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個室ビデオ店火災:「現代のドヤ」での惨事

――犠牲者にも「働く貧困層」――

■容疑者:住居転々「生きるの嫌に」
大阪・ミナミの個室ビデオ店で
1日未明に火災があり、
15人が死亡、10人が負傷した。
大阪府警は同日午後、
利用客の無職・小川和弘容疑者を
放火の疑いで逮捕。
電器関係の下請会社をリストラで退職後、
最近は住居を転々として生活に困窮していたという
46歳の容疑者は、
「生きるのが嫌になった」などと供述しているという。

■被害者:訪問介護、個室ビデオ店から「出勤」
だが、
実際に死んだのは小川容疑者の方ではなく、
その他の客の方だった。
特に、
「個室エリア」内の奥の部屋に犠牲者は集中。
15人の死亡者のうち、
12人が小川容疑者の部屋より奥で見つかっている。
うち9人は部屋の中で死亡しており、
「仮眠」中に被害に遭ったと見られている。
残る3人は廊下で、
うち1人は突き当たりで発見されており、
逃げ出す途中に「袋小路」に迷い込み、
息絶えた模様だ(毎日新聞9月3日)。

注目すべきは犠牲者の中に、
「住所不詳」の50代男性がいることだ。
事業を経営していたが、
巨額の借金を抱え、
個室ビデオ店を住まいにするようになった。
「午後11時以降なら料金が安い」と話していた。
現在は訪問介護会社に勤務。
「まじめでよく働いてくれていた」、
「お年寄りの入浴など
 体力が必要な仕事を
 進んで引き受けてくれた」と
同僚も語る(読売新聞9月3日)。
事件当日も、
夜が明ければ大阪市西成区の高齢者宅に
個室ビデオ店から「出勤」し、
訪問介護をする予定だった。
ヘルパー2級の資格を習得し、
職場の貴重な戦力だったといい、
次は介護福祉士の資格を取ろうと
勉強を続けていた(朝日新聞9月3日)。
個室ビデオ店がまさに、
こうした働く貧困層の
仮の宿と化していたことがわかる。

■深夜営業の個室店舗は「宿泊施設」
しかし、
個室ビデオ店はあくまで
「ビデオ鑑賞施設」という建前だ。
火事などがあっても
客は基本的に起きているという前提で
施設が設計されている。
それが証拠に個室ビデオ店には、
「ソファ」や「リクライニングチェア」はあっても
ベッドはない。
布団が置いてあるわけでもない。

とはいえ実際には、
「座るソファ」とは別に「足かけソファ」も
同じ個室の中にあり、
頭をソファに、
足を「足かけソファ」に横たえれば
横になることは可能である。
また、
「布団」はなくても
「ひざかけ用」の毛布はある。
内側から鍵もかけられる。

大体、
午前3時に利用客全員が
「ビデオ鑑賞」をしているなどという前提が
どだい馬鹿げているのである。
事件現場は1晩1500円で宿泊できる、
「現代版のドヤ」だったのだ。

一定規模以上のホテルには
スプリンクラーの設置などが義務づけられている。
だが、
「ビデオ鑑賞施設」である事件現場には、
この規制が及ばなかった。
店側が、
定期的に利用客の避難誘導訓練などを
店員に対して行なっていたのかどうかも
はなはだ疑問だ。

はっきり言って、
深夜に営業する個室店舗は
すべからく事実上の宿泊施設と見なすべきだと
私は思う。
不特定多数の人々が
寝泊まりしている実態がある以上、
一般の娯楽施設より厳しい管理体制が求められるのは
当然だ。

最悪なのが、
「横になれるから宿泊施設」、
「毛布があるから宿泊施設」というような
小手先の定義の新設をもって対応し、
結果として、
インターネットカフェや個室ビデオ店から
リクライニングチェアや足かけソファ、
毛布などを撤去させてしまうことである。
そこには、
1日の労働を終え、
明日へのリフレッシュのために睡眠を取る、
働く貧困層がいる。
そのことだけは、
絶対に忘れてほしくない。
by imadegawatuusin | 2008-10-02 23:12 | 暮らし家庭
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