようと
必死になるのが当たり前ではないだろうか。
TMC側弁護士の言う「お母さんとよく相談して」とは、
そのような状態に置かれているお母さんと相談して
態度を決めろということに他ならないのである。

しかしリエンさんは、
労職研の繁野さんに このように言っていたという。
「私はもう大人です。
 自分の行動は自分で責任を持ちます」。

これについて繁野さんはこう書いている。

この彼女の言葉と青山弁護士(酒井注:=TMC側の弁護士)の言葉の違いは
どこから来るのでしょう。
リエンさんには凛とした姿勢があります。
尋問当日、
長時間をしっかりとした口調で受け答えしました。
23歳の女性を一人前に見ない弁護士の言葉そのものが、
彼女たちを一人の人間として扱わない、
TMCや日本の外国人研修・技能実習制度の人間軽視に
つながっていると感じるのは、
先鋭すぎるでしょうか。(名古屋労災職業病研究会『もくれん』32号)


■元入管局長も「研修生制度、直ちに廃止を」
10月21日、
トヨタ自動車のお膝元・愛知県豊田市で、
元名古屋入管局長の坂中英徳氏が講演、
こうした非人道的な外国人「研修生」制度の即時廃止を訴えた。
外国人を「取り締まる」側にいた元入管局長の発言とあり、
一部で衝撃を広げている。

坂中氏は講演会「今後の外国人政策を考える」の冒頭で
TMC裁判について触れ、
「いい加減なことをしていると
 大企業でも命取りになる」と
この間のトヨタの姿勢を批判。
研修生として外国人を低賃金で働かせるのは
「直ちにやめるべきだ」と断言し、
「(酒井注:外国人の)定住促進のためには、
 大企業や国が責任を持って
 日本語や技能を教育しなければならない」とした(朝日新聞名古屋版10月22日)。

リエンさんら6人の訴えが今、
日本の外国人「研修生」制度そのものを揺るがしている。
リエンさんら6人の勇気が、
かつては外国人を「取り締まる」側に身を置き、
今は外国人政策研究所の所長をしている坂中氏をして、
外国人「研修生」制度の即時廃止を言わしめているのだ。

TMC裁判は、
単に一企業における人権侵害を問う裁判ではない。
TMCから親会社の東海クラフト――東海理化――トヨタ自動車と連なる、
彼女たちの犠牲の上に成り立っている
トヨタ生産構造のあり方を問う裁判であり、
また、
外国人「研修生」制度そのものの是非を問う裁判なのだ。

労働者が労働者として扱われない、
いや、
人間が人間として扱われない この外国人「研修生」制度を、
僕たちは何としても廃止に追い込まなければならない。
そしてこのことは、
僕たち「普通の日本人労働者」にとっても
決して他人事ではないのである。

もしも、
時給1270円で自動車産業で働く日本人派遣労働者の僕の隣に
時給300円で同じ仕事をする外国人「研修生」がいるというようなことになったとき、
経営者側の立場に立てば、
時給1270円の僕を切りたくなるのは
むしろ当然のことと言えよう。
彼ら/彼女らの労働に対して、
せめて法に定められた最低賃金を保証するということは、
つまるところ僕自身、
日本人労働者の雇用を守ることにもつながるのである。


【関連記事】
外国人「研修生・実習生」問題学習会に参加
トヨタ系ベトナム人「実習生」裁判報告会
豊田協同組合・TMC、ベトナム人実習生らに和解金



10月28日(日)13時
「貧困なくせ!!!街頭大行進」(三越前・栄広場)に結集を!
反貧困名古屋ネットワーク主催



労働組合名古屋ふれあいユニオン
雇用形態や国籍に関わりなく、
愛知県下で働くすべての労働者が一人から加盟できる
地域労働組合(コミュニティユニオン)。
コミュニティユニオン全国ネットワーク
コミュニティユニオン東海ネットワークにも参加。
今年3月に開かれた第9回定期大会では、
連合産別・全国ユニオンへの加盟について討議するとする活動方針を採択。
日ごろから組合員の学習会や交流会・相談会などを
積極的に企画しながら活動している。
現在、組合員数約200名。
組合員は組合費月額1500円。
賛助会員(サポーター)は年会費5000円。
住所:〒460‐0024
    名古屋市中区正木4-8-8 メゾン金山711号室
    (JR・地下鉄・名鉄金山駅下車 名古屋ボストン美術館の向かい)
電話番号:052‐679‐3079(午前10時~午後6時)月~金
ファックス:052‐679‐3080
電子メール:fureai@abox.so-net.ne.jp
郵便振替 00800‐8‐126554
ホームページ
http://homepage3.nifty.com/fureai-union/
by imadegawatuusin | 2007-10-22 09:46 | 労働運動
<< 日系南米人「派遣」会社との団交に参加 日研総業:新規採用 打切り後も... >>