やぶうち優『少女少年』第一期各話解説(第1話)

第1話 春の妖精
表題の「春の妖精」は
超人気アイドル・青野るり主演の
ドラマの題名なんですけど、
同時に、
彼女の歌うヒットソングの曲名でもあるわけですね。
ドラマの主題歌として作詞・作曲されたものなのか、
それとも歌のヒットに合わせてドラマが作られたのかは
わかりませんが。

お話は主人公である水城晶の友人の、
「おーい晶!
 きのーの『春の妖精』
 みたかー?」で始まります。
ちなみに、
ホームページ・「yuuの少女少年FANページ」を主宰するyuuさん
このシーンについて、
「それよりこの場面、掃除だと思うのだが晶は何にも持ってないんだよな~
 もしかしてサボりか?」
と鋭いツッコミを入れていますね(「感想 少女少年-MIZUKI-」)。
友人AやBでさえ、
モップぼうきを持っているというのに……。
(この二人は「持ってるだけ」かもしれませんが……)。

しかし初っ端(しょっぱな)から、
赤沢智恵子の「アイドル嫌い」ぶりは
ちょっと異常なものがあると思いませんか。
その語り口も、

「あーゆー人って、
 自分のこと
 かわいーとか
 おもってるっぽいし。
 TV(テレビ)では
 いー子ぶってても、
 ウラではゼッタイ、
 わがままで
 いー気になってるに
 決まってる!」

と、まるで特定の人物を
念頭に置いているかのような、
見てきたのかと思うほどに具体的。
何かアイドルに関して
過去にトラウマでもあるんでしょうか。

さて、
晶が家に帰るとお姉ちゃんの水城瞳が
大音響で歌を歌っています。
ここで瞳が
「外までまるぎこえ」の
「すっげー」音量で歌っていることを強調することで、
その後そのマイクをそのまま受け取った晶の歌声が
戸外まで筒抜けであったことに合理性を与え、
村崎ツトムを引き寄せるシーンを
自然な形で導き出しています。
(ま、姉の瞳の
 「いつもの
  アレ!
  るりちゃん!」の一言で、
 その音量のまま歌い出す晶も晶ですけど。
 しょっちゅう歌ってて
 すっかりクセになっちゃってるんでしょうか。
 だとするとかなりの末期症状……)。

ちなみに、
このときお姉ちゃんが歌ってる歌は
作者の やぶうち優さんが
代表作・『水色時代』のイメージソングとして作詞・作曲した
「勇気を出して」という曲だったりします
(ポニーキャニオン「水色時代/やぶうち優オリジナルアルバム」収録)。
自分で作詞作曲した曲だからか、
漫画でポニーキャニオン発売のCDから無断引用(?)しても、
JASRAC許諾番号は記載されていません(笑)。
(非常にテンポのいい曲で、
 お姉ちゃんがノリノリになって歌うのもわかります)。

肝のすわったことにやぶうち優さんは、
『分かったうえで』これをやっているんですよ。
それが証拠に、
『少女少年』第一期と同じ時期に
小学館の少女漫画雑誌である『ちゃお』で
やぶうち優さんが連載していた
『おちゃらかほい!』の中に、
主人公の早乙女茶織が
こんなことを言うシーンがあるんですね。
「知らないの!?
 まんがの中で
 歌をうたうと
 “使用料”
 払わなきゃ
 いけないのよ!」

さらにご丁寧なことに、
そのとき作中で歌われていた
「うれしいひなまつり」のJASRAC許諾番号を
枠線の外に明示して、
「ほら よく
 こーゆーとこに
 あるでしょ
 こーゆー
 数字のら列
 みたいなのが!

 これが
 “使用料払って
  ますよー”って
 しるしなの!!」

とまで言い切っているんです。

ということは、
「勇気を出して」に関しては
JASRAC許諾番号がない以上、
「使用料払ってません」ってことなんですね。

「使用料云々」の問題をわかった上で、
「自分で作詞作曲した歌の歌詞を
 使えばいい」っていう発想の転換ができるところが
やぶうち優さんのすごいところです。
(作品の中で白川みずきが歌う楽曲に関しても、
 既存の歌謡曲を使用するのでなく、
 やぶうち優さんが自ら作詞作曲を手がけているのも、
 実は同様の理由からだったのかもしれませんが、
 いずれにせよ、
 そのことによって作品の深みが増しているのは確かで、
 喜ばしいことだと思います)。

あ、あと、
白川みずきのロングヘアは
「お母さんのカツラ」だったんですね。
予告編では村崎ツトムが晶に対し、
「キミが
 美少女アイドル
 白川みずき
 だってことは
 キミと
 キミの家族と
 ボクだけの
 秘密だからね」と言っており、
晶の「お母さん」も
このことは当然知っていたわけですが、
この後 約1年間、
息子の女装のためにカツラを貸し続けた「お母さん」は、
いったいどんな気持ちで
「白川みずき」(自分のカツラをつけた息子)を
見ていたのでしょうか。

さて、それはともかく、
ここでいよいよ村崎さんが登場ですね!
晶のうたごえを聞きつけて、
家の中を覗き込み、
晶を見出したわけです。
一種、「運命の出会い」ですよね。

ルックスも
 まあまあだし、
 イケる…!」と踏んだ村崎さんな訳なんですが、
晶を口説くときには
「キミみたいなコを
 さがしてたんだよ!
 天使のような声!
 みずみずしい
 ルックス!」と、
ずいぶんと調子のいいことを言ってます。
声はともかく、
ルックスは「まあまあ」だったはずなんですけど……。
これもプロのスカウトの
テクニックでしょうか。
(ちなみに、
 「ルックス」というのは「顔かたち」のこと)。

あと、村崎さんが水城家の玄関チャイムを押すときの描写が
楽しいですね。
晶には
「アホみたいに
 鳴らしやがって」と さんざんな言われようですけど
(しかしそう思いつつ、
 このときの晶はそういう感情を一切表に出さないで、
 あくまで接客スマイルに徹してドアを開けていますね。
 この根性は芸能人向き)、
「ピンポン
 ピンポ
 ピンポ
 ピポ
 ピポ
 ピポ
 ピポ」と、
鳴らすたびにだんだんチャイムを押す「間」が短くなっていくあたりに、
彼のすっかり高ぶった精神状態を
感じることができますね。

さて、問題は村崎さんです。
玄関から出てきたばかりの女装晶に
いきなり腕をつかんで
「キミ!
 アイドルに
 ならないかい」とくるんですから、
お姉ちゃんに
「きゃーっ
 ストーカーよ
 ストーカー!」って騒がれるのも当たり前。
「ま…ま、
 まってくれ!
 アヤシイ者じゃ
 ないんだ…!」と大慌ての村崎さんですけど、
十分アヤシイ。
『少女少年IV-TSUGUMI-』なんかを見ても、
この人、「理想のアイドル」を捕まえるためには
ストーカーまがいの行為も平気でするようなところが
ありますね。
(いつか本当に逮捕されるんでは……)。
その後、
「キミをぜひ
 スカウト
 したい」と言ってるときにも、
また気安く「女の子」の肩に手を……。

で、
その後の「ずる…」ってカツラを取るシーンは、
描写が妙にリアルです。
確かに、
カツラを取るときって、
こんな風になりますね。

ちなみに村崎さん、
このときは
「オレ
 男なん
 だけど…」と言われて大ショックを受けて、
相当迷ったみたいですけど、
そのうち『少女少年IV-TSUGUMI-』ぐらいになってくると
達観して、性別なんか全然気にしなくなってくる。
人間、「慣れ」とは恐ろしいもんであります。
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by imadegawatuusin | 2006-08-30 20:03